第34話 マッケンガー先生

 1日挟んで次の日。

 僕は、治世者養成校の教室にいた。

 今日の授業は、王国の成り立ち、まぁ歴史だね。そして、魔法の種類とか、魔法陣のこととか。午前中はそんな座学が続いたよ。


 歴史については、まぁぼちぼち。たまに聞いてたしね。

 王族はもともとドラゴン退治した勇者の子孫、なんていうのは昔話として語られてるけど、歴史の時間でも同じように習うんだなって、ちょっと面白かった。


 えっとね、この世界でドラゴンっていうのは伝説の存在なんだ。

 そういう意味では前世と一緒。

 ただね、ドラゴンの遺物って言われるものは確かに存在して、また、どこかにまだ生存してるっていう噂はまことしやかに流れている。

 そりゃ、未開の地の方が多いしね。

 魔物が多い地域なんてのは、そもそも人が入れない。

 物理的に魔物が強いってのもあるけど、場所によっては普通の人を寄せ付けない、濃厚な魔力溜りがあったりして、中には入れないってところもいっぱいあるんだ。

 最近、僕らの間で感心を引いてる南部のお話しも、これを増強してるかも。南に行けば行くほど、人を拒否するように、魔物やら強力な魔素が僕らを阻むんだ。


 だからね、そんな未踏の地には、いまだドラゴンがいるっていう噂が絶えない。

 本当にいたのかってことに加えて、今でもいるのか、そんな謎とロマンがこの世界でもあるんだ。


 まぁ、そんな伝説のドラゴンを、正確にはやっつけたんじゃなくて、封印した勇者ってのが、王家の始祖、とされてる。

 どう考えても養子である僕は関係ない話だけどね。

 ただ、養子でも、王家の者になるには、始祖の血を引いてるってことが条件だってことらしく、僕で言うと、実際問題リッチアーダ家の数代前っていう形で王家の血をとりこんでいるのは間違いないらしい。

 というわけで、僕は勇者の遠い子孫として、王家への参入が認められたってわけ。

 でもさ、僕はともかく、この法を定めたのはひいじいさんを取り込むためって聞いた。ひいじいさんに王家の血?そんなのながれてなさそうだよね。

 僕が王子になるにあたって、しれっと入れた条件って噂もあるんだ。僕は真相は知らないけど。


 魔法の授業の方は、ちょっとは興味深かったよ。なんせ僕は魔法もはじめは独学だった。

 一応、ゴーダンの手ほどき?みたいなのはあったけどね。

 魔法はイメージだ。魔力にイメージをのせろ。まぁ、それだけ。

 それに、習う前から使わなきゃどうしようもない生活だったのは確か。

 はじめは、ミルクによる食中毒で死にかけたとき、ママとテレパシーが繋がったんだ。地球の知識を無理矢理引っ張り出して、なんとか今生存してます。


 でね、僕の場合前世でゲームをした記憶があって、ゲーム的な呪文と、その視覚的効果、ってつながりが、それこそ絵で見るようにイメージできたんだ。うん。某有名RPGからいただいた魔法です。

 イメージの効果って抜群で、この世界の魔法の常識を知る前に、簡易なスペルで強力な魔法が撃てるようになっちゃった。

 そういうこともあって、普通の魔導師が考える魔法と僕のとはちょっぴり違ってたりするんです。

 で、今更詠唱を長々と唱えて、いろんな段取りがあってからの、しょぼい魔法、なんてできないでしょ?

 このあたりは校長のドクから伝えられてることもあり、単独行動を近くでしててもおとがめなし。なんかちょっぴり羽を伸ばせられる、けどね。

 みんなが教えられてる長い詠唱を聴くのも、覚えなくていい僕としては、なかなかオツなもんです。



 午後からは剣使養成校に向かいます。

 今日はなんとマッケンガー先生の授業。

 当然に剣使養成校との合同訓練になる。

 僕ら治世者養成校側からしたら、兵士たちをうまく動かす訓練ってことかな。

 できれば勝手に考えて戦って欲しいなぁ、なんて思ったよ。


 マッケンガー先生の授業は、僕らには微妙だったよ。

 剣使養成校のみんなが命令どおりに動く練習。

 前で、「敬礼。」とか「右へ!」「前進!」「止まれ!」なんて命令するだけ。

 声が小さいと怒られるけど、僕以外は魔法で大きく声を飛ばすことができて、便利だなって思った。

 そういや、ゴーダンとか、妙に遠くからでも声が通るときがあったっけ?

 ひょっとして、あれってこの魔法なのかな?

 風かなんかに乗せてるのか、ちょっとわかんない。

 姉様が後で教えてくれる、って言ってました。



 僕が気にしていたのは、もちろんマッケンガー先生だ。

 一応、ガイガムも参加してたけどね。

 ときおり僕のこと睨んでたのは、やっぱり僕が奴隷として会ったことがあるからだ、ってリークに教えられた。

 僕がまだ赤ちゃんの時だけど、向こうはすごく覚えているらしい。

 やっぱりこの髪は、この世界の人にとっては、忘れられない魅力を持つらしいです。


 なんかね、小さなガイガムは、赤ちゃんの僕と会った後で、僕のことをねだったらしい。

 奴隷っていえば物と同じ。普通に売り買いされるものだからね。

 あいにく売ってもらえず、悔しい思いをしたんだってさ。

 その、欲しくて欲しくてたまらなかったおもちゃが目の前にいて、自分より偉くなっちゃった、なんて、我慢ならないようだ、ってこれも、先日リークから聞いた話です。


 当時の主人が言ってたよ。あの頃、本当にたくさんの買い取り希望者がいて、ものすごく鼻が高かったんだってさ。ママと僕、二人セットだと、国家予算だ、なんて笑ってた。

 うん。彼とは、今はなんとなく仲直りしてる。僕の産まれた町の代官をやっていて、今じゃ奴隷解放主義者の先鋒みたいな立ち位置になってます。人は変わる、教えてくれた人です。



 で、肝心のマッケンガー。

 まぁ、差別主義者ってすぐに分かる。

 まず治世者養成校の生徒と剣使養成校の生徒との扱いの差は歴然。

 治世者養成校の生徒に対しては、むちゃくちゃ丁寧で、なんだったら卑屈なぐらい。

 逆に剣使養成校の生徒に対しては、偉そうってのを通り越してる。前世の記憶で、まるで鬼軍曹、って感じかな?

 しかも、剣使養成校って、多くの身分の人が渾然一体なんだけどね、きっちりとその中でも分けてる。

 そりゃ、パクサ兄様は剣使養成校を出てから、治世者養成校を去年卒業したんだ。王族だっている。貴族もいれば、商人や農民なんていう平民もいる。そして、奴隷も・・・

 奴隷の場合は、主人を守るための伎倆を身につけさせようと送り込まれるんだって。

 マッケンガー先生の目には、奴隷は映らないようだけどね。ハハハ、先生が生徒をガン無視って、意味わかんないよ。


 お話しでは聞いていたけど、本当にマッケンガーって人は差別主義者なんだね。

 でも、そんなのでクレーム来ないのかな?って心配しちゃうよ。

 なんだかんだ言っても、僕ってそれほどの差別主義者って見たことないから、逆に新鮮です。


 はじめの奴隷時代は赤ちゃん過ぎてまだ働かされる以前だったし、そのあとは、例のダンシュタの領主になった貴族が主人になった。で、その頃の主人は、魔力のありそうな美人さん(自分で言うのもどうかと思うけどね)を集めて、ただコレクションとして、貴族や有力者に見せびらかすのが好きな人だったから、見世物として愛でられたり褒められたりしてたんだ。

 そんなわけで、奴隷としてひどい扱いの経験はない。

 そりゃ最初は食べるのにも苦労する赤ちゃん時代だったけどね。

 でも、そもそもその貴族のところにくるまでは、周りに奴隷しかいなかったから、そんなもんだって思うし、差別も何も起こらなかったってのも大きいかな?


 貴族からゴーダンたちに救われ、そのあとはずっと家族として仲間としてやってきた。奴隷はそこでもう卒業して、見習い冒険者として、そしてゴーダンっていうビッグネームの被保護者として、ずっと誰からも可愛がられたから、ほんと、周りでここまで人を差別するってのはいなくて、逆に新鮮だったりします。


 ただね、人に上下はないと思う。そりゃこんな世界だし世の中だ。

 前世でさえ、平等って言ったって十分に差別はあった。

 性別とか、お金とか、学歴に、容姿なんかも、差別のもとだった。

 完全な平等なんかない。努力がいつも報われるとも限らない。

 でも、やっぱり根本では、他人に対するリスペクトとか、思いやりはあって欲しいし、みんなにあると思いたい。

 そんな僕の願いを、真っ向からあざ笑う、そんな風に見えちゃう人が、目の前で怒鳴ってる。


 何が彼をそうしたのか、僕に理解出来るんだろうか。

 僕は、ふと後ろで控えるバンミを見たよ。

 人はわかり合えるはず。

 バンミを見て、ある人物を思い浮かべた僕は、マッケンガーが生きた、その今までに思いを馳せたんだ。

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