第16話 パーティー服

 いろんな意味で、座り心地悪い時間を、僕は今、過ごしてます。


 お風呂上がって、用意された服を着て、お誕生席にセリオと二人、座ってる。

 親しい人が集まってのホームパーティー。

 そんな認識だったんだ。

 うん。集まった人達のメンツを見れば、その認識で間違いない。

 僕だって冒険者の端くれ。

 何かにつけて騒ぐ宴は、大好物。

 なんだけど・・・・


 まず、最初にどうよこれ?と思ったのはお風呂を上がったとき。


 いつも着替えは自分で用意するんだけどね。

 セリオなんかはメイドさんに任せてる。

 だから男湯の脱衣所にメイドさんがいても、ちょっぴり恥ずかしいだけで気にもしてなかったんだ。

 当然、今日だって僕は用意してたよ。

 だけど、そこの場にメイドさんがいて、あれよあれよという間に、ヒラヒラの下着を着せられちゃった。


 僕があたふたとしてるのを尻目に、バンミとナザは、イシシ・・・みたいな笑い方をしながらとっとと着替えて出ていっちゃったし。

 で、気付くと、僕とセリオ。そしてメイドさんが4人。


 そのうちの二人が僕を囲んで、身体の水分を拭き、下着をつけたんだ。


 こういうの初めてってわけじゃない。

 お城に呼ばれるときとかね、着るのが難しい服を用意されてるときも多いし。

 あと、お城で泊まったとき。

 自分で服を脱いだだけで泣かれたんだ。「王子は私の仕事に信頼を寄せてくださらないのですか」、なんてツーッて涙流されちゃ、手を出せないって言うか・・・

 で、服の脱ぎ着はメイドさんにされるがままになってる。


 リッチアーダでも、同じようにメイドさんにお着替えはされそうになったけどね、最初はママと一緒だったし、ママがやりたいって言ったから、なんだかんだで、お断りしても文句は言われない。だから自分で服を用意して、ちゃんと脱ぎ着もしてたんだ。


 でも・・・


 僕は、なんか鬼気迫るメイドさん達に逆らえずに、なんだか、すごい服を着せられました。


 ヒラヒラ、キラキラの服。

 まさに王子様って感じで、パステルなピンクをベースに所々輝く赤やグリーンで地模様があしらってる。それに、宝石とレースをふんだんに散りばめられた、半袖半パンのスーツっぽいの。

 お城のパーティーに王子として行くような服なんだもん、どういうこと?って思ってたら、近くで着替えさせられてるピーレを見て、さらに、あれ?って思ったよ。


 なんていうか、濃紺に色とりどりのラメみたいな模様。

 レースと宝石が僕のと同じところにつけられていて、なんていうか、ちょっとおそろいっぽい?

 けど、あしらわれてるレースや宝石は僕のの方がちょっぴりボリューミー。


 「わかるか?」

 僕が目を白黒させて見ているのに気付き、セリオが言ったよ。

 何が?

 「一目で同じデザインって分かるだろう?ダーに従う良家の子息って誰が見ても、一目瞭然だ。」

 ニカッと笑うセリオ。

 確かに、前世で記憶のある、アイドルとそのバックダンサーって感じかも・・・

 「うちの4代の女たちの自信作だってさ。」

 「4代?」

 「おおばあさま、おばあさま、母様にピーレだ。」

 「えっと・・・」

 僕が返答に困っておろおろしてると、なんだか遠くを見つめてセリオが語り出したんだ。


 「俺がダーの守りになるって決意したのは、去年のことだ。ほら、城のパーティーがあったろ?ダーは王子として、皇太子殿下たちと一緒にいた。最初はすごいなぁ、と思って見てたんだけどさ、周りの貴族や商人のダーを見る目に、絶対、こいつらの好きにはさせない、って思ったんだ。」

 「えっと・・・」

 「ダーはさ、周りのどの女の子より可愛かったし、王家の方々も、大事にしてるのは、外から見ててもよく分かった。でさ、それを見る周りの目は大きく3つだったんだ。一緒に愛でてる人。運の良い子供を取り込んでやろう、とする奴。運の良い子供として、嫉妬だろうなぁ・・・足を引っ張ろうとする奴だ。好色そうなじじいとかばばあのダーを見る目も気持ち悪かった。俺は、こんなやつらのところにダーを放置できないって思ったんだ。でダーを守れる大商人になるって決めた。それを知った、おおばあさまは大喜びでさ。家族中を巻き込んで、この服を作ったんだ。」

 「この、服?」

 「ああ。俺にとっちゃ、戦闘服なんだよ。見ての通り、俺のはダーの髪色を想像させる。そして、ダーのは俺の髪色。ってだけじゃさすがにダメだろってなって、騎士として共に行動することになるだろうラッセイさんとミランダさんの髪色も織り込んでる。デザインは一緒で、主従を表すように、お前のをちょっとだけゴージャスにしたんだってさ。」

 「主従って・・・」

 「だから、王子と商人だ。パーティーに出ればそこは仕方ないだろう?けど二人でこれを着れば、養子で後ろ盾として弱いってところを突く気のバカどもにリッチアーダとの関係を、しっかり主張できる。」

 「でも、僕、パーティーとか出なくて良いんだよ。そういう約束で養子になったんだし。」

 「でも、今までも出たことあるし、なんだかんだでまったく出ないってことじゃないよな?」

 「まぁ・・・」

 「それとも、ダーは俺が、リッチアーダが後ろ盾って嫌か?」

 「そんなことないけど。」

 「一応、リッチアーダ商会っていえば、子爵位もいただくそれなりの商会だ。他を牽制するぐらいの役には立つと思う。そりゃあ、ダーがいやならもちろんやめるさ。でも今日だけでもいい。おおばあさまたちを喜ばせてくれないか?」


 僕は渋々頷いて、その派手なおそろいの恰好でパーティー会場へ入ったんだ。


 その時はみんなそろってて、かわいいとか言ってくれたし、ひいおばあさんのお母さんであるノアさん=セリオいうところのおおばあさまは、涙を流して喜んでくれた。僕とセリオのツーショットが、ものすごく嬉しいんだって。


 「二人のかわいい孫たちの入学祝い。長生きはするもんだねぇ。」

 そう涙するノアさんだけど、僕は仕事の潜入のためだけに入学したんだって後ろめたさでいっぱいになっちゃうよ。


 「せっかく入学したんだ。仕事が終わってもしばらく学生やればいい。」

 ゴーダンがそんなことを言って、大人たちは大きく頷いてる。

 僕としてはすぐにも辞めたいんだけど・・・

 「まぁまぁ、先のことは置いておいて、おいしいものを早く食べましょう?」

 ママのそんな一言で、一応、楽しい宴、のはずのものは始まった。


 でもね、服も、みんなの笑顔も、ノアさんの涙も、そして、学校を続けろという仲間も、なんだか、遠いところの話みたいな気がして、ちょっと違う、とか思っちゃって、ちょっぴり座り心地が悪いなぁ、なんて思ったりして・・・

 僕は、そんな風に時間を過ごしちゃった。



 そんな、楽しいながらも、もやもやするひとときももうすぐお開き、っていうその頃。

 ゴーダンが僕の側にやってきてささやいたんだ。


 「ダー、明日、ダンジョンに行くか?」


 ダンジョン?

 え、普通の?

 もちろんYESだよ。

 生まれて初めての、ダンジョン!

 沈みかけてた気持ちが浮上する僕って、以外と現金なのかも。


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