第38話 情報を集めよう

 第7ダンジョンでの救出、とは言い切れないけど、まぁ、事件解決のきっかけが掴めたあの日から、しばし後。


 調査団の調査で、いろいろ分かったこともある。


 被害者は今までほぼ遺体で見つかってたか、遺品だけって感じだったけど、想像以上に生存者が見つかったんだ。


 生存者は大体がパクサ兄様と同じパターンで、いつの間にか気を失っていたら、周りの人間がいなくなってた、って感じ。

 やっぱり、、ってショックはかなりのもので、生存者はなかなか学校へ戻るってことができずに、フェイドアウトしちゃって情報がなかったってのが、真相みたいです。

 まぁ、無事で何より、なんだけど、トラウマ抱えちゃってそうで、なんかかわいそうだね。


 ダンジョンだけじゃなくて、町中で消えた子もやっぱりいたみたい。

 家族とか友達が騒いで分かったパターンが今までちょっとだけあったけど、ほとんどは、わざわざ学校にまで問い合わせはしてこなかったもよう。

 なんといっても、学校は王家直轄。庶民、平民が、うちの子どうなりました、って簡単に尋ねていける場所じゃない。普通の人は丘に用もなく立ち入るなんて考えられないんだって。

 せいぜいが、町の治安を預かっているような憲兵さんに尋ねるぐらい。それすらもしない人が多かったようです。


 そんなわけで、調査団の人は、憲兵さんのところにお尋ねをした人を訪ねたり、同期や仲の良かった人でいなくなった人はいないかって、しらみつぶしに聞きに行ったんだ。

 ここ1年ちょっとの、卒業生(養成校に来なくなった人をそういうんだって)をたどる、って感じで、かなり細かく調べ上げているようです。


 そこで分かったこと。


 事件関係でいなくなった人の中には、生存でもなく遺品や遺体も見つからない、がかなりの数いるってこと。

 行方不明者は魔導師養成校の生徒が多く、ついで剣使養成校の生徒。他はほとんどいない、とのこと。

 さらに詳しく調べると、魔力量が多い子で、平民もしくは男爵っていう、まぁ、身分の低い家の子供たちばかりだ、ということ。そんなことが分かってきたんだ。



 商業ギルド発で調べているチームからもかなりの情報が上がってきたよ。


 南部と取引のある商会はかなり多い。

 が、実際のところ、大口の取引は少ないそうで、商人たちの一番の目的は、素材の買い付けと思わせつつの、子弟教育、みたい。

 この前、セリオが連れてきたリコライたちも言ってたみたいに、反応がわかりやすいから、貴族は腹の中でどんなことを思って会話しているのか、それを勉強する場にしているみたいなんだ。


 南部には、領都で商売するような商会から卸すものってあんまり多くないんだそうです。

 高級品とか、欲しがるって感じじゃないし、どっちかっていうと、食料とか武器防具、とか、そんな実用一辺倒。そういうのだったら、地方の領からの方が安く手に入る。

 逆に、南部は未知の森を開拓しているっていうんで、珍しい魔物がいっぱい。

 だからこその、素材を購入に行く、どっちかっていうと仕入れ先、っていう場。

 南部の人からしたら、お客さん、だからね。いろいろと接待してくれるらしい。だからこその、貴族とのお茶会やらパーティー。子供だって参加できるし、子供だけってのも多いんだそう。


 南部からしても、都会の洗練された社交術を持ってる商人たちから学べるしね。貴族教育の実践の場、みたいに思ってるから、まぁ、ウィンウィンってことかな?


 て感じで、王都の商人さんたちは、ズブズブな関係になってる南部貴族とかがない、ってのが、実情みたいなんだ。



 逆に・・・


 王都以外なら?


 なんとなく関係がありそうなレッデゼッサ。

 レッデゼッサっていえば、トレネーの大きな商会だ。って、僕は最近知ったんだけどね。エヘ。

 けど、ナッタジ商会の人達に聞くと、みんな知ってた。

 むしろ僕が知らないって言ったら、ビックリされた。

 だって、ナッタジって領都にあるのは支店だし、僕はほとんどダンシュタの本店すら顔出ししてないし・・・

 はい、自慢じゃないですね。これから、勉強します。

 はぁ、ナッタジ商会王都支店。一応僕は会頭の長男で、開発担当・資材収集担当・その他諸々、それなりに貢献しているんだけどなぁ。

 なぜか、一番立場が下の売り子さんにまで、「ダーちゃまがしっかりしないと、私たちみんな困るんですからね!」なんて、そこそこ長い時間お説教されちゃったよ。

 おかしいなぁ。

 もうちょっと、僕、リスペクトされてもいいと思うんだ・・・


 なんてこと、ありました。


 けど、レッデゼッサってどんな商会?ってのは、ちゃんとゲットできたよ。

 僕が聞けばみんな教えてくれるんだ。ただちょっとお説教が入るだけ。


 えっとね。もともとは布を作る職人さんだったんだって。

 布っていっても、魔物の皮をなめしたやつ。

 途中から、その布を使った服をつくったら、領都のお金持ちに売れたんだって。


 そもそも、魔物製の服って、昔は、冒険者が着るもので、防御力特化って感じだったんだって。今じゃいろいろデザインとかにもこだわってるけど、昔は実用一辺倒。金属鎧じゃ動きにくいから、と作られた物だったらしいんだ。


 だけど、その魔物の皮を使った防具でも、おしゃれなのが着たいっていうある冒険者が、デザインを指定してオリジナルを作って貰った。

 当時、レッデゼッサは、布を売るだけじゃなくて、その布を使った服っていうか、軽鎧的なものを、完全オーダー制で作るようになっていたらしい。

 で、あるとき、レッデゼッサで作って貰ったおしゃれな防具で、その冒険者が貴族の護衛をやったんだって。

 そうしたら護衛をしてもらった貴族さんが気に入って、もっとおしゃれなのをって、自分でデザインをして、パーティー用に作らせたんだ。

 それが大評判になって、皮の金持ち用のドレスとか、男女ともに流行ったってわけ。

 そのおかげで、服飾のお店としてレッデゼッサは、トレネーでも知らない人のいない大店になっていったってことです。

 それに、貴族のお友達が増えたって事もあり、いろいろ、まぁ、お金なんかをたくさん使って、爵位をゲット、馬鹿にしていた他の商人を見下すようになった嫌われ者、みたいです。あらあら。


 てな感じで、売り子のお姉さんに教えて貰いました。

 ちなみに今は、服飾だけじゃなくて、武器や日用品、なんてのも扱っている、前世でいう百貨店的なお店だそうです。


 レッデゼッサが、布の販売だけじゃなくて、服を作り始めたのは、最初は仕方なく、だったんだって。

 デザインとかさ、そういうのが良いからって、防具として役立つかっていうと、それは別の話じゃない?

 防具としての強度はほとんど考えてない、そんなものって、防具を扱う店とか、それこそちゃんとした職人さんは、作ってくれないんだそうです。

 そりゃ防具って言えば命を守るものだからね。必要な強度がないものをプロが売ることはしたくない。

 みんなに断られた冒険者が布やさんに泣きついて、裁縫ができる店員さんが適当にデザイン重視で作っちゃった。ハハハ、この世界、布になっちゃったら皮でも裁縫技術で服やらくつやら、なんでも作っちゃうんだよね。

 まぁ、そのおかげで大店に、って言うんだから、世の中分からないもんだけどね。

 ただ、その珍しい皮を仕入れていたのが、どうも南部から、なんだそうです。


 てことで、実は、レッデゼッサ、南部とのつながりは何代も前からってことみたい。


 もう一つ、これは、ママに報告にやってきた、領都支店番頭のナン兄ちゃんに聞いた話。

 レッデゼッサって、代々魔物の皮を扱うぐらいだから、冒険者とか騎士とか、そういう人との付き合いも多いんだそうです。ただね、そもそもがなんちゃって防具を作っちゃうようなお店。布の質はともかく、武器や防具って言われてもなぁ、って感じで、普通の冒険者からは鼻で笑われてきたみたい。

 いまじゃまともな武器防具も仕入れて売ってるんだけどね、なんとなくレッデゼッサの武器はなぁ、っていう感じで、ちょっと敬遠されがちなんだそうです。

 そんなこともあって、レッデゼッサの武器・防具で身を固めた有名な冒険者、騎士なんてのを追い求めてるんだって。

 そんな中で育ったガイガム君。

 彼はなんとしても騎士、しかも王家直属の近衛になって、堂々と家の武器を使うんだ、なんて夢を持っちゃったんだそうです。


 10年ほど前、小さなガイガム君に、おべっかつかう剣の家庭教師が、ガイガム様は天才です、なんて言って親子ともども喜ばせたらしい。親子共々その気になっちゃって、何度も王都の剣使養成校を受験したんだって。

 最後には意地になって、ここの先生をしている数名に渡りをつけて、無事?合格したガイガム君。


 ガイガム君のプライドは、どうやら南部貴族仕込みってことも、間違いなさそうだね。

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