第28話 救出と報告と

 転移で4層の祠へ。

 そのまま大慌てで、皆の待つ1層の建物へ。

 全員無事に到着してて、僕たちを心配しつつ待っていたんだけど、僕たちが運び込んだ人達を見て、慌ただしく動き出した。


 治世者養成校の面々は去年からの動きも知っているので、さすがにこの運び込んだ人達が誰なのか分かったみたい。

 いなくなったときの服装とか、その他特徴を見て、どこの誰、の見当はつけれたみたいだ。

 特に捜索隊リーダーのパクサ兄様や、この消失騒動に心を痛めて自分なりに探っていたプジョー兄様。瞬く間にこの人は誰だ、っていう当たりをつけた。


 6名のうち4名は、パクサ兄様と行動していた治世者養成校関係の人だったしね。

 生きているのは、パクサ兄様の従者2人だった。外見を保っていた人は、その時失踪した治世者養成校生徒の少女。少女の従者、はミイラになってた1人と分かった。

 他の2人のミイラ。

 それは魔導師養成校の生徒だったっ人だと分かった。


 事件としては、他にも、何人も失踪していたんだけどね。

 そもそも5校すべての養成校が被害にあってたし。

 だけど何らかの形でご遺体がほとんど発見されてたんだ。身体があるかどうかは別として。

 で、手がかりすらなかったのが6人。

 その6人が、今回見つかった、ってこと。


 ちなみに、この第7ダンジョン。

 失踪して1週間から半年程度のちにこのダンジョンで、今回みたいなミイラ状になって発見されるってことが、かなりの数、起こってたんだって。ということで、ここ最近は、このダンジョンを中心とした捜索が行われるようになっていて、ダンジョン捜索のプロってことで冒険者の協力を求めることにしたんだそうです。で、僕の属する宵の明星にも声がかかったってわけ。


 ダンジョン捜索と、各養成校の生徒の護衛、それをこなせる人員として、治世者養成校に潜り込める僕がいる宵の明星に、最終的に仕事を頼んだ、ってことを、教えられたんだ。


 まぁ、他校はともかく、パクサ兄様たち治世者養成校の人間が被害にあったってことで、まともな捜索が始まったっていうことも、今まで時間がかかってる理由なんだろうけどね。

 そもそも学校の入学には試験があるけど、卒業ってものはない。ていうか、自分で決めるものなんだ。

 入学して一度も学校に出ないってのもザラ。

 この養成校に入学を認められたって証自体がステイタスで、将来のために、そのステイタスを求めて受験する人もたくさんいる。

 だから、急に来なくなったからって、基本的には誰も気にしない。

 自主練で、ダンジョンを使ってて失踪、とか、往復時やプライベイトタイムで失踪したら、それこそ把握しようがないってのも事実だしね。


 ただ、学校の授業中に失踪ってことが重なったから、失踪事件がある、ってことは気付いていて、対策どうしよう、ってなってるところに兄様たち、いわばVIP組の被害が出た。で、はじめて大事になった、っていうのが、事の次第だったようです。



 てことで、事件が発生し始めておそらく1年ほど。

 兄様の時から約半年。

 はじめての、ひょっとしたら加害者の足跡、ってものが見つかったのが今回の出来事、ってことです。

 失踪からの、異常な遺体や遺物の発見。

 誰がどうやって?

 いろいろな謎。

 直接被害にあってたのにも関わらず、記憶もなく、ってことで、パクサ兄様の焦りは、なんとなく感じられていたんだ。

 いつも陽気に強気に振る舞うパクサ兄様だけど、でも自分への怒りとか、事件の真相の片鱗も分からない焦りと苛立ち、周りには隠しているそんな感情が、抑えきれずに、苦しそうな時が見て取れた。家族のみんなは、気付かないふりしてたみたいだけど、きっと全員気付いてたと思う。


 そういう意味では、兄様がホッとしているのも分かる。

 これは兄様の従者が2人、無事、とはいいにくいけど、とりあえず生きていたことも、原因だろうね。他の人が亡くなってるし、複雑だと思うけど、それでも自分の大切な人の無事は嬉しいに決まってる。


 あ、無事な二人。

 とりあえず簡単な治療、って思ったんだけどね。

 僕だけじゃなく、調査団の参加者にも、治癒の魔法を使える人もいるし。

 でも、ダンジョン内ではちょっと厳しかったんだ。

 ていうのも、衰弱していた二人。

 原因は、飲まず食わずで魔力を吸い取られ続けていた、いわば栄養と魔力の欠乏ってとこだから。これらの補充に治癒魔法じゃ効かない。栄養と休息が必要なんだ。

 てことで、騎士団の人達が、大急ぎで診療施設に運んだらしい。

 パクサ兄様はここの責任者として残るって言ったけど、プジョー兄様が上の王子っていう権限で、責任者の権限を自分に召し上げたんだ。で。二人の生存者に付き添うことを命じられた。

 まぁ、こうして強引にやんなきゃ、パクサ兄様は従者たちに付き添わなかっただろうけどね。文句言いつつ、目に涙が溜まっていたことは、内緒にして上げようね。


 こんな感じで騎士団の一部とパクサ兄様、ついでに、養成校の面々を帰らせて、残ったのはプジョー兄様に騎士団の半分、そして宵の明星だ。あ、ラッセイだけは、まだぐずる養成校の人達を無事に送り届けるっていう任務のため、いったん離脱してます。

 他に残っているのは、お亡くなりになった4名のご遺体だけ。



 そして今、ゴーダンが、コアの件をはじめとして、転移や吸引の魔法陣のことをプジョー兄様たちに報告していた。


 そんなみんなのために、執事ってことで、バフマはお茶を用意したり、なんだかんだ動いている。

 バフマは世界一の執事になることが夢。その仕える相手が僕っていうのはどうかと思うけどね。だもんで、機会があればこうやって執事然として、すぐに働いちゃう。いいような悪いような習性です。


 残った僕らはちょっと離れて後ろに座っている。

 僕は・・・・

 ちょっぴり心配なバンミのお膝の上。

 疲れたって言って寝る体勢でね。

 10歳にもなって恥ずかしいけど、まあ、その。ね。


 あのね。

 バンミってば、多分、今、心の中が誰よりも荒れている。

 使われた魔法陣に、いろんな過去を思い出してる。

 ある人物のことを思い浮かべてるのかも知れない。


 バンミはね、あの吸引の魔法陣、その大元になった魔法陣に魔力を吸い取られる運命にあったんだ。いつかはアレに魔力を吸い取られ、自分は死ぬんだろう。そしてそれまでは、魔力タンクとして、いいように使われるんだろう、そう思いながら惰性で生きていた。そんな環境で12歳になる直前まで、5,6年間も生きていたんだ。

 きっと僕には想像もつかない環境だ。


 6歳の頃、僕はそのバンミのいた施設に潜入した。

 たった数日。

 だけど、そこでの生活は、僕にもちょっとしたトラウマだ。

 魔力がありそうな子供として掠われるように連れて行かれたその施設。

 大人だけでなく子供の中でも序列をつけて、上のものに逆らうことを許さずに、理不尽な暴力。何かといったら鞭打たれた。


 僕は潜入目的だし、近くにいる仲間と連絡も取れた。エアだっていたしね。

 だから耐えれたし、心が折れるなんてなかった。

 それでも、たまに夢に見る。

 訓練や戦いの中痛い思いをすることは、辛くても心は痛まない。

 けどアレはダメ。

 理不尽な暴力は、心が死ぬ。

 逃げ場に、下の子を痛めつけるなんてことを平気でできるようになるか、完全に心を消すか。


 そんな中に、何年もいたバンミ。

 ほとんど壊れもせず、ただ諦めていただけ、というのは、なんて強いんだろう、って、あれを体験した僕は思う。


 けど、辛くないはずはない。トラウマじゃないはずはないんだ。


 あの頃を連想させるものが目の前にあらわれ、あの頃と同じように理不尽に命が摘まれている。

 それを見て冷静でいられるほど、バンミは心が死んじゃいないんだ。


 僕は、バンミのお膝で、バンミに甘えるように眠いとぐずった。

 こうやって接しているんだから、僕の生意気な心配だって気付いているだろうけど。

 バンミは、「いつまでもガキだなぁ。」そんな風に言いながら、僕が寝やすいように体勢を整えて、軽く両手で支えてくれていた。

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