第17話 はじめてのダンジョン

 ダンジョンです。

 うんダンジョン。


 この世界にはダンジョン、と呼ばれる不思議スペースがあります。

 これがなんなのかってのは、よく分かってないんだって。

 ただ多少は分かってることもあります。


 この世界にはね、魔力っていう、まぁ、魔法を使うための力があるんだけど、それは生きとし生けるものすべてが持っているってだけじゃなく、土地そのものにも内包されるエネルギーなんだ。

 で、人間にも魔力が多い人少ない人があるように、大地にも多いところ少ないところがある。

 しかも、魔力は魔力を呼び魔力溜り、なんていうものができたりするんだ。

 さらに魔力溜りはさらに魔力を吸い寄せ、ギューッと濃縮される。

 それがあるとき、意志があるかのようにさらなる魔力を呼び込み、魔獣やなんかもそれに惹かれて呼び込まれてしまう。

 そういうふうに魔力が凝縮していろいろなものを呼び込んだもの、それがダンジョンだって言われてるんだ。


 だからね、実はこの世界のダンジョンって宝箱は、残念ながらないんだ。

 特殊な魔物がいるだけ。

 魔力が多い、そんな場所に誘い込まれた魔獣は、変質し、強くなり、この世界の生き物なら誰でも持っている魔石、っていわれるものの質が向上する。

 この世界で魔石は第2の心臓。魔力を貯めることが出来る臓器っていうのかな?もちろん僕ら人間にだってあるものなんだ。


 で、この世界のエネルギーってのは、魔力が中心。

 魔導師が魔法を使うためだけではなくて、魔法陣を刻んで魔法を再現する魔導具ってものもあり、この魔導具のコアになるのが魔石なんだ。

 だから、この世界の道具を動かすには魔石が必要。魔石っていうのは、この世界の動力であり、エネルギーを貯める、重要な物質ってこと。


 だもんで、良質の魔石は高く売買される。

 魔石は魔物とか魔獣っていわれる生物から採取するんだ。

 当然人間からは採取しないよ。そもそも普通の人の魔石って砂粒レベルの大きさだし役に立たない。その点では良かったのかもね。人間から魔石を採取するなんて猟奇的な世界じゃなくて。



 ダンジョンは、そういうわけで、その辺りに生息する普通の魔獣を誘引して、変質させた力場ってことになるかな?


 でね、さっきも言ったみたいに、魔力が集まってギュッて濃縮されるでしょ?ちょっと考えると分かると思うけど、それはすごいエネルギー体なんだ。

 でね、実はそのエネルギーを使ってダンジョン内を自由に改変できたりする。このことを知っている人は、ほとんどいないと思うけどね。


 なんで、僕が知ってるのか?

 それは、僕のひいじいさんであるエッセルがダンジョンコアを発見し、それを破壊しようとしたところ、そこに住んでいた魔物たちが、壊さないでくれってお願いし、引き替えにダンジョンコアの所有権を得たからなんだ。今は、そのダンジョン、僕がひいじいさんを継いだ形で主になってる。


 でね、僕はそのダンジョンには行ったことがあるんだ。

 そこは、日本からの転生者であったひいじいさんの夢を叶えるダンジョンだった。

 ひいじいさんも、宝箱もない、スライムやゴブリンっていう定番魔物もいない、この世界にちょっぴり残念感を持ってたみたい。あと、ドラゴンとやりあう、とかね。

 で、ダンジョンをいじれるっていう、そこの住人と協力して、日本のRPG的ダンジョンを作っちゃったんだ。

 まぁ、これは僕みたいなゲームを知ってる人用の特別バージョンで、普段は普通のダンジョンと同じく、その辺りの魔獣や魔物を取り込んだ形になってるんだけどね。



 で、まぁ、そんなわけで、普通のダンジョンってのは、今回が初なワケですよ。

 

 今いるこのダンジョンは、そんなに危険な魔獣、魔物はいないってことで、主に養成校なんかの訓練に使ってる、王都にほど近いダンジョンなんだって。


 で、ゴーダンがここに僕を誘ったわけ。

 どうやら、例の失踪事件が多発しているのがこのダンジョン内だってことのようです。

 現在は、お城から派遣された騎士が封鎖してる。

 で、調査を請け負った僕ら宵の明星と調査団のパクサ兄様一行だけが、入れることになってたんだけど、どうも進展がないようで・・・・


 パクサ兄様が、そんな中、学生の訓練をしよう、って言い出したんだそうです。ま、煮詰まった末のおとり作戦っての?

 でもね、さすがに普通の養成所の子供たちを使うわけにはいかないってことで、僕に白羽の矢が立ったんだって。

 うちの人達のこの意見には、兄様は反対したみたいだけどね。

 いやいや言い出しておいて、身内はダメとか、それはだめでしょう?

 

 まぁ、僕なら、他の子供たちよりは強いし場慣れしてる。

 しかも、従者がついてくることは不自然じゃないから、バンミとバフマも近くで行動できる。引率の先生としてラッセイだっている。

 当然、ここの警備として、今まで調査しているうちのメンバーや兄様の調査団も遠くから見守ってくれる。

 僕としては問題なし。


 だもんで、どうしてもダンジョンに行きたいと駄々をこねるわがまま王子を僕が演じ、さきほどのメンバーで仕方なく付き合う、という体を作り出したわけです。人間が絡んだ事件なら、どこで見られてるか分からない、そのための一応のカモフラージュだったんだけどね。


 けどね・・・・


 僕はグルリと見回す。


 本当なら視界に入るのは、バンミ、バフマ、ラッセイだけのはずなのに。


 なぜか、ポリア姉様にプジョー兄様、それだけじゃなく、治世者クラスのクレイそしてライライが、プラスしてどこから聞きつけたのか、昨日ボコっちゃったガイガムとその連れとかいう盾を持った大男と細長い魔導師らしい男を連れて参加してきたんだ。

 僕のわがままでダンジョンに潜る、っていう体だったもんだから、「ずるい」の大合唱に断り切れず・・・


 はぁ。

 この人たちを守りながら、って、なんか、随分ハードル上がっちゃったなぁ。

 何事もなければ良い、と思うべきか、でもそれならおとり作戦、だめじゃん、って思うべきか、まったくもって、複雑な心境です。 

 

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