第40話 計画はあくまで計画・・・・(前)

 まいったなぁ。

 それが僕の心の声。

 目の前の光景を見て、こっそりため息をついてしまったよ。

 そう。

 目の前で、ナハトとプジョー兄様が、なぜか固い握手をしているんだ・・・・



 事の起こりは、ナハトが到着して数日後。

 僕は、養成校に登校していた。

 えっとね、治世者養成校の生徒は従者が付き添う必要がある。で、僕の従者って形でバンミとバフマがついてきていたんだ。

 僕とラッセイを含めて4人。プラスでドクが、特に講師たちの動向を調査する感じ?


 ここでも、浮き上がる南部関係者。

 僕たちがひいき目で見ちゃってるかも、なんていう不安もあるんだけどね。

 行方不明者、うん、亡くなったり生存確認できた以外の被害者を、そう呼ぶとして、行方不明者ってくくりにしたときにね、仲良しの人に何故か南部出身者が多いって分かったんだ。

 そのうち何人かは、在学してる。主に剣使養成校の生徒として、在籍中だってことが分かったんだ。


 仲良しさんがいなくなって、卒業した人もたくさんいる。

 心の病、ってことなのかなぁ、って心配する人、多数。

 行方不明者の友達に南部の人が多い、ただそれだけで怪しいっていうのもおかしいけどね、割合の問題と、試験官の問題が出てきたんだ。

 だってね、南部出身者の生徒なんて、1割も満たないんだよ?

 ディルさんやリークさんに聞いたら、南部では、養成校にくるぐらいの年の、腕が立つ子供は、基本的には魔物の討伐隊に駆り出されるんだって。しかも、討伐隊に駆り出されるのは名誉なことだから、みんな喜んで参加する。だから、わざわざ王都に出て、学校にまで通って剣を学ぼうって考える人は少ないんだって。

 ここに来るのは、南部を出て別の環境で暮らしたい、辺境で危険な戦いに身を投じるよりも、華やかな王都やなんかで、楽にお金を稼ぎたい、っていう人がほとんど。どっちかっていうと騎士とは真逆の心根の人が多いんだって。

 そんなこともあって、ほとんどの場合、南部では、剣使養成校に行くなんてのは、負け犬のすることっていう認識が強いのだそうです。

 あ、領主とか偉い人から、王都の文化っていうのかな最新技術を盗むために、または有力者と顔を繋ぐために、ってことで派遣される子供たちは、別、らしい。一応、表面上はディルさん達はこっちのルート、だって



 そんな環境にもかかわらず、近年は南部出身者が多いなぁ、ていうのが講師たちの感覚みたい、ていうのがラッセイやドクといった先生組の集めた声。

 僕ら生徒側が集めたのは、南部出身者の生徒は、魔法に興味を持ってるらしい、ってことかな。違うか。魔導師としての才能を持つような、魔力の多い子に関心があるみたい、ってことだね。

 パターンは同じ。

 わかりやすく、髪を褒めて近づいて来るんだって。


 ちなみにバンミ、声をかけられたみたい。

 かわいい南部出身の女の子。

 僕がいないときの隙間を狙ったみたいだね。

 なんかね、僕には仲良くしてること内緒、なんて言われてるみたい。

 バンミの抱いた感想としては、治世者養成校の生徒からは距離を取りたいけど、従者程度なら問題ないって思ってるようです。しかも、平民なら尚良しって感じ?


 そんな報告会を普通に家でしていたらね、ナハトが、自分も従者として僕につく、なんて言い出したんだ。

 バンミにその女の子サリーちゃんと仲良くして、もしそれが罠ならかかっちゃえ、ってことみたい。バンミなら、多少距離が離れてても僕と念話も出来るし、情報が得られるんじゃないか、ってのがナハトの意見。

 でね、二人以上従者が必要っていうんなら3人でも良いだろうって、自分も従者として学校に連れて行け、って言うんだ。

 ナハト的には、バンミが抜けた穴を塞ぐことと、僕のマナーレッスンを兼ねれて一石二鳥だろう、って言うんだ。


 正直、ナハトのレッスンは、帰宅後だけでお腹いっぱいの僕。

 そういう意味では息抜きの時間なくなるし(本音)、と、学校は十分戦力が足りてるから、別のところを手伝って(建前)、ってことで、最初は丁寧にお断りしてたんだけどね、実際、バンミの穴を埋めなきゃなんないほど、学校に脅威なんて感じないし。

 ナハトには僕の気持ちはバレバレで、僕と交渉せずに、アンナに直訴しちゃったんだ。今、王都の居残り組の指揮を取っているのって、レーゼのお守りをするために残ったアンナだからね。

 アンナは、ナハトの従者追加を快諾。

 従者3人体制での登校を始めることになったんだ。


 これに何かあるんだろうな、って勘付いたのは、同じ教室で学んでいるポリア姉様だった。

 僕が事件の調査ってことで、学校に通っているのは、もちろん知っている。

 それでも、僕に学校にいる間は普通に生徒しなさい、って、いろいろ教えてくるんだけどね。


 「これはどういう状況なのかしら。」

 ナハトとバンミを両横に、ちょっと後ろにバフマが控えて登校したら、姉様がめざとく見つけて、そう聞いてきたんだ。

 「えっと・・・教育係?」

 姉様はちょっと考えると、僕を人気のないところまで引っ張って行って、

 「ひょっとして、戦力増強って感じ?」

って聞いてきたんだ。

 「何か進展があったってことかしら?」


 基本的に、事件の進捗について姉様の耳には入ってないんだと思う。

 パクサ兄様はもちろん調査責任者で情報共有してるし、プジョー兄様もある程度報告を受けているだろう。だけど、未成年でまだ学生の姉様は、僕が事件の調査に潜入しているから便宜を図ってね、って言われてるだけで、実際の情報は手に入れてないはずなんだ。

 だから、僕の周りに人が一人増えた、ってことだけで、何か進展があったのかも、なんて思いつくのは、すごいなぁ、って思う。ひょっとしたら揺さぶりかけてるだけかも知れないけどね。


 「初めまして、ポリア・レ・マジダシオ・タクテリア殿下。私は、あるじアレクサンダー・ナッタジ・ミ・マジダシオ・タクテリア殿下に仕えるナハトと申します。先ほど主が申しましたとおり、私は単なる教育係としてこの場に召喚されました。お目汚しかと存じますが、どうかお納めくださいますよう。」

 「ふうん。あなた、うちの子に何の教育を?十分間に合ってるんじゃないかしら?」

 「恐れながら申し上げます。わが主におきましては、礼節その他立ち居振る舞いを学ぶ機会に恵まれず、矮小ながら、私がその任に当たる所存。」

 「いらないわ。」

 「と仰られますと?」

 「アレクはこのままでいいもの。陛下はじめ、父も私たち兄弟もそれでいいと言ってるの。そもそもアレクに社交をする義務がないんだから、のびのびと成長すれば良いのよ。」

 「時と、場合が、ございますれば。」

 「へぇ・・・てことは、フフ、アレク。あなたがこんなタイプを側に置かなきゃなんない、ってのが、近々あるってことかしら?」


 小難しい言い合いをしていたナハトと姉様。

 姉様が急に僕に振ってきて、思わず、「えっと。それは・・・」てな感じで反応しちゃったよ。

 大体ナハトが調子乗りすぎ・・・って、うん、僕が反応したのがトドメです。あーあ。


 で、姉様の命令って形でその日は、お城のおうちにお泊まりってなったんだ。



 そして。


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