第25話 教育的指導?

 パッチーーーン!!!


 その時、ものすごい音がダンジョン内に響いた。


 クレイさんの怪我が思ったより浅くて、僕の魔力少なめヒールでも傷がふさがり、ホッとしたとき。

 僕も治癒魔法を使えるとはいえ、どうやら魔力の質が高すぎて、人によっては劇薬扱い。下手したら過剰に再生してポン、ってはじけちゃう。恥ずかしながら経験あり、な、失敗談。そのときはママがいて、痛いの痛いの飛んでけ!で、なんとか持ち直したけど、だから、特に魔導師じゃない人に治癒を使うのは、ちょっと怖いんだ。

 一番弱めのヒールで、なんとか治癒できて今回はホッとしたんだけど・・・


 そして、無事傷が消えたのと、僕が治癒まで使えると知って、改めて驚愕の目でこちらを見る人々に、あーあ、と思いながらも、苦笑してしまった僕や宵の明星の面々。

 よろけてたパクサ兄様も、同じように驚いて立ちあがっていたのを目の隅に捕らえてはいたんだけど・・・


 パッチーーーン!!!


 その音は、パクサ兄様の頬から鳴った。

 立ちあがったパクサ兄様の頬を、プジョー兄様が打ったんだ!

 いったい何が?


 音に驚いて、僕に注がれていた視線も、みんなパクサ兄様たちに注がれた。


 パクサ兄様もびっくりして、頬に手をあて、プジョー兄様を見ていたけど・・・


 「恥を知りなさい!あなたには王族としての矜持は、責任感はないのですか!!」

 いつもおだやかで微笑んでいるイメージのプジョー兄様の、思わず背筋がピンとしちゃうような厳しい声。

 パクサ兄様も目を見開くと、まっすぐに立ち、しばらくプジョー兄様を見ていたけど、悔しそうにうなだれた。


 「顔を上げなさい。あなたは自分のしたことが分かっているのですか!」

 なおも叱責は続く。

 まわりの人達は少し目をそらして、でもきっと聞き耳を立てていそうだ。

 ていうか、僕はガン見しちゃってるけど・・・


 「あなたは上に立つ者として一番してはならないことをしようとしていました。分かりますか?」

 パクサ兄様は下唇を噛んでる。直立不動で話しを聞いている。

 「パクサ。あなたは責任を感じて、あの魔物と相打ちでもしようと、自らに刃を立てた、そうですよね。その行為が美徳ですか?自己犠牲によりこの場をしのぐ、物語なら勇敢で褒められた行為かも知れません。が、あなたはこの部隊の指揮官ですよ。一番最後まで立っていなければならない立場です。それが責任を放棄してどうします。」

 物静かだ、と思っていたプジョー兄様はとまらない。


 「戦場において、指揮官を狙うのは何故ですか?指揮官さえ屠れば部隊なんて簡単に崩壊するからでしょう?指揮官を失った残された人々はどうなります?バラバラに敗走し、自己責任、ですか?まったく、無責任甚だしい。指揮官が、率いる者が死ぬとはそういうことですよ。部隊を率いる以上、戦場でもダンジョンでも同じ事。いいえ、国でも同じです。だからこそ騎士がいて、その上位者たる王族を守るのでしょう。あなたは指揮官としてこの部隊を放り出し、王族としてこの国を放り出した。そう理解なさい!」


 なんていうか・・・・確かにその通りかもしれないね。

 僕は今までいろんな戦いで、指揮官とかトップを狙うようなことをたくさんしてきた。魔物でも人間の集団でも、トップを狩られると弱いんだ。確かにプジョー兄様の言うことは理にかなってる。それを国まで広げて、王族の矜持・責任、か。そこまで考えてるんだなぁ。飄々としてるイメージが崩れそう・・・



 「アレクサンダー。あなたもですよ。」

 へ?僕?

 てか、はじめてアレクサンダーなんて呼ばれたよ。

 どうして、人は、叱るときとかフルネームで呼びたがるんだろう。普通にドキッとする。特に僕、アレクサンダー呼びの人なんていないし。



 「分かってないって顔をしてますね。今、私はあなたを抱え上げ、いやというほどお尻を打ちたい衝動と戦っているんですけどね。今、そうしていないのは、ひとえに先ほどゴーダン卿と交わした約定のため。今はあなたを宵の明星の冒険者としてこの探索に参加させている、ただそれだけです。あなたはこの場に王子としてではなく、冒険者として立っている。冒険者の命は自己責任、それを尊重しているだけです。」

 「でも、僕は・・・」

 僕は、王族っていってもおまけみたいなもの。この国をどうこうする権利も義務もないんだ。


 「はぁ、ひょっとして、自分は関係ないとでも?どういういきさつであれ、あなたが王族である、ということは紛れもない事実です。それに、将来王族を離れたとしても、領を預かる身。今言ったことは領主にも当てはまります。いいえ、上に立つ者はすべてその下に集う人々の命に責任を持たねばならない。」


 その覚悟がありますか、というかのように、治世者養成校の生徒たちに視線を注ぐ。プジョー兄様の課外授業、ってことかな。


 「それに、パクサ。ここにいるのは戦えない人たちではない。むしろ今後の彼らはどうなります。守るべき王子であるあなたの犠牲により生き残ったとして、彼らの将来を考えましたか?王子の死の上に立つ騎士など、前途を潰されたに等しい。あなたを慕ってついてきた人々を社会的に抹消したいのですか?」


 「・・・申し訳ありません。私が浅はかでした。」

 パクサ兄様が、ついに、そう言った。


 なんか、微妙な空気。

 これって、僕もごめんなさいしなきゃダメ?

 けど、僕には無理だよ。

 親しい人が危ないと思ったら、考えるより先に身体が動いちゃう。

 それに・・・

 やっぱり僕は冒険者。

 王族とか貴族とか、難しいことは丸投げできる環境だもん。僕が指揮をするつもりも必要も、今のところない、はず・・・



 それにしても・・・


 プジョー兄様もこんないっぱいの人の前でお説教みたいなことしなくてもいいのにね。僕にまでとばっちりなんて、参っちゃうよ。

 て、その時は思ってました。


 あとで貴族出の仲間、主にアンナから聞いた話。

 本当に、ゴーダンが僕を連れてってなくて、僕がパクサ兄様の剣の前に飛び出していたら、プジョー兄様は、あの場で間違いなく僕のお尻を叩いてたって。

 なんかね、偉い人は身分の下の人の前であえて躾をするんだそうです。

 うちは、こんなにちゃんと教育してるから、みんなも安泰でしょ?安心してついてきてね、っていうパフォーマンスなんだって。逆に身分の高い人の前で、自分の子や部下を叱るのは、お目汚し、って言って無礼になるんだそう。

 なんの羞恥プレーだよって思ったけど、あれ?そういや、僕、ところ構わずいろんなところで、いろんな人に叱られてるよ。あれはそういうことだったの?って言ったら、アレは僕が危なっかしくて、思わず口や手が出るんだ、だってさ。庶民に身分は関係ないってさ。やれやれ。



 まさかの、プジョー兄様の説教劇が戦闘終了したばかりのダンジョン内で行われた、その後。

 パクサ兄様が謝ったこともあって、ダンジョンを出ようという流れにはなったんだ。

 きちんと最後まで指揮官の任を果たせというプジョー兄様の命令?もあって、パクサ兄様の号令で上がることになったんだけど。



 さっきとは逆。ていうか、現在地から回れ右したともいうけどね。

 騎士団が先導して、生徒たち。そして最後尾が、僕も含んだ冒険者=宵の明星。その順で4層を脱出、と動き出したはいいんだけどね。


 養成校の中ではしんがりについていたディルさんとリークさんが、階段に1歩足をかけたとき。

 ディルさんが、軽く後ろを振り返り、えっとばかりにこちらを2度見。


 「リーク!」

 ディルさんが急に大声でリークさんを呼んで、僕をまっすぐに指さしたんだ。

 それに誘われるように僕を見たリークさん。

 はらりと、フードが落ち、目を見開くのが見えた。

 と思ったら、口の中でなにやら呪文を唱え・・・


 プシュッ


 ピチャ!!


 え?


 何かがリークさんのメイスから放たれ、僕の首に衝撃が!!


 僕、攻撃された??

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