第37話 二人のお話

 商標とか宣伝袋も僕発だけどね。

 とにかく粗悪品の偽物が出回って大変だったから、いろいろ工夫したってわけ。

 結果オーライ的な感じで、って、僕の話はどうでもいいんだよ。


 そう。

 今回の目的は南部の情報だ。

 そのためにわざわざたくさんの寄ってきた子弟の中から、セリオが選りすぐって家に連れてきてくれたんだからさ。

 本題、入ろうよ?


 「でさ、他の地域のお話ししてよ。僕、今は見習いだけどね、この国中、ううん、この世界中を旅することが夢なんだ。」


 嘘じゃない。

 僕の夢は世界を回ること。

 ひいじいさんも、船で世界一周したいって言ってたんだって。

 家庭を持ったり、商会を持ったり。ある程度自由奔放って言ったって、まだこの世界が、星かどうかもわかんないのに、無期限の冒険には出られなかったらしいけどね。


 ゴーダンがね、聞いたんだって。

 もうちょっとママが大きくなったら、娘たちに完全に店を押しつけて、自分と奥さんで世界一周の旅に出るんだ、ってね。

 そのときは自分たちもついて行かされるんだろうなぁ、って、当たり前みたいに思ってたって。


 フフフ。未だにゴーダンはこの世界が球体で宇宙に浮いてるってことを信じてないみたいです。ひいじいさんだけじゃなくて、仲間の元地球人であるカイザーやモーリス先生、僕が同じ事を言うのに、そんなもんか、と頷きつつ、内心では全然信じてないんだよね。

 だって、何度重力の説明しても、もし星で、地面が丸いな、ら下の人間は落ちるだろ、って言うんだもん。だから重力魔法が使えないんだよ、まったく。


 まぁ、そんなこんなで、二人に僕の知らない土地のことを教えてって、言ったら、喜んでお話ししてくれました。

 さすがは大店の子供たち。庶民と貴族、どちらともお付き合いをしているらしく、想像以上に現地の様子が分かってビックリです。

 まだ成人してなくても、これがちゃんとした商人の跡継ぎの姿かって感心。

 「言っとくが、俺だって、社交はダーよりも何十倍も上手いぞ。」

 セリオをちらりと見ると、そんなことを言ってたよ。

 ハハハ。

 僕ってば、今まで、社交っていってもほとんど主催者の腕の中、なんだよなぁ。

 僕の髪を撫でられる、その特権を見せびらかすってのが目的だったりする人も多いのです。陛下とか、お父様とか、兄姉たちとか・・・

 ちなみに、力を表すものでもある髪。

 特に濃い色の髪に触れるのは、ものすっごく失礼なこと。親しさアピールマックス、の方法でもあるんです。はぁ。



 「南部と王都では、全然違うけどね、何が違うって、あっちはあまり裏表がないんだよね。」

 と、リーゼさん。

 「そうそう。むしろ、裏に何かある、って思われると、小さい奴って感じで馬鹿にされる。だからさ、親父なんかは、裏を見せないように振る舞えってさ。馬鹿にされるようでは修行が足りん。バカ正直に見えるように振る舞って、会話の内容をコントロールしろっていうんだ。」

 「うちも同じかな。南部はわかりやすいから、子供の特訓場所にはいいんだ、って言って、修行中の子供を連れて行くのは、南部と取引ある商会のあるあるだよな。」

 二人はうんうんと頷いてる。


 なるほど。

 裏表がないなら、みんな良い人なんだろうな、なんて一瞬僕は思ったよ。

 生きるに一生懸命だから、みんな本音で助け合って生きてるんだろう。まるでナッタジ村のみんなみたいに。

 ちょっぴり、ほっこりしながら、ニコニコしてたんだと思う。


 僕のそんな表情を見て、二人は顔を見合わせ、プッと吹き出した。

 ん?何?

 「ひょっとして、ダー君正直で良い人ばっかりの場所、とか思ったでしょ?」

 リーザさんが僕を見て言ったよ。

 変なこと思ってたわけじゃないけど、僕ってそんなに心が顔に出るのかな?ちょくちょく、貴族や商人としてはダメダメだぞ、ってセリオやなんかに言われてるんだけど、自覚がないからどうすればいいんだかわかんないよ。


 僕は「違うの?」って、聞いたよ。


 「あのさ、正直なのはいいんだ。わかりやすいし。でもさ、正直すぎるんだよね。」

 「そうそう。子供だけのお茶会に行ったときにさ、平民が俺様とお茶の席に同席するなんてありえん、って、熱いお茶をかけられたことがあったんだ。まだ5歳か6歳のガキが当時9歳の僕に、そんなこと言ったんだよ。もうびっくりさ。だからさ、商人だけど一応男爵家の跡取りだって言ったら、泣き出しちゃってさ。その子、男爵家の次男だか三男だかで、将来はどこかの婿にでもならなきゃ、貴族じゃなくなっちゃうんだよ。そういう意味で、僕より格下だったわけ。そんな僕に無礼をしちゃったもんだから、自分は死ななきゃならないっ、殺されるって、大泣きさ。もう参ったよね。」

 「ああ、あるあるだよな。商人が爵位を持ってるっての知らない貴族も田舎へ行くと多いんだよね。商人の息子ですっていうと、ちょっと舐められる。後で貴族の跡取りだけどね、って言うの、ちょっと快感だったりして、へへへ。」


 まぁ、僕も商人が爵位持ってるなんて知らなかったもんね。

 なんかね、そういうのって、大きな町でしかないみたい。

 半数以上は王都で店を構えるような人だけかな?

 国への貢献がないと、与えられるもんじゃないしね。爵位を与えるのは王様だけだから、どうして王様が気付いた人に与えられることになる。


 もともと冒険者ギルドと一緒で、商業ギルドも国とは独立した組織。

 冒険者に比べて、国への帰属意識が強い人も多いけどね。ほら、上位になるほど、お店を構えちゃうから、移動とかなかなかないからさ。土地への帰属意識も強いわけ。

 まぁ、そんな感じで、国とは関係ない組織に属する人でも、ちょっとでも国を気にして欲しいなぁって思いで作られた制度。

 商人とか冒険者、職人とかの中でも有力者には、国に貢献度が強いからっていう理屈で爵位を与えて、うちの人ですよって内外に主張する、そのための制度みたいです。

 まぁ、こんな制度がもともとあることも、僕が王族になるなんていう無茶が通った背景でもあるみたいだけどね。

 有名冒険者になると、複数の国で爵位とかそれに準ずる位を持ってたりするんだそうです。だからこその王族なんだって。さすがに王族の複数取得なんてないもんね。


 大人でも知らない人がいるのに、子供が知らないのは当たり前。

 商人=平民って思ってるから、正直なだけに、偉そうにしちゃう。

 子供がそういう話をするってことは、そういう教育がされてるからってことで、要注意のおうち、って、チェックできるから、ありがたいんだそう。


 子供の仕事の大きなものの1つとして、顔つなぎ以外にも、大人同士では出にくい、その家の他者に対する態度を赤裸々にする、なんてのがあるんだよ、って教えてくれました。

 ちなみに、そういう子供の家からは、詫びが来たりして、いえいえ成り上がりですから平民みたいなもんです、なんて下手に出ると、気をよくして、いくらでも良いお商売が出来るとのこと、そんなノウハウまできいちゃって、良かったのかな?ハハハハ・・・。


 「そうは言っても、ほぼ真っ二つに分かれるんだよな。領主派と大臣派。領主派はとにかく創意工夫をしつつ、いかに版図を広げるか、そんなことに夢中で、領民に悪い奴はいない、って感じ。逆に外から来た者に対しては、領民を守るためにと、厳しめだね。ただし、誠実だ、と思えば領民と同じように大事にする。」

 「そうだね。大臣派。彼らはとにかく下のもんに舐められないように必死って感じかな。とにかく上から来る。で、逆に身分の上の者には絶対服従。フフフ。そういや以前王子様が遠征に行ったらしいんだけどさ、そのとき、カナニャっていう魔物と遭遇したらしいんだよね。で、王子様が噛んだのか聞き間違えたのかカニャニャって言ったんだって。そのとき、誰もカナニャですって訂正できなくって、それ以来カニャニャって名前に変わったらしいよ。」

 「マジ?」

 「さあ?噂で聞いただけだから本当かは知らないけどね?」


 王子様ってプジョー兄様かな?噛みそうなのはパクサ兄様だけど、南部に行ったことがあるって言ってたの、プジョー兄様だけだったような気がする。それとも、みんな行ったんだろうか?こんど真相を本人から聞いてみよう。



 とりあえず、なんとなく耳にしていたことが、やっぱりそうなんだって、この二人の情報で分かったね。

 それに、ちょっぴり取説的で、聞いてて良かったかも。

 だからって、僕がうまくお話しできる気はまったくしないけど。

 遠征行きそうなら・・・やっぱり彼を呼び寄せようかな?みんなと要相談、だな。


 そんなことを考えていたら、最後、帰るときに、リコライさんが言ったんだ。


 「ほとんどの貴族は簡単だけどね、一人だけ、王都の貴族並みにやばそうな方がいたよ。彼女の一派には気を付けた方が良いかもね。まぁ、悪い人、じゃないとは思うけど。」

 「彼女?」

 「ああ。パティーヌ・フォノペート伯爵夫人。領主の妹君さ。」


 パティーヌ様。

 また、この名前が出てきたよ。

 いったいどんな女傑か、ちょっぴり怖いなぁ、なんて思ったよ。

 うん。やっぱり呼んで貰おうっと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る