第32話 分かること、できること。

 楽しいご飯が終わって、席を移しての事件のお話。

 ノアばあちゃんは、帰る場所を守るのが仕事だから詳しい話はいらないわ、と言って自分の部屋へ戻ったけど、子供たちもルーカスさんも、一緒に話を聞くようだ。


 ディルたちによると、事件の話は知らなかったらしい。

 テッセン家、しかも弟を中心とした、いわゆる文官の人達がなにやらコソコソとヘンな動きをしているようで、頻繁に王都と行き来をしているらしい、というのをディルの母が気にしていたところに、殿様命令みたいな感じでリークの王都行きが決まった。それに便乗する形で、ディルも一緒にやってきて、一応の目的である、マッケンガーの命令に沿うべく、ガイガムの護衛をやっていた、ということだった。


 なんでも、ガイガムってば、今朝、僕へのリベンジをしようと、治世者養成校へやってきてたらしい。で、朝から僕がダンジョンを見たい、と、わがままを言って、どうやら認められたらしい、と、治世者養成校の生徒たちで話題にされていたのを耳に挟んだそうだ。

 ちょうど、それなら自分たちも行く、と、先生であるプジョー兄様に姉様たち生徒が主張していたところに出くわした、てことらしいんだけどね。

 事の真相、つまり、ダンジョン探索に僕の索敵能力とかあった方が良い、という、宵の明星の判断で僕が参加する、ってことは、学校では、プジョー兄様しか知らなかったはず。ラッセイも同行することになってたから、手回しはプジョー兄様にお願い、状態だったからね。

 まぁ、生徒たちに押し切られる形、っていう名の、プジョー兄様の好奇心で、一緒にごねだしたガイガムとともに、ディルたちもやむなくダンジョンにやってきたんだそうです。



 二人が事件のことを知ったのは、そのダンジョンへの道中だったらしい。

 まだそのときは、不思議な事件だなぁ、ぐらいの気持ちだったって言ってたよ。

 でも、偽パクサ兄様が現れて、すぐにこれは!って思ったんだって。


 ゲンヘっていう魔物は、割と南部ではメジャーな部類の魔物。

 もともとは、僕の腕ぐらいのサイズで木の枝なんかに擬態してぶら下がってる、絵に描いて貰った感じではでっかいヒルみたいな魔物だそうです。

 そのまんまだと、木にぶら下がっているだけ。ほとんど動かない。歩行する魔力を帯びた生き物が通ると、木にくっついていた口?を離す。そして人知れず、血と魔力を吸い、その生き物と瓜二つになるんだ。変身できるだけの情報を身体に取り入れると、起き上がって、その生き物になりきって移動する。そのときに、身体能力とか、思考までコピーする、って思われてるみたい。

 ただ、実際には火に弱い。

 間抜けなことに、火を使う人間とか魔物とかに擬態した場合、自分で火を出してその火でしなびちゃうこともあるんだって。

 あと、生態としては、木にぶら下がってるのが風だとか木が朽ちるとか、様々な原因で落ちることがある。そのときはそのまま仮死状態になるんだって。で、たまたま通りかかった歩行できる生き物が踏んだり触ったりすると、仮死状態から皮膚に飛びつく。そうして擬態が始まるんだ。


 実はこのゲンヘ、ある程度思考もコピーする。そのものになりきる、っていうのかな?その習性を利用して、自分の代替品として利用するってのも研究されてるんだそうです。成功はしてないらしいけどね。

 ただ、噂では、人間に擬態させ、ある状態で命令すると、その命令に従わせられる、そんな技術があるんじゃないか、ってささやかれているらしい。

 ゲンヘを影武者に、ってのは昔っから研究されているんだ、と、リークが言ったときには、あの兄様の偽物のことを思い出しちゃったよ。


 でね、二人はまずどうやってゲンヘを兄様にとりつけたんだろう?って思ったんだって。一応それなりに大きいから、とりつかれそうになったら気付くもんなんだそうです。噛まれてぶら下がったら、なぜか気付きにくいんだけど、背中とかに降った瞬間はズシリ、ってするんだって。

 でも、ニョンチョの登場で分かった、らしい。

 あれは、ほぼ気付けない。

 だから、麻痺毒を吸っちゃって意識をなくすのは仕方ないだろうって。

 意識をなくした状態で仮死状態のゲンヘをとりつかせる。これでコピーはできるらしい。

 ちなみに、ゲンヘは複数一度にとりつかせても大丈夫、なんだって。一度に複数の兄様が作られてるんじゃないか、そう二人は心配していたよ。


 ちなみに、ニョンチョで寝かせてからのゲンヘっていうコンボは、魔物相手で割とメジャーなんだそうです。なんかね、魔物の巣なんかにね、ニョンチョを放り込んで寝かせて、しばらくしてから仮死状態のゲンヘを放り込むんだって。闘争心の高い魔物に変化すると魔物同士で戦って数を減らしてくれるそう。

 本来は移動中の群れてる魔物に化けて、群れの中に潜んでの安全な移動手段としている、んだそうです。なんていうか、人の都合で戦わされるなんて、ちょっぴり気の毒だなぁ、なんて思っちゃいます。


 二人の話では、おそらく南部の人が魔物を連れ込んで一連の事件を起こしているんだろうって。

 兄様の偽物がいたってことは、少なくとも、兄様は眠らされてゲンヘに噛まれたのだろう。だけどダンジョンで放置された。もし兄様が行方不明になっていたらもっと大々的に捜査はされてただろう。それこそ国の威信をかけてね。

 けど、犯人はそれを避けたんじゃないか、治世者養成校の被害が兄様のだけだってことを踏まえても、捜査を真剣にさせないためじゃないか、ゴーダンたちもディルたちも、そんな風に考えているようです。


 「ゲンヘの使い道として、研究されていたことがあります。兵の増強です。」

 いろんな説明をしたあと、ディルはそんな風に切り出した。

 「兵の増強?なんだ、ゲンヘで兵をコピーするのか?」

 「はい。ゲンヘはメジャーな魔物、つまり数が多い。だから優秀な兵士の複製をつくって、魔物の討伐へ当ててはどうか、これは昔から考えられていた方法です。なんせ、人間の思考を持つ。」

 「考えられてた、ってことは成功はしてないのか。」

 「はい。少なくとも兵の間に使うことができませんでした。敵と味方を区別させることが出来ないんです。」

 「なるほど。そいつらだけを敵の中に放り込めても、一緒に作戦、は無理か。」

 「そういうことです。」

 「まぁ、それならそれで使い道はありそうだが・・・暴走すれば面倒だな。」

 「ええ。ヤツらだけを放り込むとして、こっちの兵力同士でもつぶし合いますし、だからといって、1匹だけで放り込んでも意味がない。けど、そこがクリアできれば、当然上への覚えはめでたくなる、かと。」

 「成功してるってことか?」

 「それはわかりませんけど・・・」

 「まあいい。推測ばかりではラチがあかん。とにかく確定なのは誰かが南部の魔物を王都に運び込み、それを使って生徒らを拉致監禁、さらには死に至らしめた。そしてパクサ王子をコピーして持っていた。そんなところか。」

 みんなを見回しながら言うゴーダンに、それぞれが頷く。


 「じゃあやることは、その誰かってのを特定することからだな。一番怪しいのは南部と王都、頻繁にやりとりしてたっていうテッセン家か。関係者のマッケンガーはまず探るとして、これは、養成校の方ではラッセン、そしてダー、張り付いとけ。ディルたち二人はテッセン家に連なる南部出身者を洗い出してくれるか。それと、気になるのはマッケンガーがわざわざ用心棒まで用意する理由か。商人ギルドの方から、アンナ、ヨシュア、そしてミミ。レッデゼッサを探ってくれ。あとはパクサ王子と共同調査の続行だ。いいな。」


 僕たちは大きく頷いた。

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