第31話 ご飯にふさわしい話題とは?

 バンミとなんだかんだおしゃべりしつつ、ディルとゴーダンの会話に注意してた僕だったけど、なんとなく、うかがうような視線に気付いて、そっちを向いたら、あっ、しまった。これって、リッチアーダ家での晩ご飯の席じゃん。

 ディルたちと僕の方をチラチラ見てるのは、リッチアーダ家の子供たち。

 そして、それを苦笑しつつなだめているのが、彼らの叔父であるルーカスさんだ。

 これって、結構政治的なことも含むし、血なまぐさい話。一般人の前で、しかも子供の前で話すような話ではないよね。


 「ゴーダン、ディルも。小さい子がいるのに、そんな話は・・・」

 僕が、今更ながら、二人に注意したんだけど。


 「どういう意味だよ、ダー。小さい子ってなんだ?」

 セリオが、怒って、言ったよ。

 小さい子って言われるのはいやなお年頃。しかも僕より2個も上。横でうんうんと頷いてるピーレだって、僕と同い年だ。言葉、間違ったかな。でも、実際そういうことなんだし・・・


 「えっと。その、冒険者とか騎士とか、そんな仕事の話を、楽しい晩ご飯の席では・・・」

 「嘘をつくな!子供に聞かせる話じゃない、そう言いたいんだろうが!」

 僕の言葉を遮るセリオ。そうだけど、だって、ねぇ。

 僕は大人に助け船をって思ってみんなを見回したけど、誰も同調してくれないようで・・・


 「ねぇ、ダー。」

 そのとき、ママが口を開いた。

 「ダーは、みんなが大好き。でもね、みんなもダーが大好きなの。セリオ君もピーレちゃんも、ダーのことが大好きなんだよ。だからダーのお手伝いをしたいって言ってるの。」

 「でも・・・」

 「ダーは赤ちゃんの時から、悪い人に追いかけられたり、襲われたりしたよね。それでも、みんなに助けられながら、一生懸命戦ってきた。違う?」

 違わない。でもあれは仕方なかったから・・・

 子供がわざわざ、危ない世界のことを知る必要はない、と、思うんだ。


 「セリオ君は、ダーのお兄ちゃんだよ?ダーが危ないことするなら守りたいって思ってるの。今まではどうやったらいいか分からないって悩んでたみたいだけど、自分の出来る方法でダーを助けるって決めたんだよ。ピーレちゃんもそんなお兄ちゃんを助けて、一緒にダーを応援してくれるんだって。」

 ママの言葉に二人はうんうんと頷いてる。

 「だから、セリオ君もピーレちゃんも、ダーのやっていることをちゃんと知りたいって、さっきね、ダーがおねんねしてるときに、ゴーダンたちにお願いしたの。」

 え?

 そう思って、二人を見た。

 二人はちょっぴり照れたようで、うっすらと赤く頬を染めていた。


 「だからね、ダーは二人にごめんなさい、しようね。二人は守られるだけの小さい子じゃないの。ちゃんとダーを守ろうとする仲間だよ。」

 納得、は、正直出来ない。

 だってそうだろ?って思う。子供が、そんな・・・。

 って、ハハハ、僕だってみんなからしたら小さい子、なんだよね。

 なのに、もっと小さいときから、仲間として頼ってもくれてる。その、一人前って、戦力って、扱ってくれる嬉しさは、分かってはいるんだ。

 けど・・・・


 僕が下を向いて悩んでいたら、アレクちゃん、って、優しい声がかけられた。

 ノアばあちゃん。ひいひいばあちゃん、に当たるのかな?ママからしたらおばあちゃんのおかあさん。

 「アレクちゃん。このおばあちゃんと初めて会った時のことは覚えてる?」

 「うん。」


 まだ、僕は2歳だった。

 王都に用があって、初めて訪れたんだ。

 僕やママの本当の血縁って、ゴーダン達は当然知っていたし。

 ノアばあちゃんの娘のニアさんが、冒険者だったエッセルと結婚したんだ。

 エッセルの方の血縁は誰も知らないみたい。

 奥さんがこのリッチアーダ家のお嬢さんだったって話。ゴーダンが初めて会った時には二人はもう夫婦で、娘のパーメラも産まれた後だったらしい。二人の馴れ初めに立ち会ったのは、最古参のドクとカイザーぐらいだそう。ドクに至っては、娘時代のノアばあちゃんを知ってるって、最近知りました。


 まぁ、そういうわけで僕やママの直接血の繋がった人で、ママはとっても懐いている。僕も(数代間があると言っても)本当のおばあちゃんみたいに可愛がって貰ってるんだ。

 とにかく優しくて、とにかく明るい人。それに好奇心が旺盛だ。好奇心が旺盛なのはリッチアーダの女性たちの特徴なのかも知れない。


 「アレクちゃんが初めて来て、エッセル君の残したものを集めてるって聞いたとき、こんな小さな子に何をさせるんだ、って思ったわ。しかも、あなたが初めて来たとき、一人でワージッポ博士のところでお泊まりしたあとだったでしょ?お仕事まで受けて、ほんと、ゴーダン君たちの正気を疑ったわよ。」

 そりゃそうか。


 あのとき、僕たちは王都へやってきて、まずは、魔導師養成校の校長をしていたドクの研究室に行ったんだ。初めて会ったドクのところに数日僕は一人で置いてかれちゃった。

 僕がドクのところで暮らしている間、ママやみんなはこのリッチアーダのお屋敷でお世話になってたみたい。

 で、一応のドクとのご用が終わって、初めて僕はここを訪れたんだ。

 すっかり馴染んでいたみんなとは違って、僕だけ初めまして、だったけど、本当に親戚みたいに(て、本当の親戚だけど)、大事に迎え入れて貰ったんだ。


 でも、ふつうに優しくしてくれてたけど、そりゃ内心穏やかじゃなかったんだろうね。過剰に可愛がってくれるように思ったけど、それは内心の裏返しだったのかも知れない。って、いまだに過剰に子供扱いだけど・・・


 「でもね、赤ちゃんだけどあなたはすでに一人前の目をしていたわ。この子は何かを決意しているって思ったの。だったら大事な孫だもの、精一杯の後押しをしましょう、ってみんなで決めたの。私はね、あのときのあなたと同じように、決意している他の孫たちのことも応援したいわ。家族はみんなで助け合うもの、違うかしら?」

 にっこりと笑うノアばあちゃん。

 その優しいけど決然とした表情には幾世代もの子供たちをそうやって見守ってきたんだろうな、って思わせる何かがあった。


 僕は、セリオを見る。ピーレを見る。そして、ルーカスさん。

 決して長く一緒に暮らしたこともないし、触れ合ったことも数えるほど。

 けど、僕を見る目は、きっと僕がレーゼを見る目とおんなじだ。

 ただ守らなきゃならない人、じゃない。守り合う人だろう?

 僕が足らないところはみんなが、みんなが足りないところは僕が、お互い守り合うのが家族であり仲間、そうやって、僕もママやゴーダンたちに教えられてきたのに、どうやら僕は本当に生意気なガキになっちゃってたみたいだ。


 「ごめんなさい。セリオもピーレも、小さい子じゃないよね。えっとね、多分普通は聞いちゃダメな話とか、知らない方がいい話、ってあると思う。だから聞きたくないってことは聞かなくていいと思うんだ。だけど、僕が、僕たちが何をしているか知らなきゃ守れないっていうんなら、一緒に聞いてください。でもね、ゴーダン、僕は、ご飯の時は楽しい話の方が美味しく食べられると思うんだ。だから、その話は、ご飯が終わってからじゃダメかな?」


 「プッ、ハハハ。こりゃダーに一本取られたねぇ。確かにダーの言うとおりだ。もっと愉快な話をしようじゃないか。いいね、ゴーダン?そうだ、せっかくのゲストがいるんだ。南の愉快な話はないかい?」

 豪快に笑うアンナが、なんとなく暗くなりそうな食卓に、話題を振ったんだ。

 そのあとは、南の話のはずが、リークによるディルの恥ずかしい暴露話、なんてなっちゃって、(ディル以外は)大いに笑った、楽しいご飯の時間になったんだ。

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