第35話 セリオの友達

 「ダー、お帰り。ちょっと俺の部屋へ来てよ。」

 後味悪いマッケンガー先生の授業を終えて、ぶつくさ言いながら帰宅した僕に、玄関で、そう声をかけてきたのはセリオだった。


 こういうのは珍しい。ていうか、初かも。

 あの兄妹は、用があったら、すぐに僕の部屋に押しかけてくるしね。

 僕から行く、しかもセリオから誘われてって、かなりレアだと思うんだ。


 セリオたち一家、つまりは、サンジさん一家が暮らしているエリアは、ちょっぴり奥まっている。僕は荷物だけを自分の部屋に置いて、お仕事するっていうバフマとは分かれ、バンミと一緒に、セリオの部屋に入っていったんだ。



 「こ、こんにちは。」

 「ちょ、ちょいちょい、親戚ってこんな可愛い子かよ。ってこんにちは。お嬢さん。僕は、リーザ。リーザ・ベオクン。ベオクンはご存じかな?」

 入るなり、見知らぬ男の子が2人。

 僕を見て、きょどってるけど・・・・

 今、僕のことお嬢さん、って言った?僕じゃなくてバンミのことかな、ハハハ、ないか・・・

 ちょっと、ムッとしたら、バンミが肩を振るわせて笑ってるよ。

 僕は、ふくらはぎを軽く蹴ってから、中に入って行った。

 あ、セリオも苦笑いしてるし。


 セリオと目が合ったら、慌てて目をそらして、ちょっと怒った顔を作ったよ。

 「おい、リーザ。これのどこがお嬢さんだよ。どこからどう見ても凜々しい少年じゃないか。」

 そういうセリオ。笑いをこらえて鼻が膨らんでるじゃない。

 僕がジト目をすると、慌てて、

 「なぁ、ダー。ダーはものすっごく強い少年冒険者だもんな。な?」


 ハァ、て僕はため息をつく。

 だいたいセリオだって、最初僕を女の子と間違って、プロポーズまでしたよね?調子良いんだから。


 「えっと、僕、ダー。一応10歳の男だよ。」

 「え、男?」

 「え、10歳?」

 二人の声が被ったよ。


 ついにバンミが腹を抱えて笑い出す。それにつられて、セリオまで。

 二人ともひどいよ。

 睨みつつ、ちょっと涙目になっちゃうよ。

 僕だってね、すぐにゴーダンぐらいでっかくごつくなる予定なんだから!

 まだまだ伸びしろしかないんだからね!

 と、思いつつも、ちょっぴりドクの言葉が頭をかすめる。

 僕は「魔力が多すぎて、成長が遅いかも知れない。その分長生きだろうが、」なんて言ってたんだ。

 子供時代が長いのは、かなりイヤかもしれない。

 仲間でエルフの血が濃いアーチャは、15歳ぐらいまで、人間と変わらない成長だった、とか言ってたけど、せめてそのぐらいまで早く成長したいのに・・・


 僕がちょっと涙目になったのに慌てたセリオ。

 「な、なぁ、ダー。この二人、僕の友達。ほら、俺、ギルドの養成校行ってるだろ?そこで友達になったんだ。ほら、おまえ、冒険者になって、いろんな場所に行ってみたい、って言ってただろ?だから、いろいろ行ってるって友達つれてきてやったんだぞ。この二人は、なんと、はるか遠い辺境の地バルボイ領にも言ったことがあるんだってさ。」

 え?バルボイ領?


 僕はマジマジと、セリオを見たよ。

 ひょっとして、早速、何か情報掴んできたの?まさかの昨日の今日、だよ?

 僕の顔を見て、セリオはドヤ顔をしてる。

 僕の親戚、ううん、お兄ちゃん、実はすごいひと?


 僕は、セリオと、二人の友人っていう人を交互に見たよ。

 僕がニコって笑うと、なぜか二人とも目をそらしちゃった。

 この髪?それとも顔?

 僕のこと、まだ男だって信じられない?


 「これ、本当に男だから。あ、俺はバンミ。15歳、こいつと同じパーティの冒険者。ま、ダーは見習いだけどね。」

 「リコライ・ナホトン14です。」

 「リーザ・ベオクン。13歳。」

 二人と、それぞれ握手をするバンミ。

 彼は一応イケメンだし、特に男の子に憧れられるような、ちょっぴりワイルドっていうか、ちょっと人をおちょくってるようなニヒルな感じ。理知的なアウトローっていうのかな?女の子たちは影があって素敵、とかよく言ってるよ。

 僕に対するのとは違う感じで、二人はちょっぴり頬を染めた。


 「じゃあ、証拠見せようか?」

 二人がボーっとしてるのを見て、いたずら心がわいたんだろうな、バンミは僕を片手で抱き上げて、下着ごと、僕のズボンを下ろしたんだ。

 何セクハラしてんだよ!

 僕は、思いっきり、バンミの手を噛んでやったよ。

 まったくもう!!


 「お前ら何やってんの?」

 呆れたように言う、セリオ。

 さすがに他の二人みたいに硬直はしてないけどね。

 「いや、その子たちの緊張をほぐしてやろうかと・・・」

 ニヒヒ、と笑いながら、僕を離して、噛んだ手を僕の前につきだしてくるバンミ。

 小さく「ヒール」って唱えたら、バンミは何事もなかったように、

 「で、俺もここにいる?」

 だって・・・


 どっちでも、っていうセリオに、

 「じゃあ、ガキどもだけでお楽しみに。」

 なんて言いながら出ていったよ。


 自分だって、15になったばかり。成人したばかりだってのに、何、大人ぶってんだろうね。そういうところが子供なのになぁ、なんて思うけど、出ていくときに、僕に対して、頷いたからね。

 セリオが何をしに僕を呼んだか、ある程度気づいていて、状況確認に来たのかも知れないです。


 普段、自分から僕の前に出ないけど、自分しかいなかったら保護者ぶって相手を探るんだよね。


 さっき、わざわざ握手した。


 人に触れる、っていうのは、初対面じゃほとんどしない。特に魔導師ならね。

 感知能力が優れてたら、心が読めちゃったりするんだ。

 逆に敵意がないですよ、とか仲よしですよ、ってパフォーマンスとしての握手やハグは、あるんだけど・・・


 実際、バンミの場合は、警戒心が人一倍だから、簡単に触れたりしない。

 握手をしたってのは、むしろ、バンミから相手を確かめたってことなんだと思う。

 そして、僕を放置して出ていった。

 彼らは、そういう意味でも、合格、ってことなんだろう。

 セリオがそこまで気付いてるか分からない。

 二人にはまったく気付かれてないだろうけど・・・


 はぁ。

 と、僕はちょっぴりため息をつき、でも、せっかくセリオが作ってくれたこの機会、ちゃんと有効に使わなきゃ、って思って、気を引き締めつつ、お茶の席に着いたんだ。 

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