第20話 第3層

 3層は、2層のほぼ延長って感じ。

 なんか、一度に現れるのが増えたとか、ちょっぴり個体の強度が上がったかな?と思う程度。まだまだ、うちの人達の敵じゃなさそう。

 ただ、なぜか通り過ぎた後ろからも出現したりして、うちの人間だけじゃ対応できなくなってきたので、調査隊の騎士の人達も、討伐係に一部回ったかな、って感じ。

 騎士の人達の戦い方って、僕ら冒険者と違って、連携とかものすごくシステマチック。しかも、全部声かけで、すごいなぁ、と。


 えっとね、冒険者の場合、個の力に頼るってのかな、声がけでも「前を開けろ!」とか、「俺がやる!」とか、「ダーが出ろ!」とか、そんな感じ。何をしなさい、じゃなくて、誰が相手するかの指示が多いかな?そのなかでも7、8割は自分がするから、下がれとか守ってとかが多いと思う。


 でも、騎士は違う。

 指揮する人が決まってて、「A班2時方向、散会。B班前へ。フォーメーションC!」みたいな?僕、養成所でこういうのを習うんだろうなぁ、面倒そうだなぁ、なんて思って、見てたんだ。



 そのとき、僕の感覚に何かが引っかかった。

 危険!

 と、感じたと同時に「上!」って叫んでた。

 上から何か来る!!



 もちろん、僕もかまえようと思って身をよじったんだ。いつもなら、抱っこしてるのはうちのメンバーで、敵が来て僕が動こうと思った瞬間には、普通に動けるから、身をよじらなきゃならないこの状況に、僕、一瞬、驚いちゃった。

 やばっ!

 思った瞬間、上に向かって、僕の左側から石つぶてが飛んだ。土魔法ストーンバレット。

 「殿下!ダーを下ろしてください!」

そのとき、すり抜けるような感じで、ヨシュアがやってきて、そう叫んだよ。

 そうだ。

 僕は、プジョー兄様に抱かれていたんだった。


 急に現れたヨシュアに、兄様はびっくりしたみたい。

 それに打ち出された土魔法にもね。

 魔法を撃ったのは側に従者として従っていたバンミだ。

 僕の声と同時に気付いて、魔法を放ったんだ。

 同じようにバフマは姉様を中心として、近くにいた治世者養成校の生徒を抱え込んだ。ごめんだけど、剣使養成校の人達まで手は回ってなくて、ぼんやりしている・・・のは、1人だけだったか。

 当然ガイガム。

 彼は何か起こった、ということすら気付かず、ボンヤリしていた。

 それに比べ、他の二人。すっかり身構えて、なかなかやるな。


 「プジョー殿下、ダー、いやアレクサンダー王子を離してください。」

 重ねてヨシュアが言う。


 今現れたのは多分ルルルの強化された奴だ。

 空飛ぶリスっていうか、こうもりっぽいの。

 普通は本当に地球の公園で見るようなサイズだけど、今のは全長50センチはありそうだ。まぁ、降ってきた奴はバンミが仕留めたけど。


 でも、あいつらって、外でも群れる。

 ここでも集団でいたらやっかいだ。

 て、やっぱり来た!てか、上の方から生み出されてる?

 急に魔力濃度がブワッと膨れあがった、って思ったら、そこから魔物の気配が出てくるんだ。


 僕は、そっちへと戦闘態勢、といきたいところだけど・・・

 驚いて、なのかなんなのか、プジョー兄様が、僕を抱いたままジッとして、ヨシュアのことを見てるよ。離して、兄様!


 「ヨシュア卿、まさかこの子に戦え、と?」

 「ええ。当然でしょう?」

 「私の弟ですよ。国の宝です。戦わせるわけにはいきません。これは命令です。アレクは・・・」

 「私は父です!それに、その子の優先所属は、うちにある。そういう約束ですよね。」

 王子、しかも皇太子の長男、の言葉を遮るなど、不敬も良いところ。

 周りのみんながびっくりして、こっちを見やった。

 特に、状況を理解していないガイガムが、今にも噛みついてきそうな顔でこっちを見て、1歩踏み出したよ。


 でもね、ヨシュアが正しい。

 そのことは兄様方王家の人なら分かってるはずだ。

 僕は、ナッタジ家に残ったまま、王家の一員となった。王族としての義務は不要。ただし王位継承権はなし。そういう取り決め。


 これはそもそもこの国に、特に王家に、仕えさせるのも難しい自由人をなんとか国に確保したい場合の特例措置。その法律が前王のときに作られた。

 そもそもは、知識と力を持つ友人であった、僕のひい爺さんを他国に取られたくなくて、前王が作った法律。

 でも、この国の有力な商人で、貴族位までも与えられていたリッチアーダ家と婚姻関係になったため、他国に流れることがなくなったことから、結局は法律だけが作られて、使われてこなかったもの。

 それを諸々の理由から、3年前、僕に使いたいと言ってきたんだ。

 当時、僕は、いくつかの国の有力者から養子に迎えたいと、狙われてた。後ろ盾として、この国の王家に属すことになるなら、そういうのを追い払える、そう説得されて、この国の王族の末席に名を連ねることになったんだ。


 でもね、元の法律から、僕は王族としての義務も権利も本来は持たない。

 といっても、さすがに海千山千、狸に狐。結局いろいろ背負うことにはなっちゃってるけどね。

 ただ、これだけは、確実に王家の干渉を受けない、と保証されてることがある。

 それは僕が単なるアレクサンダー・ナッタジという冒険者や商人としての行動を、阻害してはならない。


 ヨシュアは、冒険者として商人として、僕の保護者の一人。

 実際、法的にも義父だしね。

 彼が、僕を、この戦闘に冒険者として参加していいって言ってるんだ。当然僕は参加しますよ?


 しばらく、ヨシュアとプジョー兄様で睨み合いが続いた。


 ちょっと、そんなことをしてる場合じゃないんだけど?


 上から、それなりの数、ルルルが降ってきてる。


 一応、バンミの魔法と離れた所からの、多分アーチャの矢が牽制してるけど、こんなところでみんなにボンヤリ立ってられたら、まともに相手できないし・・・


 そう思ってちょっぴり焦った。と、兄様の、僕を抱く手の力が、ちょっぴり緩む。

 それを見て取ったのだろう、ヨシュアが「ダー!」て言って、僕に手を伸ばしたよ。

 「うん!」

 僕は、手を伸ばして、間にいるバフマの肩を踏みつけ、ヨシュアの手に移った。

 僕がヨシュアに移ったと、同時にヨシュアの腕が沈み込んで、僕を上へと投げ上げる。

 それを感じて、僕は一番投げ上げられる力が強いポイントで、ヨシュアの手のひらを思いっきり踏み込み、天井へ向かって飛び上がった。


 「バンミ!」

 僕が叫ぶ。

 返事もなく、けど、バンミは僕の意図を察して、そこにいた養成校の人達を土の結界で包んだよ。

 ナイス!


 「ダー、火はダメだぞ!」

 僕が飛び上がったのに気付いたのだろう、ゴーダンの言葉が飛ぶ。

 そんなの分かってるよ!こんな狭いところで火を使うほどおバカじゃないよ。


 「ウィンドカッター!!」


 僕は、飛び上がりながら、天井に向かって大きく右手を振ったよ。

 手のひらの延長線上に、大きな鎌のような空気の塊が現れ、天井に向かって、勢いよく飛び出す。


 ガガガガガーーーー!


 放ったのは1本。

 けど、刃渡りは大人3人分。


 ヤッター!

 全部、刃の中に収まった!

 数十匹はいたと思うルルルの群れ。

 一網打尽、うん?一刃か?


 と思ったのもつかの間でした。


 ドドドド・・・・


 50センチはあるルルルの群れ。

 なんか、数が倍になって降ってきた。

 そこまでは予想済み。そのためのバンミの結界。


 けど・・・


 ヘンな音、だと思ったんだ。


 天井が見えないくらい高いし大丈夫って思ってました。

 て、全然大丈夫じゃないじゃない!

 ダンジョンの壁とか天井って丈夫、なんじゃなかったの?


 ついでに、どうやら天井を削ってしまったらしく・・・・


 ルルルの細切れと共に、小さくはない岩の塊がドドドと降ってきたよ。


 「ダー!オーバーキルだ!」

 ゴーダンの声がする。

 「ダー!ずぼらして大きな刃は使わない、って言ってるでしょ!」

 だって、ミランダ・・・数が多すぎて、個別対応の小さい刃だと間に合わないかもって思ったんだもん・・・


 僕は自由落下に任せて、石とか魔物にぶつかられないように魔力の膜を張りつつ落ちていく。


 僕を打ち上げたヨシュアは無表情で、でもきっときっちり僕を受け止めてくれるだろう。

 姉様たちを抱き寄せてたバフマは、やれやれと、こちらを見ながら肩をすくめていた。

 あっけにとられてるのは、うちのメンバーじゃない人全員か。

 魔物まで、なんか固まってるみたい。


 で、ヤバヤバ・・・・


 見ない振りして思わず目をそらしちゃったよ、僕・・・


 魔力をさらに追加して、無駄に岩を降らせちゃった僕をものすごい顔で睨んでいるバンミ・・・

 わざとじゃないんだ、不可抗力なんだって。


 僕は頭の中で、バンミへの言い訳を一生懸命考えながら、引力に身を任せていた。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る