第21話 第3層:その後

 自由落下。

 言わずと知れた物体が引き合う力で、これは僕が星に引っ張られているんだ。ってことは、ここはやっぱり星なのか?

 なぁんて、現実逃避の思考がしばし・・・


 やっちゃったかなぁ・・・・


 走馬燈、っていうのは一瞬なのに長い回想が死の間際に訪れる現象とか。

 現実逃避の感情はそれに似てるね、って、これも現実逃避の思考かな、ハハ。

 一瞬のはずなのに意外といろいろ考えられるもんだなぁ、って、はい逃避終了!


 パフッ


 と、ヨシュアの腕の中にすっぽりくるまれる僕。

 その直前には、バンミの結界を通り抜けたんだけど、未だに降ってきてるルルルの残骸とか岩とかを完全に避けながら、僕だけを結界、通過させる器用な魔力運用、脱帽しかないです。伊達にコントロールお化けの名に恥じない、って、そんな風にバンミをからかうのは、僕をはじめとした、仲間の悪ガキだけだけどね。


 そんな器用なバンミだけど、さらに器用なことに「俺は怒ってるんだぞ!」って感情を僕にバンバンぶつけてきてる。

 必要最小限の結界を保ちながら、まったく器用なことです。


 てなことを僕が思ってたら、ヨシュアってば、そんなバンミに僕を渡してとっとと、前戦へ戻っていったよ。

 あっと、バンミさん?結界保ちながら僕を抱っことか、大変でしょう?下ろしてくれても・・・なんて思って顔をうかがうと、まだまだポトポトしてる外の物を弾くべく、結界をうっすら張りつつも、絶対怒る気満々じゃん!

 一応、ダンジョン攻略に来てる人達だし、生徒とかいっても、これぐらい避けれるし、もう当たっても痛くないでしょ?と僕ならとっくに結界を消してるのに、バンミってば、結界上に残ってるのとか、跳ねてるのをそうっと、周りに散らすべく、結界に傾斜を付けて頭に落ちないようにしているようで、まぁ、ほんと、器用なことです。


 バンミが僕を抱っこし続けてるのって、怒ってんだぞ!っていうパフォーマンスもあるんだろうけど、もう一つ。ダンジョンでまだまだ戦闘が続くかも知れないからこその、要求も兼ねてるんだよね。

 僕は気付いて、逆にバンミの首にギュッと抱きついたよ。


 あのね、僕はかなり人より魔力量が多いんだ。

 で、その魔力を人に渡すことが出来る。

 ただ、魔力の質とか量の問題で、うまくやらないと毒にもなるから、その加減ができる人にしか渡さないし、可能なら本人が勝手にもってってもらう方が安全だ。本人が勝手に持ってくには、いろいろと要素があるんだけど、とりあえず魔力コントロールがある程度上手、ってことも条件の1つ。

 一応、パーティメンバーで魔法を使う人達は、安全にできるけどね。みんなそれなりの量もコントロールも持ってるし。

 あ、ラッセイとヨシュアには僕から渡すのは危険なので、自分で持ってって貰う、ってのが限界かな?二人は魔導師枠じゃないから、まぁ、そんなもん。


 魔導師枠プラスコントロールお化けのバンミは、当然、自分で僕のを持ってくこともできるし、僕から補充するのも難しくない。

 で、今、僕がバンミに抱きついたのは、触れてる方が上手に魔力が渡せるからだ。

 僕の失敗で、無駄にバンミの魔力を使わせちゃったからね。

 後で強化した分の岩を受け止める用の魔力は予定外のもんだ。

 僕が上手にやって、ルルルだけをやっつけてたら不要の魔力を使わせちゃった。

 バンミの魔力量では、ちょっと辛いだけの強化をさせちゃったんだよね。

 まぁ、考えたら当然で、体長50センチ前後の魔物がバラされた1つの重量と、大きい物だと僕と変わらない形の岩の塊。それを受け止める力って考えたら、ねぇ・・・


 てことで、今、僕の仕事は、バンミに無駄に消費させた魔力を戻すこと。戦いが続く中で魔力切れなんて、ゾッとするからね。


 僕は、抱きついて、ゆっくりと魔力を渡していった。



 しばらくして、パラパラと遅れて落ちてきてた小さめの石とかもほぼ終了し、バンミが結界を解いた頃。

 僕は魔力を送ってたけど、バンミが抱いている手と逆の手を僕の額に押しつけて、バンミに抱きついてる僕の身体を剥がしにきたよ。

 まだ、満タンとはほど遠いけど?そう思ってバンミを見ると、

 「余分に消費したのは貰ったからこれでいい。けど、分かってるよな?帰ったら特訓な。」

 僕の耳にそうつぶやいたよ。

 なんというか・・・

 余分に消費した魔力分だけきっちり僕から徴収したんだろうけど、律儀っていうか、細かいっていうか・・・

 満タンにした方がどう考えてもベターだろうに。

 この細かさで、稽古をつけられるんだよなぁ。僕の苦労、分かるでしょ?はぁ・・・


 「満タンにした方がよくない?」

 サービスしとくよ、だから優しくしてね、を込めて、そう言ったよ。

 「まだ戦闘中だ。とっとと離れろ。さもないとザドヴァ式教育としゃれ込むぞ。」


 おっと。

 僕は慌てて飛び降りた。

 あ、ザドヴァ式ってのはね、バンミが捕らえられてた教育機関の指導法?なんでも鞭打ちの刑って、あり得ない暴力主義なとこ。

 まぁ、この世界では、お貴族様でも鞭を使っての教育は普通みたいなんだけどね、前世の記憶がある僕には考えられないことだ。ナッタジ式はひいじいさまの頃から暴力反対!の立派な教育方針なのです。まぁ、その分お説教が長いのは玉に瑕、なんだけどね。



 僕が飛び降りると、なんか視線を感じる。


 複雑な目がいっぱい注がれていたよ。


 目が合ったライライが、なぜか僕の頭を撫でてくる。

 よくよく見ると、みんなの視線が生暖かい気が・・・

 僕が頭にはてなを飛ばしてると、バフマが言った。


 「ダー様。客観的にご自分の様子を考えてみてください。」

 にっこり笑うバフマ。


 客観的に?


 僕はヨシュアに放り上げられる形で戦場に飛び出した。

 みんながあっけに取られる中、風魔法で敵をやっつけて、そのまま落ちてきた。

 まぁここまでは、なんか強くない?てなかんじなんだろうな。よくあることです。

 で、そのあと、ヨシュアからバンミに預けられる。

 バンミの顔を見たと思ったら、思いっきり首にしがみついた。

 降りなさいって、バンミに引きはがされそうになるも、さらにギュッとしがみついて・・・


 ハッ!


 「怖かったねぇ。もう大丈夫だからねぇ。」


 ライライと一緒に僕の頭を撫でながらそう言ったポリア姉様の言葉が、みんなの気持ちをしっかり代弁してるようだ。って、嘘!僕怖がってバンミにひっついてたように見えた?

 いやいやいやいや・・・


 うわぁ、恥ずかしすぎる~。

 思わず赤面し、涙目になった僕。

 誤解をさらに上乗せしてしまったよう。


 おもむろにプジョー兄様に再び抱き上げられた僕に、他の人々も代わる代わる頭や背を撫でていく。

 降ろして!

 そう思って身じろぎするも・・・


 「足下でチョロチョロされたら面倒です。プジョー殿下に大人しく抱かれててください。」

 よそ行きの言い方でバンミが言った。

 内容は、その、ひどいと思うけど・・・

 ただね、確かに一理ある、と、僕も思ったのは確か。

 普段、冒険者たちと乱戦になっても、僕が動きにくいって感じることはほとんどなかった。みんな自分と周りの把握が息をするようにできる人達だからね。

 だけどね、この養成校の人達とは、単にともに歩くだけでも、僕の身長だと難しい。ぶつかられたりつまずかれたり・・・

 特にこのダンジョンの暗がりで、僕の位置をうまく把握できない、ていうよりも把握しようなんて意識がないってかんじなんだもん。

 僕が注意はしてるけど、ほんとなんで僕がいることに気付かない?ってことが、ここまでにもありました。

 ひょっとしてそれに気付いてプジョー兄様ってば、僕を抱いてたのかな?

 そう思って顔を見ても、ニコッてするだけで真意は見えないけど・・・


 「大体片付いたようだな。みんな気を引き締めろ。下に行くぞ!」

 そのとき、パクサ兄様の声が響いた。


 僕はまたまた抱かれたまま、下の層へと向かったんだ。

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