第14話 みんなでお稽古

 「この話はあとで。」

 険呑な話だなぁ、と思っていたらヨシュアが、そう言ったよ。

 視線はこの家のお子様たち。

 良家のお子さんに聞かせる話じゃなかったよね。

 ゴーダンが、こりゃまたアンナに怒られるな、なんて言いながら、ヨシュアと二人、出ていったから、残されたのは元々いた僕たち5人とラッセイだ。

 ナザとバンミが嬉々としてラッセイにお稽古をねだったよ。本当に好きだねぇ、二人とも。


 「ん-。だったら、さっき言ったの体験してみるかい?」

 ちょっと考えてから、ラッセイは言ったよ。て、僕?

 僕、もうお稽古する気ないよ?ていうか、・・・嫌な予感・・・

 黙ってたけど、みんなの視線の圧がすごいから、仕方なく口を開いた。


 「さっきのって?」

 「ほら、手首を打たれるのと、小指を打たれるの。まぁ、親指でも良いんだけどね。」

 「護身術でも使うな。」

 バンミがポソリと言った。

 そうか、小さい頃習ったっけ?


 「ダー、木刀構えてみ。」

 「いやいや、僕は遠慮・・・」

 って言ってると、バンミが壁に掛けてる僕サイズの木刀を投げてきたから思わず掴んだよ。

 「俺が打ってやろうか?」

 いや無理。コントロールお化けのバンミは、剣の方でもギリギリ責めるつもりでしょ。僕はブンブンと首を振った。

 だったらと、立候補しようとしているナザはもっとダメだからね。


 「体験だけだから。知ってると知らないじゃ、実践で全然違うぞ。」

 ラッセイが言うのは分かるけど、痛いって分かってて、やっぱり怖いでしょ?やらなきゃならないって分かってても注射、怖いのと一緒だよって言ったら分かってもらえるかな?



 「ハイハイ、ハァイ!」

 その時、甲高い可愛い声が聞こえた。

 見学のピーレが飛び跳ねながら手を上げていた。

 「ねぇ、そのお役目私じゃダメ?」

 「え?できるの?剣で手首と小指を叩くんだよ?」

 ラッセイの疑問にエッヘンと、まだまだ小さい胸を突き出すピーレ。

 「私だって、剣のお稽古はしてるよ?狙ったところに打つのは得意だもん。それにね、かわいいダーちゃまが、あなたたちみたいなごっつい男の人に打たれたら壊れちゃうでしょ。」

 「いや。それはそれで・・・」

 僕は、丁寧に断ろうとしたんだけどね。テケテケと走っていって、自分用の木刀をもう構えてるし。


 「ほらほらダーも構えて。女の子に恥をかかせないの。ここまでされて逃げちゃうのかな?」

 ラッセイに背中を押されて、諦めつつ構える僕。


 ピーレってば、同い年だけど、僕より全然大きいんだよね。

 そりゃ、力は全然弱いけど・・・て、弱いよね?

 剣を持ってるの初めて見たけど、なかなかに様になっていて、背中に冷たい汗が走ったよ。

 「じゃあ、まずは手首から。下からすくい上げるように、思いっきり打ってみて。」

というラッセイの指示に「ハイ!」ってかわいく答えると、「ヤァー!」と言いながら、打ってきたよ。

 だから思いっきりはダメだって!


 パン!


 そこそこいい音がして、そこそこの衝撃がきたよ。

 十分痛いって。

 けど、ちゃんと平気な顔で、構えを崩さずに耐えた。僕、偉い!


 「きゃー!やっぱりすごい!ダー君大好き!」


 そんな僕を見て。飛び跳ねてる様子は、かわいいっちゃぁ可愛いんだけどね。


 「はいはい。じゃあ、こんどは小指ね。同じぐらいの力で狙えるかな。」

 「はい、いきまぁす!」

 キャッキャ言いながら、木刀を構え治すピーレ。

 「ヤァーーー!」


 パン!


 「いってぇ!」

 思わず、剣を離してしまったよ。テンション上がって、力、上がってない?

 僕は、手を抱え込んだ。これ下手したら折れてるぞ!


 「ね?全然威力違うでしょ?」

 ね、じゃないよ。僕は涙目でラッセイを睨んだよ。当然、気にもされないけどね。

 「ん?ちょっとヒビが入ったかな?自分で治せるよね?」

 「痛くて集中できないよ。ママに・・・」

 立ちあがろうとした僕の肩をしっかり押さえると、にっこり笑うラッセイ。

 グスン。わかったよ・・・

 「ヒール。」

 ポワンと白く光って、腫れと共に痛みも引いた。

 「できることは自分でしようね。戦場でいつでもミミが側にいるとは限らないでしょ?」

 「うん。」

 「よし、良い子だ。」


 「ラッセイ、俺もお願いします。」

 「俺、俺が先だ!」


 なぜか、バンミとナザが、こんな僕の様子を見て、やりたがってる。こういうところはホント意味がわかんないよね。


 「ん。じゃあ、打ち方はセリオ君に頼もうかな?」

 ラッセイの視線を追うと、なんかうらやましそうな顔をしているセリオがいた。

 ラッセイに指名されて、嬉しそうに、二人に攻撃するセリオ。


 パン!

 パン!


 さすがに2歳上の男の子、セリオ。妹よりさらに強い音で叩いてるよ。

 でも結果は・・・・


 バンミ、2打受けて、

 「なるほど。」

 ナザ、

 「うーん。違う、よな?」

 二人ともびくともせず、いかにも観察してます、な、感じ。

 少しは痛がって上げて!

 セリオ、涙目になってるよ?


 「僕も!」

 二人の様子を見て、まさかのセリオの自分も発言。

 ピーレが打ちにいったけど・・・・

 手首打たれて、早々にリタイア。僕のヒールが活躍した、ってこと以外、武士の情けで、発言は控えておきます。



 そのあとは、ラッセイvs僕、バンミ、ナザの3人で模擬戦しました。


 ナザの盾、バンミの補助を受けての僕の速攻。


 パン、パン、パン・・・


 カン、カン、カン・・・


 音だけが空しく響く。


 いけた、と、思っても、全然。次の瞬間には姿を消してるラッセイ。

 積極的に責めてるけど、軽くいなされるのは、マジでくやしい。


 何合、打ち合ったか。

 でも、やっぱり強いや。3人がかりでも全然ダメだ。


 パシッ、パシッ、パシッ!

 僕、バンミ、ナジ

 その順に同じ場所、上からの背中を1発ずつ。

 そのまま、僕たち3人は沈んでしまった。


 「はい、ここまで。なんかパーティはおしゃれするように言ってたから、汗を流して着替えるように。」


 うー、うー言ってる僕たちに、そんな風ににっこり笑って、出ていったラッセイの背中は、まだまだ遠いなぁ、って思う僕たちでした。 

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