第15話 みんなでお風呂
「やっぱり、すごいなぁ。」
フヒィーと、大きな息を継ぎつつ、そう言ったのはセリオだ。
ん?と僕は、セリオを見たよ。
ここは、リッチアーダ家ご自慢のお風呂。男湯のほう。
お隣には女湯もある。
その昔、ひいじいさんが作ったものだそうで、いまだにピカピカなのは、魔法っていう便利なものがあるからだと思う。
ちなみに、ひいじいさんは拠点(本人は「隠れ家」って呼んでたらしい)がいくつもあるけど、全部に大小サイズの違いはあれどお風呂=バスタブが設置されている。元日本人の血がさせる、と言ってたらしいけど、これに関しては、まぁそうか、程度かな。僕は多分夏場はシャワー派だったと思うんだ。
ちなみに僕も前世は多分、地球って異世界の日本って国に生きてたと思う。だけど、ひいじいさんと違って、どこの誰って記憶もないし、年齢すらも不明。なんとなく学生で男だったんだろうなぁ、って感じ。ていうのは、働いたって記憶は全くないからね。
ただ、おっさんになってて引きこもってた、ってんならそうかもしれない。でも、キャンプとかが好きだった、星を見るのが好きだった、なんていうボンヤリした記憶もあるし、普通にはコミュニケーション取れてた人だったと思う。今みたいにガンガンくる人はいなくて、どれもこれも上っ面な付き合いだったんじゃないかな。きっと手のかからない明るめ優等生、って感じ?
たぶんたぶん、ばっかりなのは、本当に記憶がないからなんだけどね。
なんとなく上がってくる記憶が、みんなとワイワイしてるけど、どっちかっていうと、ネットでいろいろ漁っては、それ見ながら手作りする方が好き、みたいな?そんなイメージが浮かんでくる。
好奇心旺盛でなんでもやってみたい、っていうのは今と変わらないかな?でもたぶん前世では、そんな自分は隠して、こっそりと一人で楽しんでた、んだと思う。
唐突になんでそんなことを思ったか、っていうとね、ここがお風呂だってだけじゃなくて、セリオの目が、ね。
たぶん、ちょっぴり苦手なやつ。
前世では、人とはテキトーに付き合ってて、その、・・・がっつり心のテリトリーっていうのかな、そこに踏み込まれるのは苦手、だったんだと思う。
本当は、今でもそう。
ただね、赤ちゃんの時から、けっこうディープな人生送ってると思うんだ、ここが日本とは違う危険な世界だってことを差し引いてもね。
なんせ、生まれは奴隷。今の身分は王子様、だもん。
王子になったのは7歳の時。
つまり、たった7年で、身分だけでいうとそれだけ上り詰めた、って、外からは見えるだろうね。
だけどね、ちょっと考えれば分かること。赤ちゃんとか幼児でしかない子供に、それを自力で成し遂げる力があるはずない。全部、仲間のおかげです。
そこまで、僕に良くしてくれるってことは、それだけ僕にグイグイきてる、ってことでもあるんだよね。
嬉しいんだけど・・・なんていうか、僕としては、十分甘えてるって思ってるのにね、みんなには足りないみたいで・・・
で、そんな僕に仲間たちが非難するときの目と同じ目を、ううん、正確には、そんな目をするようになる直前の、なんか苛立ちとか不満とか、そんなことを言うときと同じような目を、セリオがしてる、って思ったんだ。
「やっぱりダーはすごいよ。伊達にアレクサンダー王子殿下、じゃないよな。」
「やめてよ。別に王子なんて、仮なんだからさ。」
「仮で王子になんてなれないよ。それに・・・」
はぁ、と、セリオがため息をついた。
一緒に入っているみんなを見渡す。
一緒にいたのは、バンミとナザ、そして僕。
「ラッセイにあそこまで食いついて、すごいと思うよ。時折僕なんて何やってるか見えなかった。」
「全然だ。3人がかりで、かすめることすらできない。ナザだって受けてるようで、受けさせて貰ってただけだろ。」
「ああ。やっぱり強いよなぁ。」
バンミとナザがそう言うと、はぁっ、と、ため息をつく。
ちなみに、うちのパーティで最強がラッセイってわけじゃない。ダントツでゴーダンっていう、でっかい壁があるからね。
それに実践となると剣だけじゃない。魔法を込みだと、大きく順位が変わると思う。それでもゴーダンが1位かな?なんせ、魔導師としても超一流だ。
「それでも、二人はダーと並び立ってる。うらやましいよ。」
「えっと・・・セリオは、リッチアーダ商会の跡継ぎだよね?僕より立場的にもずっと上だろ?」
なんせママのナッタジ商会の後見がリッチアーダ商会ってのは、商業ギルドの中じゃみんな知ってる。
「跡継ぎの前に親戚のお兄ちゃんだ。お前、立場が下のはずないだろうが!」
んと、ちょっとややこしいけど、僕のおばあちゃんパーメラさんとセリオのお父さんサンジさんがいとこにあたるんだよね?ものすごく遠縁、って思うのは、僕が日本の感覚を持ってるからなのかな?
その昔リッチアーダ家に王家から嫁いだ人がいるから、っていうのが、僕が皇太子の子供になった理由の1つになってたっけ?そう考えると近い血筋?
「あのな、僕はリッチアーダ商会を継ぐつもりだ。そのために勉強をしているし、それなりに才能もあると思ってる。ヨシュア兄さんにも、その点は頼りにされてんだよ。」
なんか、こういう勢い、ってのは、後ろの二人とも通った経験あるんだよね。チラッと二人を見ると、なんかニヤニヤしてるし・・・
「商標の発明、商品開発に商品の差別化。包装の工夫に商標入りバッグを使った宣伝効果。全部、ダーがやったって知ってる。すごいやつだと思うし、叶わないって悔しい思いもしたけどさ。お前を見てると危なっかしい。これだけすごいことしてるのに、すごいって思ってないって分かるから。いいか、商人はもうけてなんぼなんだ。ダーはそれを全部好きに使って、ってやってただろ?ほんと、何やってんだよって思うよ。あのな、うちのじいちゃんがどんだけ奔走したか知らないだろ?じいちゃんがいなかったら、今頃ナッタジ商会は誰かに喰われてたかも知れないんだぞ。・・・はぁ。だけどさ、じいちゃんのかわりなら僕にもできるかもしれない、そう思って、僕はお前の商人としての力の保護に尽力するって決めたんだ。お前のこと僕の危なっかしい弟として、上流階級のハイエナから守るって決めた。覚悟しろよ。」
ザバン!とすごい音を立てて、顔を真っ赤にしたセリオが、お風呂から走り出ちゃったよ。
唖然と、見送る僕だったけど。
ハハハハ・・・
ワッハッハッハッ・・・・
突然大笑いするバンミとナザ。
「また強力な仲間ができたじゃないか。」
笑いながら、僕を抱き上げて、自分の膝に座らせたバンミ。
そして、そんな僕の頭を正面に座ったナザが撫でてきた。
「だから言ったろ?どんなに一人でできるって思っても、外から見たら危なっかしいんだって。」
「でも良かったよ。俺は言っても奴隷上がり。上流階級相手に、お前を守り切れないかもって不安だったんだ。」
「剣じゃない守りは、ダーに足りないものだ。王家がダーを欲しがるのも、この国から出したくないだけ、ザドヴァと同じだからな。あれに期待は出来ない。そう思ってたが・・・だが、セリオは違う。俺たちと同じだ。」
「バンミたちと同じ?」
「ああ。俺はお前に救われた。本当に従者として仕えたっていいって思ってる。ハハハ。師匠の地位も捨てがたいから先生兼従者ってな。仮に、絶対ありえないけど、仮に、宵の明星が敵になったとしても俺だけはお前っていう人間についていく。」
「俺だってそう。ダーがいなければ、今でも奴隷か、のたれ死んでるか、だ。腹の立つこととはいえ、半分はお前と血が繋がってるってことが、今となっては最大の誇りなんだ。俺だって、お前の敵になるなら宵の明星からだって守り切るさ。」
「そんな顔するなって。そういうの、ダーが嫌いなのは知ってるけどな。それでも覚えていて欲しい。ダーの周りはダーが好きな奴がいっぱいだ。それぞれが自分の得意なところでダーの力になろうとしている。セリオだってそう。あの坊ちゃん、ちゃんと戦う力は、腕力だけじゃないって分かってる。ああいうのは強いぞ。」
「そうだよ。ナッタジにも戦う力はなくても、ダーに寄り添うみんながいっぱいいるだろう?ニーもクジもみんなみんな、ダーのためにって頑張ってる。みんなやりたくってやってるヤツらばかりだ。お前は堂々としていろ。やりたいことを好きなだけやっていればいい。何があっても、みんなが守るから。」
そう。
バカみたいに愛されてる。
それは分かるんだ。
でも僕にそれだけの価値があるのか。愛されれば愛されるほど不安が膨れあがるのは仕方がないこと。なんで、こんなに良くしてくれるんだろう。それに、ガンガン中に踏み込んでこられるのも、ちょっと苦手で・・・・
パッシャーーン!
「ちょっ、何するんだよ!」
僕が、ちょっと物思いにふけってたら、僕を抱っこしてたバンミが急に湯船に放り投げたんだ。
バンミはニヤッとして言った。
「何、難しい顔してるんだか。ナザが言ったとおり、お前は好きに進めば良い。なぁに、やり過ぎでも危なっかしくてもいいんだよ。いっぱいストッパーもついてんだからさ。間違えたら、泣き虫ダーができあがるだけ。安心して無茶苦茶やんな。」
悔しいけど、バンミもナザも、頼りになる笑顔で、僕を見ていた。
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