第39話 助っ人、到着
「だから、日頃からちゃんと勉強しろって言いましたよね!!付け焼き刃でどうにか出来るわけないでしょうが!!!!いったい何事かと、慌てて駆けつけてみれば、はぁ?貴族っぽい振る舞い?あんたはね、貴族超えて王族なんだよ!!ったく、何考えてるんだ?王子になってどれだけ経ってる?へらへらしない!!あー、だから、ちゃんと教育しろって言ってたんだ。何がナッタジ式だ!だからこんな甘えたができるんじゃないか!!!」
ハハハ。
絶賛、僕は正座中です。
ついでにバンミも横で正座させられてる。
えっとね。
今受けてる仕事の関係で、ママとヨシュアはトレネーへ。
ゴーダンとミランダは、いくつかの場所を巡りつつの、南部はバルボイ領へ先行中。途中で南部との交易が多そうな地域を巡るんだって。
今、僕らが抱えている消失事件なんだけどね、南部にしかいない魔物を使った犯行ってのは、間違いなさそう。
王都ではね、南部に関心のある人ってそんなにいない。世界の果て、未開の地、そんなイメージで、まぁ、田舎者ってちょっぴり馬鹿にしている。
そんなこともあって、南部から王都を訪れた貴族なんかは、舐められちゃいけないってことで、どこの貴族よりも貴族らしい立ち居振る舞いっていうのかな、そういうのに長けている、ってのが、主にプジョー兄様から聞いた話。だから南部の人相手には立ち居振る舞いに気を使うんだ、なんて、誰よりも優雅なプジョー兄様に聞いて、僕はちょっぴり焦っちゃったんだよね。
失踪事件に何らかの形で南部が関わっている。
最終的には、現地に行くしかない、ってのは、早々にみんなの共通認識になっている。もちろん僕も・・・
僕は、治世者養成校の名を使って、演習っていう名の潜入捜査をしようと思ったんだ。
一応先生役のラッセイと、僕の従者役の二人。あとは、冒険者見習いのナッタジ関係者を養成校の生徒だって形で連れて行く。ついでに魔導師養成校校長が引率なら、バレないでしょ。
ただね、僕が探りを入れる相手はきっと貴族とか大商人だと思うんだ。
えっとね、ちょっとした劣等感から、偉い人と会うとか話すってのは、一種のステータス、っていうか自慢になるんだって。
自分で言うのもなんだけど、一応、僕ってば王族で偉い人。地位的には辺境伯っていうのは伯爵級に偉い人なんだけど、王子の僕はそれよりも上。
だから、面会をたくさん申し込まれる、はずなんだよねぇ。
てことを考えて、僕は王子の身分で彼らと接触して、何か手がかりを探そうって思ったんだ。もちろん大人たちに相談して、みんなもそれでいいっていうから、計画を立てたんだよね。
で、困った!って思っちゃった。
簡単な、貴族教育は受けているんだけどね。
けどね、正直身についてない。
僕としては、法的にも貴族の社交なんてやらなくてもいいよ、って言われてるもんだから、貴族らしい振る舞いなんて興味なかったし、実際、やむなく参加したパーティーでだって、普通に話しててOKな感じで、わざわざ貴族っぽい動きとか王子っぽい動きって覚えるつもり全然なかったんだよね。
もちろん、冒険者でも上流社会の人と付き合うから、簡単な社交技術は覚えてるよ。それにうちの人達は貴族出身も多いしね。
でも、みんな良くも悪くもフリーダム。最低限の礼節は行った上で、冒険者だから粗野でごめんね、って言っておけばOKなんて言っちゃう人達。
本物の王家の人と接点はもちろんあるんだけどね。一応家族ってことになってるんだし。本当に可愛がってくれてる。けどね、彼らは逆に問題で、「アレクはニコニコ笑ってたら、態度なんて関係なく社交の花になれる。」なんて言っちゃうんで、話しにならない。
でもね、南部で上手くやろうと思ったら、きっと王子として社交やんなきゃならないと思うんだ。
これは南部に乗り込むんだろうな、なんて思い始めたときから気付いていたこと。そして、そういうことに詳しそうな仲間が一人だけいるって思いついていたんだ。だから、意を決して彼を呼び寄せたんだけど・・・
はい、絶賛、説教中でした・・・
彼の名前はナハト。
もともとは他国の貴族の坊ちゃん。ううん違うな、そういうとまた怒られちゃう。
彼の出身国には貴族はいない・・・ということになっている。
その国のトップはみんなに選ばれたことになっている総統と呼ばれる地位の人。でも実質は王族みたいに世襲制。
で、その国の政治とか軍とか、そういうことに携わるおうちが、まぁ貴族的なうちってことになる。貴族的な家の中でも、リーダーになる家柄と部下になる家柄が決まっていて、子供の頃から親の仕事を継ぐべく精進する、そんな国だ。
ちなみに、リーダーになる家系を上級人民、部下になる家系を中級人民って言うんだって。この国とか他の国では貴族、っていうのと、ほぼ変わんない。
で、このナハト。
上級人民の家庭で育ったお坊ちゃま。
プライドが高く、貴族の矜持っていうのかな、人民を導く者である、なんて本気で思っちゃう人。あ、貴族ってのは、わかりやすい表現で、ナハトとかあの国の人は貴族って言われるのを嫌うんだ。あくまで、能力別に仕事に就いているだけ。貴族なんていう封建的で野蛮な制度の国とは違う、らしいです。実質一緒、なんだけどなぁ・・・
彼と会ったのはバンミと同じ施設で、だった。
バンミにとっては、地獄の施設。
けど、上級人民の子は別。
彼らは、試験を受けて入って来る。多額の寄付、なんてものを手土産にね。
人を導く使命を帯びる彼のような人達にとっては、同じく才能を認められ共に学ぶ下級民たちを、国にとって恥ずかしくないように育てる手助けをしながら上に立つ者として学び、立派な魔導師となるべく学びの場だった、ってことみたい。
彼は、でもね、魔導師としては同じ年のバンミよりもずっと劣っていた。
ナハトの髪色はベージュ。バンミはこげ茶。
それを見れば、バンミの方が優秀な土魔法の使い手って、一目瞭然だ。
けどね、その施設では、ペアを組んで、人の魔力をもらい受ける、っていう技術を開発していて、いわば下級民は上級人民の魔力タンク扱いになっていたんだ。
ナハトは魔力タンクとしてのバンミを、ほとんど物=所有物みたいに思っていたみたい。
バンミは、文句も言わず、ただただ使われていた。心の中では大きな怒りを持ちつつも、表面上は飄々とクールでやる気なさげで・・・
ナハトに命じられることを皮肉な笑みを湛えながら、ただただ淡々とこなす。僕が二人に会ったのは、そんな環境で、だったんだ。
まぁ、そんなナハトも、国の本当に偉い人からは使い捨ての道具に過ぎなかったんだけどね。
魔導師のトップの悪い奴がいて、我が国のとある領を奪取しようと動いたことがあったんだ。
その魔導師、僕を自分の手駒にしようと色々画策したこともあったりして、僕らと敵対したんだけどね。そのときに、ナハトも敵方にいた。まだ彼も成人前の3年ほど前の話だ。
で、そのときにはもうバンミは僕らの仲間で、敵として、もう後がなく見捨てられていたナハトたちと再会した。
子供たちだけの魔導師部隊。そのリーダーとして、ナハトは僕らに拘束された。
バンミはね、ナハトのことはそんなに嫌いじゃなかったんだって。
ただ、バカにはしていた。魔力が弱いってことじゃなくて、つまんないプライドに対して。
「だけどさ、人々を、本気で導き守るんだ、なんて思ってるおめでたい奴なんだ。お願いです。彼を、そして本国に見捨てられた子供たちを、どうか殺さないでください。」
僕の知らないところで、バンミは涙ながらに、そんなことを言ったらしい。
魔導師部隊の子供たちをバンミが面倒を見る、ってことで預かり、そして、争いは終結。なんだかんだで、問題の領が書類上では僕が責任者ってことになったこともあって、ナハトの部隊は、そのままその地に残ることになったんだ。帰る場所なんて、もうなかった、ともいう。
なんか、ナハトとバンミの話し合いがあったらしい。
そして、ナハトはもとその領主の館付執事見習いとなったんだ。
ちなみにその領主の館は、僕が主にされちゃったから、ナハトは僕の直属の部下扱い。そしてなぜか、直属の部下って思われてる人達ってば、自分の仕事が僕の教育係だ、なんてみんながみんな思い込んでいるようで・・・
その館で過ごすときのナハトの口うるさいこと。やれ食べ方だ、歩き方だ、声の出し方、なんてうるさいうるさい。はじめの頃は、鞭まで持ちだして教育しようとするんだもん。鞭はすぐにバンミが取り上げて、ナッタジでは暴力禁止、って教えたから、なんとか助かったけどね。
なんでも、彼らの国では、鞭で教育、が普通らしい。飴と鞭ならぬ、鞭オンリー。だからみんなびくびくしてるんだよ!萎縮したら子供の成長は見込めないよ?
て感じで鞭は諦めてくれたんだけどね、それでも人一倍お説教はキツい。
すぐに、バンミと二人は「ザドヴァ(=ナハトの国)式の教育してもいいんだぞ。」って脅すしね。
そんなこんなで、出会いからも、今の口うるさいところからも苦手な人ではあるんだ。
だけどね、彼はナッタジにものすごく貢献してくれているし、なんだかんだで、僕のことを大事に思ってくれてる、ってのも分かる。
それに、国は違うとはいえ、普通にトップの家族と接するような家で育ち、礼儀作法をたたき込まれた人。外交にも強い家だったらしく、この国の礼儀についても完璧だ。
てことで、彼に王子としての立ち居振る舞いを教えて貰うべく、僕のところにきてもらったんだ。
ちょっぴり怖いナハトだけど、お手柔らかに、優しく色々教えてください。お願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます