第33話 家族って・・・
「ダー、ちょっといいかな?」
お話しが終わって、僕が自分の部屋へ行くと、後ろをついてきたセリオが言った。
セリオだけじゃなくてピーレとルーカスさんも一緒だ。
なんだろう?って思ったけど、断る理由はないし、どうぞって迎え入れる。
「へー、住人が変わると変わるもんだねぇ。」
ルーカスさんが、興味深げに見回す。
このお部屋、一人部屋にしてはむちゃくちゃデカい。
なんとなく、誰かがいる時が多いので、テーブルセット、椅子が6客もあるやつ、が置いてあるけど、あとはベッドとクローゼットだけだから、余りのスペースで剣を振ったりもできるんだ。
今は養成校に通うということで、長期で滞在しているけど、本来こんな専用の部屋なんていらないのに、いっぱい部屋があるから、って言って、僕のために空けてくれたんだ。僕がいなくても、勝手にクローゼットにいろいろ追加されてて、ちょっぴり困っちゃってる。
ルーカスさんは、お庭がよく見える窓辺に行き、クスッと笑った。
「ここは、昔、兄さんが使っていた部屋でね、その前は父さんが使っていたんだ。跡継ぎの子供用ってことだね。ほらここ。ここの窓枠にある傷は、僕が付けたんだ。小さい頃、この部屋がうらやましくてね。広さとか造りは僕の部屋と同じなんだけどさ、ほら、ここからは門が見えるだろ?父が帰ってきたら兄が真っ先に気付くんだ。それが悔しくてね、こんな窓壊してやるって、花瓶を投げたんだ。ハハハ、懐かしいなぁ。」
確かに窓枠に小さな傷があるね。
ていうか、跡継ぎの子供?だったら、僕じゃなくてセリオだ。セリオにこの部屋を使って貰った方がいいんじゃない?
「おっと、今、俺にこの部屋を譲ろうとか思っただろ?」
僕が、実際そう思った瞬間に、セリオに言われちゃった。
「言っとくが、家族全員の意見だからな。もちろん俺もだ。ここは跡継ぎの部屋じゃなくて、家族の先頭に立って外を歩く、そういう子に育つことを願って与えられる部屋だ。門を見て、常に外の世界を意識する、そのきっかけにするんだってさ。父様もじいさまも、そうやって教えられたんだって言ってた。いいか。俺はお前よりお兄さんだし、リッチアーダ商会の会頭になるつもりだ。だがな、それは危なっかしくも頼もしいお前という弟を守るためにだ。あくまで王子であり、すごい奴でもある、お前が、我らリッチアーダ家の家族の前を歩くんだ。」
まっすぐ僕の目を見て、そんなことを言うセリオ。
うんうん、と頷く、ピーレ。
なんていうか、家族、って言ってくれるのは嬉しいし、面はゆい。けど・・・この国では、外に出て新たに商会を作ったひいおばあさんの末である僕なんか、分家の子供で、セリオよりずっと下っ端。いろいろおかしいと思うんだ。
僕が困った顔をしていると、セリオが騎士みたいに片膝をついて僕の前に頭を垂れた。その横に同じように、ピーレが跪く。
「アレク王子。私には剣の腕も魔法の技もありません。ただ先祖より受け継ぎしこの商人としての魂のみ。そしてその魂を刻む赤き血のみ。恐れ多くもこの血潮にはあなたと袂を同じくするもの。この血に免じて、お側で栄光の道を歩む誉れを我に与え給え。」
「私ピーレ。兄と同じく、あなたの覇道のお側においてくださいませ。」
えっと・・・・
この二人、小生意気な、親戚の子、だったんだけどな。
一体何がどうしてこうなったんだろう?
これ、って新たないじめ・・・なわけないか・・・
僕は救いを求めてその場にいる大人に目を向けた。
「ハハハ。まぁ、なんだ。この二人は、てか、私もだけどね、そもそもがエッセルさんの大ファンなんだよ。父がいかにすごくて、劣等感に苛まれたか、なんていう話を嫌って程聞かせるからね。そもそもニアおばさんだって、いろいろすごいんだよ。父なんかまったく足下にも及ばない自由で才能の塊だったんだ。二人の物語は我々リッチアーダにとっちゃ、勇者の物語よりも身近な英雄譚さ。そこに現れた君だ。産まれも劇的なら、その歩んできた人生。たった10年だけど、普通の人間が100年生きたっておっつかない物語だ。そんな物語を歩むのが、こんだけ美人さんじゃ、このチビじゃなくっても、跪くさ。そんな英雄を近くで見たい。人としちゃ自然な感情だ。」
だが、とルーカスさんは僕の頭に手を置いて、僕の目線に合わせるようにしゃがんだんだ。
「だがな、私は大人で、それなりに商人やってる。そういう汚い人間にはな、欲望ってもんがある。こいつについてればでっかい仕事が出来るだろうな、っていうゲスい欲望さ。私としては、リッチアーダで兄を手伝うより、ナッタジでど派手に商売をしたいなぁ、なんて思っているんだ。ハハハ。そのためにはおまえさんに頑張ってもらって、引っ張って貰わんとな。独り立ちできるまでは、商人としてもしっかり鍛えてやるからさ。」
「ちょっと、ルーカスおじさん!何勝手に取り入ってるの。はいはいはーい!だったら私も、私もナッタジに入る!!」
「おい、だったらリッチアーダはどうすんだよ!」
「そっちは兄さんに任すわよ。」
「いや、そればずるい。お前がリッチアーダを継げよ。俺がダーの右腕になる!!」
あらら、兄妹げんかが始まっちゃったよ。
どうすんのさ、と思ってたら、チョイチョイと、ルーカスさんが僕を近くに呼んだよ。
二人がワーワーやってるのを尻目に、僕に小さな声で言ったんだ。
「まぁ、どっちにしろリッチアーダは全力でダー君にのっかるつもりだ。気付いてないかも知れないが、王子の縁戚ってのはそれだけで価値がある。もとの主家分家なんてのは飛んでしまって、今やリッチアーダでもナッタジでも、その中心は君だ。なんせ身分が違うからね。あ、もしリッチアーダって名前が邪魔なら諦めるよ。君から縁切りだって言ったら、それだけで我々は親戚なんて名乗れなくなるしね。」
「そんなこと・・・」
「巻き込みたくない、とか?」
「え?」
「いろいろやっかい事はつきないだろうしね、君の場合。リッチアーダを巻き込んで迷惑かけたらどうしよう、とか?」
「それは、まあ・・・」
「舐めんなよ。」
!
それまで、ちょっと軽い感じで話していたルーカスさん。急に怖い声で言ったからビックリしたよ。
「舐めんじゃねえよ。たかがガキの一人や二人、守れなくて何が一族だ。助け合い守り合い、迷惑掛け合ってもいいんだよ。ちょっと力があるからってガキが粋がるんじゃねぇ。守られろよ。ガキなんてのはなぁ、家族の影で守られてりゃ良いんだよ。どんだけ年長者がいると思ってる?セリオだってお前からしたら年長者だ。自分のところのチビを守りたいとおもって何が悪い。ピーレもだ。同い年の家族を守りたいと思って何が悪い?」
思わず、ヒッて声を上げちゃった。
普段優しい人の方が、切れると怖いよね。
大きな声で言ったから、言い争ってた兄妹もビックリしてこっちを見たよ。
テケテケテケ・・・
そのとき、セリオが走ってきた。
そして、僕の頭に手を置いて、強引に頭を下げさせる。
「ごめんなさい。もうしません!」
一緒に頭を下げながら、セリオが大きな声で言った。
そして・・・
テケテケテケ、ってピーレも走ってきて、僕の横へ来て、同じように頭を下げたんだ。
「ごめんなさい、もうしません。」
なぜかピーレもそう言う。
「・・・・ったく。分かったからちゃんと話をしろよ。」
ゴン、ゴン、ゴン。
ルーカスはそう言うと、下げた僕たちの頭に順番に軽い拳骨を落として、部屋を出ていった。
・・・って、一体どういうこと?
「はぁ、危ない危ない。」
「どういうこと?」
「ほんと、ダーってば大人の扱い分かってないわね。」
「?」
「あのな、わけわかんないときは、とりあえずでっかい声で謝れば良いんだよ。それが正しい子供のあり方ってもんだ。」
「何、それ。」
「とにかく、反省してますって態度でいれば、大人は単純なんだから、許してくれるの。ダー君の悪い癖は、なんでも理屈を知ろうとするところよ。はぁー、分かってないって顔よね。いい?世の中には理屈じゃないこともあるの。おじさんは、ダー君のこと大好きで、甘えてくれないのが悔しいの。そんなことも分からないなんて、まだまだね。」
「えっと・・・」
「それにね、ダー君に頼られたいのは私も兄さんも一緒。もう、兄さん、もじもじしないで言いなさいよ。」
「誰がもじもじなんか!・・・て、あのなぁ。・・・はあ。・・・えっとな。ダー。おまえはすごい。すごいけどな。やっぱり俺も助けてやりたいんだわ。なんかできることないか?商人として、いやちがうな、有力な商人の子供として、それなりの情報網ってのもあんだからさ。それを使って協力できるかな、って思うわけだ。そのな、今欲しいのはどういう情報なんだ?商会で調べるって言ってたよな。あれ、俺じゃダメか?」
「・・・危ないことしない?」
「ああ。自分の出来ることぐらい分かってるさ。学校でできるレベルあるか?」
「・・・・じゃあ・・・」
「おう!」
キラキラと目を輝かせるセリオ。本当に手伝って貰って良いのかな?ゴーダン達に相談してからの方が・・・・ちょっと悩む僕。けど、こんなキラキラした目をするセリオははじめてだから、断りづらいよね。
「じゃあさ、南とつながりのある商会の子がいたらどんな商会なのか調べてくれる?えっとね、貴族とのつながりとか、扱っている商品とか、あんまり子供がおしゃべりしてもおかしくない内容で・・・」
「よし、分かった。ついでにレッデゼッサだろ?あの商会のこと探ってやるよ。」
「危ないことは・・・」
「だから心配すんなって。お前が怒られるようなことはやらないからさ。あ、さっきの話。子供ってのはな大人の前には、しっかりと協力するべきなんだぜ。口裏合わせりゃ大人なんて簡単にごまかせる。ヘヘ、こういう勉強はやってこなかったろ。」
そういうと、セリオはピーレをつれて出ていったよ。
子供だけでいろいろ決めちゃって、よかったのかな?
ナッタジ村では、一番怒られたパターンだ。大人なしでいろいろやるなって。
でも・・・・
なんだか、こういう風にリードされて何かを子供だけでやるってのは新鮮で、ちょっぴり嬉しかったりしたんだ。
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