第19話 第2層

 ゾロゾロと、そう、文字通りゾロゾロと僕たちは洞窟の奥にある階段を降りていた。

 階段の幅は、細い人なら十分二人で並べる感じかな?

 大きな人でも、普通に通れる。

 天井は高い。

 足下も壁も、はっきり言って岩、だね。

 岩を無骨にくりぬいた、そんな階段を1列になって降りている。


 普通の洞窟だと、壁に亀裂があって、木の根っことか水の染みとかありそうなもんだけど、そういうのがないってのが特徴って言えば特徴かな?

 あと、少なくともここいらは普通の人間でもそこそこ視界を保てる。

 ぼんやり明るいところとか、眩しいぐらいのところとか、完全に真っ暗とか、ダンジョンによってはそんなのもあるらしいけど、ここのは、ギリギリ視界が効く程度の暗さ。戦うには、ちょっと暗い、かな?



 全部が全部そうではないらしいけど、ダンジョンに取り込まれた魔物ってのは、どうも、階層の移動はできなくなるのが多いんだそう。

 階層によって、魔力の濃度が変わり、それぞれに適応した個体になるから、って言われてる。

 で、その中間たる、こういう場所、つまり階段ってのは、基本的に魔物は来ない。これが絶対的法則ってわけじゃないらしいのが、ダンジョンの難しいところだけどね。



 このゾロゾロの隊列だけど、一応この集団では指揮権を持つパクサ兄様によって、前列に騎士たち後列に協力者たち=この場合宵の明星だね、そして真ん中に養成校の面々が連なっている。

 階段を降りきったら少し広くなってるらしく、僕ら養成校の人達は、騎士たちに円陣を組まれた中に入れられる模様。

 魔物が出てきたら、その外側で自由行動の協力者たちが狩るんだって。

 いいなぁ。

 僕もそっちがいいなぁ。

 僕だって協力者の一員なんだし、そっちで良くない?って思ったんだけどね、バフマがつつつ、って寄ってきて、

 「ダー様は今はアレク王子として来てるんですから、当然守られる側ですからね。」

なんて、耳打ちしてきたよ。そのぐらい分かってるって。心配性な執事君です。



 2層。

 広くなったり狭くなったり、なんか面白い地形です。

 僕は背が低いので、真ん中に入れられるとまったく周りが見えないけどね。

 しかも、年下だから、と、一番中央においやられ、周りは人の壁。

 遠くに剣戟が時折り聞こえるのを、つまんないなぁ、と聞いてるだけです。

 せめて、敵が見えたら違うんだろうけどね。

 そんな感じでちょっぴりふてくされていたら、優しい声が頭上から降ってきたんだ。


 「フフフ、アレク、つまんないですか。なんだったら抱っこして上げましょうか?」

 そう微笑むのは、プジョー兄様だ。

 楚々とした、まるでサロンにでもいるような雰囲気で、僕を見下ろしている。


 プジョー兄様は、兄弟の中でも背が高い。

 背だけでいったら、ゴーダンと張るか、もうちょっと高いかも。

 抱っこして貰ったら、周りが見える、だろうけど、僕としては、10歳にもなって抱っこ、とは言いにくい。複雑だよなぁ。

 なんて、軽く断ろうとしたんだけどね。

 答える前に、僕をふわっと抱き上げちゃいました。


 背の高いプジョー兄様が抱き上げてくれたことで、うん、とってもよく見える。


 基本的には、うちのメンバーが戦ってるみたいだね。

 ラッセイも、なんだかんだで混ざってる。ずるくない?

 よく見ると、ほとんどはラッセイとミランダ、アーチャで仕留めてるみたいです。

 アーチャは、得意の弓で遠距離を。ミランダは風の刃で中距離を。近接はラッセイで、3人をすり抜けた魔物は、ゴーダンが軽くいなしてる。

 見たことない魔物ばっかりだなぁ。

 なんて思ってたけど、あれ?


 よくよく見ると、サイズ感とか色とかに違和感あるけど、森によく出没する魔物だね。なるほど、これがダンジョンで変質するってことなんだ・・・


 えっとね、まず影みたいなのは、でっかくて丸いけどテツボって魔物だ。

 普通の森の中だと、ちょっと黒い狐って感じで、木の上から降ってくる。しかも火を吐くやつなんだ。僕のイメージでは上から来るやつ、って思ってたから、普通に地面を走ってきたそれがテツボだなんて、はじめはわかんなかったよ。

 もともと黒いから、この暗い中だと視認しづらい。

 しかも、でかいなぁ。

 狐っていうより狸に進化?鼻の尖った熊、みたい。

 で、相変わらず爪と火で攻撃してくるようです。

 防御力もちょっと高そう?

 といっても、ミランダの風の刃で5枚分、かな?普通のなら一撃か、せいぜい3枚もあれば首を落としてるから、やっぱり強いんだろうね。


 それと、あの赤いのは、ピノ、の進化したやつだね?

 ピノってのは、どこにでもいる兎もどき。前世で言えば中型犬ぐらいで、僕の住むダンシュタあたりだと空色の個体が多い。

 けど、今現れたのは血のような赤色です。

 暗い中で、こういう色も見づらいね。

 ピノってね、初心者にも狩れる魔物だけど、とってもすばしっこいの。

 僕は、ついつい広域魔法で仕留めてる。

 で、魔力の無駄使いって叱られる、ってパターンが多い、なんか、ちょっぴりむかつく魔物だったりします。

 あ、でも、おいしいんだ。

 だから、好きなやつです。

 でも、ダンジョンの中だと消えちゃうのかなぁ?食べたら美味しいんだろうか?やっぱり気になるあいつってところ。

 ただでさえスピードが売りの魔物だけど、さすがはダンジョン。さらに桁違いのスピードだね。なんか、外のより気持ち小さいかな?だから余計に仕留めずらそう。

 あっ、アーチャが弓を外したよ。プププ。この前、ピノなんて目を瞑ってても仕留められる、なんて言ってたのにねぇ。しばらくからかいの種にできそうです。うん。今、バッチシ、目が合っちゃったもんねぇ。ウシシ・・・

 と、少し目を離してる隙に、ピノのスピードに平然と追いついたラッセイが、瞬殺してました。やっぱり柔らかいのは同じ、なのかな?



 て感じで、プジョー兄様が抱っこしてくれたおかげで、ダンジョンの不思議と仲間の勇姿も見れて、ちょっと満足した僕。

 降りる、という僕に、いいからいいから、とニコニコしながら、そのまま進んで2層はすぐに終わっちゃった。


 奥の階段をさらに3層へとそのまま進む僕たち。


 「あれが凄腕の冒険者か・・・」

 そんなつぶやきと共に、メインで働く3人への憧れの視線を向ける生徒たち。

 おかげで、抱っこされてる僕への視線が減ったことは、嬉しい限りなんだけど。

 でもね、やっぱり抱っこでダンジョン移動って、僕としてはとっても遠慮したいんです、兄様・・・

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る