第22話 4層へ行く前に

 下の層へ。

 いざ、階段を降りよう!というところで、なぜか進行が止まったよ。


 ん?


 プジョー兄様の腕に抱かれてるから、前でコソコソとゴーダン達が話してるのが見える。と、思ってたらヨシュアが後方=騎士団の方へとかけていった。

 で、僕と目が合ったゴーダンは、そっと肩をすくませ、やれやれ、といった感じでこっちにやってきたんだ。

 てことで、ミランダ、ラッセイ、アーチャは前方の守りについたまま、こっちの方を難しい顔で見てるのが見えたよ。


 僕らのところにやってきたゴーダン。

 そしてほぼ同時に後方からパクサ兄様を連れたヨシュアがやってきた。


 「話があるとのことですが?」

 まず口を開いたのはパクサ兄様だ。ゴーダンにすがるような目をむけていると思うのは僕の気のせいかな?


 「ああ。まず確認だが我々は冒険者だ。」

 「・・・・ええ、そうですね。」

 ちょっとはてなが飛んだようなパクサ兄様。だけど、ゴーダンにまっすぐに見られてて、一応頷く。

 「冒険者ってのは依頼に基づいて仕事をする。多少の逸脱はいいとしても、だ。」

 「・・・はい。」

 「でだ、我々としては例の件の調査として依頼を受けた。ついでにそのリーダーである王子たちの護衛込みって話だ。」

 「はい。」

 「舞台が舞台だ。養成校関係者の護衛はまあある程度計算の中だ。今回もそのつもりで、同行を認めた。それはわかるな。」

 「ええ。」

 「だが、あくまで、通常の養成校の行動範囲では、だ。」

 「ダンジョン探索は通常の授業範囲です。」

 「分かってて言ってるよな。」

 ・・・・

 なんか、ゴーダンとパクサ兄様が睨み合い?

 「はぁ。じゃあ聞くが、姫さんよ。あんた、ここのダンジョンは経験者だよなぁ。」

 「へ?私ですか?え、ええ、まぁ。アレクを除き治世者養成校の生徒は皆、一度ならずここでの実習は経験しております。」

 突然のゴーダンの振りに一瞬慌てたポリア姉様だけど、すぐにしっかりとした返事をしたよ。

 「じゃあ聞くが、今日のダンジョンはどうだ?いつもと同じか?」

 「え・・・それは・・・」

 チラッとプジョー兄様、パクサ兄様を見る姉様。パクサ兄様はちょっと唇を噛むような仕草をし、そしてプジョー兄様はやれやれといった感じで、首を横に振ったんだ。

 「ゴーダン卿。妹や弟をいじめないでくださいな。やれやれ。卿たちも、何度かここに潜っているのでしょう。確かに、いつもとは違う。ええ、段違いですよ。あれだけ強力な魔物のオンパレードなら、学生だけなんかで討伐できない。」

 え?そうなの?

 確かに、地上の魔物より強いけど、ダンジョンってそういうもんでしょう?

 僕の疑問が分かったのだろう、ゴーダンが答えてくれる。


 「確かにダンジョンでは地上より魔物は強い。奥へ行くほど強力になる。だがな、この強さだと、普通のダンジョンでいえば、10層下手したら20層レベルの強さだ。素人で対処できるレベルじゃねぇよ。」

 へ?と思ってヨシュアを見ると、難しい顔で頷いた。

 確かにそうか。

 5層ぐらいまでなら、どこのダンジョンでも見習い冒険者だけで訓練するようなレベルだって言ってたっけ?だったら、うちの人達が1発で決めてない時点で、強すぎる、って話だ。


 「指揮官は殿下だ、判断をしてもらいたい。」

 「私としては、・・・このまま続行を望む。」

 「そのこころは?」

 「ゴーダンの言うとおり、いつもよりもはるかに強い魔物で、正直私も戸惑っている。しかし、裏を返せば、作戦どおり、ともいえる。」

 チラッとパクサ兄様が僕、そして養成校の人達に視線を走らせた。

 おとり作戦。

 それがうまくいってる、そう言いたいのだろう。


 「それに、今までのあなた方を見てると、まだ余裕はありそうだ。」

 ニヤッとパクサ兄様は笑った。

 案外強気だなぁ。確かにまだうちの人達の余裕はあるけど、調査団の騎士団は大丈夫?養成校の足手まといを守れるのなぁ?


 ゴーダンはそんな兄様を見て、盛大なため息をついた。


 「やれやれ、相変わらず殿下は前向きでいらっしゃる。まぁいい。調査の続行は認めよう。ただし、こいつらが足手まといってのは、あんたも分かってるんだろう?」

 「おい、貴様!」

 みんなが不安げに見守ってる中、怒りの声を上げたのは一番足手まといのガイガムだ。きっと王子様に不敬な口をきく冒険者のおっさんが許せないんだろうね。でも、あんたより身分の高い人だらけの中で、口を挟むのも、大概不敬だって思うのは僕だけだろうか?ある意味、この人って、大物かも知れない。

 まぁ、その口をお仲間のでっかい人が防いだし、誰も彼を見てないから、気の毒っちゃあ気の毒なんだけどね。


 「条件、ですか?」

 「さすがに話が早いな。条件ってか、この先どうするかの話だ。まず1つは、調査団以外はここで引き返す。多少の戦力はあるだろうし、ここに来るまである程度掃除してるから、難しくはないだろう。俺としては、これを勧めたいが・・・」

 養成校の人達から不満げな視線に、ゴーダンは肩をすくめる。


 「初めてのダンジョン見学っていう当初の予定には充分だと思うんだがな。まぁ、いい。だったらその2。ここで騎士団とともに待つ。ここから先は俺たちだけ、ラッセイはこっちに貰うが、5人ですすむ。その間、まだちょっとぐらいいるだろう魔物退治でもして、待っててくれ。」

 「俺たち」に、僕は入ってないみたいだね。まぁ、仕方ないか。調査団として入ってる4人にラッセイ?

 でも、そんなに少なくて大丈夫?強さ的にじゃなくて、広さ的に、だけど。


 「ありがたい申し出だが、我々が調査団のメインだ。そこは譲れない。」

 「だとしたら、どうあっても全員で降りると?」

 「ああ。もともと今日のメインは問題のあった4層だ。作戦を貫くにもそこは必要だと思っている。」

 「はぁ。やっぱりそうなるか。で、プジョー殿下。あんたは?あんたが養成校の方の責任者だ。この下でまで、あんたらの生徒の安全は保証しかねる。待つ、や、引き返す、の選択がベターだと思うが?」

 「ご配慮は感謝します。確かにあなた方からすれば我々は足手まといでしょう。ですが、そもそもここにいるのは、戦いを学ぶ者たち。心配ご無用です。自分の身もある程度守ることができるでしょう。それに、私個人として、こんな機会、逃したくはありませんね。」

 「機会?」

 「ええ、世に名高い宵の明星の勇姿。噂と現実。すでにその片鱗を見て私は興奮しているのですよ。将来の治世のためにも、ぜひとも見学する価値はあると思っております。」

 「・・・やっぱりあんたは、あの王様の一族だよ。しっかり血が繋がってるようだ・・・まぁいい。あんたもこいつらを連れてけって言うんだな。」

 「ええ。」

 「だったら条件がある。」

 「なんなりと。」

 「あんたが望んだんだ。宵の明星の戦い見せてやるよ。こん中のうちのメンバー全員で事に当たる。」

 「それって・・・」

 兄様が腕の中の僕を見た。

 「ああ、そういうことだ。」

 「おい、それは話が違う。」

 悩むプジョー兄様に替わって、パクサ兄様が一歩前に出たよ。

 王族としては、僕のこと、隠しておきたいんだよね。あわよくば事件解決しても、僕を養成校に置いておきたい、らしいから。


 「パクサ、やめなさい。ゴーダン卿。あなたは、それが今回必要だと?」

 「ああ。正直いやな予感がする。悪いがこちらも最善で臨みたい。」

 「分かりました。」

 プジョー兄様は、僕を見て優しく微笑むと、一度だけ髪の毛をすくように頭を撫でた。そして、僕をゴーダンに渡したんだ。


 ゴーダンは、僕を受け止ると、鋭い視線でそこにいたバンミとバフマを見たよ。二人は頷いて、前方へと走り去る。

 え?という小さなつぶやきが生徒たちの中で湧いたけど、僕もゴーダンの腕の中で、臨戦態勢だ。


 ゴーダンとはこうやって抱かれて戦うこともそこそこ多い。

 テレパシーでお互いの判断を瞬時に交換できるからね。


 僕がゴーダンの腕の中に収まると同時に、情報が頭の中に自然と入ってきたよ。

 4層こそが、パクサ兄様の事件遭遇時点。その事件の詳細と状況。

 4層の地図。

 こことはちょっと違って、灌木が生えてる、とか。

 ダンジョンの不思議が急に多くなる階層で、生徒たちの狩りが一番多く行われる人気の場所だとか。

 そんな知るべき情報を僕に共有させるゴーダン。


 そして、ゴーダンの引っかかりも一緒に入ってきた。

 今日は、魔力の質がなんか違う。

 事件を受けて両手に近い数潜ってきたけど、ダンジョンに蔓延している魔力がなんかうごめいている。

 ゴーダンは、1層に入ったときから、そんな風に感じていたみたい。

 しかも、ミランダたち他のメンバーも同じだとか。

 僕は初めてだから、そういう細かいことは気付かないけど、きっと、何かが違っているんだろう。


 僕は、改めて気を引き締めて、魔力を薄く伸ばしてみる。

 こういう索敵は僕の仕事だ。

 ゴーダンの腕の中は一番安全。だから無防備に僕は索敵できる。

 目を瞑った僕だけど、今頃4層に突入しているのだろう。

 なんていうか、空気が急に変わったのを、僕は感じたんだ。

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