第18話 第1層

 ダンジョン、てのは魔力溜りが凝縮してコアが出来、それが意志をもつみたいに周りからいろんなものを誘致してできるってことなんだけど、そういうものだから、そうそうポコポコできるもんじゃない。

 コアは魔力を誘引してはより強い魔力の塊になって、ドンドン深く潜り、何層にも層をなす。

 で、コアに近づくほど魔物たちも強化されるし、強化されない弱いものはダンジョンに吸収されちゃう。深い層ほど魔物が強くなるってこと。それに層がたくさんあるほど強いコアがあるってことだね。


 これはダンジョンの不思議で、ダンジョンで命を失うと、肉体ごと徐々に消えちゃうんだって。このことからダンジョンが吸収するんだって言われてる。

 まぁ、こうは言ってるけど、あくまで有力なダンジョンに対する説ってだけなんだけどね。コレに当てはまらないのとか、いろいろあるらしいし。


 ひょっとするとコアは精霊のなりそこねかもしれないってのは、ドクの説。あ、ドクってのは、僕の仲間で、魔導師養成校の校長をしている、世界最強の魔導師なんだ。


 精霊も大地から生み出されて意志を持ち、自分の領域を形成できるんだ。

 ていっても、知ってる精霊は2人だけだし、彼女たちをみてたらそうだろうな、って思うだけなんだけどね。

 そう。実は僕、知り合いの精霊もいるんだけど、それはまたの機会に、ね。



 まぁ、ダンジョンってものがあって、それは魔力が多い場所にできる、ってのは、常識的な事実として、誰もが知ってることだ。

 強い魔力同士は磁石みたいに引き合うから、複数のダンジョンが近くに出来るのはかなり少ない現象らしい。

 でもね、この王都っていう土地はそういう意味でも特殊。小さなダンジョンが複数近くに存在しているんだ。

 それについてもいろんな学説があるけど、それはまぁおいおいね。



 で、今、僕たちのいるダンジョン。

 本当に小さくて、たったの7層までしか発見されてません。

 だったらコアなんて誰かの物になってんじゃないの?って僕なんかは思ったんだけどね、コアなんて見たことがある人はほとんどいないんだって。なんだったらそんなものは存在しない、っていう学説まであるそうです。


 でもね、僕、実はコアを見たことあるよ。

 ひいじいさんが発見し、コアの所有者になって、僕に引き継がれてるナッタジ・ダンジョン。あそこで分かったんだけど、ダンジョンの各層って、おそらくコアのある場所と直接には繋がってないんだ。

 別空間っていうの?

 意志が産まれたようなコアなら、違う場所にコアは隠す。

 だから、人にはなかなか見つからない。

 そういうことだと僕は思ってます。



 7層のダンジョン。

 ちょっぴり周りの魔物より強化された魔物が出るだけの比較的安全なダンジョンっていえる。

 すくなくともこのダンジョンはそうらしい。


 王家第7ダンジョンってのが、その正式名称。

 ちなみに、すでに消えてるダンジョンとかもあって、たとえば1と3,4はすでにないです。

 7層だから第7じゃなくて、王家のものの中で発見の順番が7つ目ってこと。何番まであるか、僕は知らないけど、噂では3桁あるんじゃないか?って。

 見つかったのが王都近くだから早いだけで、番号は早いけど、比較的新しいダンジョンなんだそうです。



 王都の近くってことは、ダンジョンの中も、その地形に準じている。

 で、この周りは、まぁ、森だね。

 ていうか、この国はほぼ森。

 砂漠地帯とか、山林地帯、海沿いももちろんあるけど、基本的には森が大部分を占めている。むしろ密林?っていったほうがいいところがメインかな?

 王都付近のこの辺りは、まだ森、って感じの方が強いです。密林ほど深くないの。


 で、第1層は、実はだだっ広い、岩をくりぬいたような洞窟、でした。

 今、僕たちがいるところだね。

 でも、これは実は整備されたもので、集合場所として使われてるんだって。

 放っておくと地形は変わるけど、ある程度の頻度で整地をしてれば、こうやって広い空間を維持できるし、なんだったら拠点になる建物を作っておくことも出来る。

 そこそこ人の来るダンジョンってのは、こんなかんじで、第一層に受付だったり、管理事務所的な建物を保持してる場合が多いんだそうです。

 まぁ、ふつうはコアを所有して管理、なんてできないから、入り口をきっちり管理してれば管理者ってことになるそうです。少なくともこの国の法律ではそういうこと。


 てことで、ここはだだっ広い広場です。

 一応、管理用の建物もある。

 僕らは、広場に集合して、第2層に繋がる階段を見ています。


 今この広場で集合しているのは、養成所関係者のみ。調査隊の面々は、管理事務所でこっちを見てるようで、視線を感じるよ。

 やっぱり、このメンツを見て、頭抱えていそうです。

 だってさ、皇太子の子供全員(養子の僕も含めて)、ここに来ちゃったんだもん。

 しかもさ、治世者養成校から、他に2名、当然有力者の子弟でしょ。追加に、剣使養成校から3名。二人は知らないけど、少なくとも1名は、無茶苦茶弱いって分かってるし。

 まぁ、ラッセイ曰く、これでも過剰戦力ではあるんだそう。もちろん、普通の時なら、ってことだけど・・・


 「この人数なら、2チームか3チームに分けたいところなんだが・・・」

 一応引率の先生という体でやってきたラッセイが、僕ら生徒を前に話し出した。

 「教師という点でならプジョー殿下と僕で分かれるのもあり、なんですけどねぇ。」

 そっか。プジョー兄様は先生枠だった。

 宵の明星とその他で分ければ、捜索とかも楽なんだけど・・・

 安全を考えたら、僕ら以外のチームにゴーダン達がこっそり張り付くのでいい気がするし・・・


 「ラッセイ先生。セオリーはわかるけど、今回は全員で移動しようじゃないか?治世者養成校の子なら経験もあるけど、そちらの方は・・・ねぇ。」

 剣使養成校の子供たちを見て、プジョー兄様が言ったよ。

 確かに、僕と剣使養成校の人達は昨日入学したばかり。

 って、なんで来たんだろう?


 プジョー兄様の言葉にラッセイが困った顔で悩み出しちゃった。うーん、僕も一緒に困っちゃったよ。


 「兄様の案でいいんじゃないか?ついでに我々も同行しよう。」

 そのとき、思いもかけず表れたのは、調査団の人達だった。

 パクサ兄様とその部下が10名ほど。

 それにゴーダン、ミランダ、ヨシュア、アーチャといった、宵の明星のメンバーだ。


 パクサ兄様は、僕らに近づくと、腰に手を当てて、言ったよ。

 「このダンジョンは今閉鎖中でね、かわいい弟がどうしても、と言うから許可したが、これだけの人数がバラバラに入られると閉鎖の意味がなくなる。アレクとその従者、それにラッセイ卿だけだということで、許可したが、それ以外の人々まで許可した覚えがないんですよね、。」

 ハハハ、いつも普段はプジョー兄様のことを「兄様」と言うパクサ兄様。喧嘩の時とか、お外では兄上呼びするけど、そのピクピクしている眉を見れば、怒っちゃってること、明白だね。

 なのに、相変わらず、プジョー兄様は涼しい顔してる。ハァーー。


 「ハハハ、いやぁ、ねぇ。私としてもうちの末の弟が心配でねぇ、ついてきちゃったんだよね。」

 「ついてきちゃった、じゃないですよ。兄様は自由すぎます。私としては、兄様に今言った以外の全員を引率して帰っていただきたい。だけど、ここまできて帰れ、ってのはさすがに気の毒です。最大限の譲歩として、全員での行動、そして、私の指示に従うことを了承していただきます。」

 「だってさ。みんなどうする?」

 「私は、当然アレクと行きますわ。仕方ないですし、パクサ兄様のお言葉に従って差し上げます。」

 プジョー兄様の質問に、僕を後ろから抱きしめて、ポリア姉様が言った。

 そして、他の面々も、次々と自分も行く、と主張する。


 「だそうです。パクサ、手数だが、同行、よろしくね。」

 ニコニコしている、この中での最大権力者が、苦い顔をする弟ににっこりと微笑んだんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る