第12話 リッチアーダ商会の訓練所にて

 ヨシュアがどこかに出かけていって、ママたちはパーティーのご飯の準備して、なんだかゴーダンとアンナは、難しい顔をして話をしていて・・・

 なんとなく暇だなぁ、って思ってたら、ピーレが僕に「剣を見せて」って言ってきたんだ。

 だったら、てんで、お屋敷の外にある、ちょっとした訓練所に出かけることにした。


 ここは、まぁ、道場だね。

 魔法禁止で剣のお稽古するところ。

 リッチアーダ商会ともなれば、たくさんの用心棒っていうのかな、警備員さんが交代で昼夜問わず詰めてるんだ。で、その鍛錬用にって用意されているのが、この道場。

 リッチアーダ商会といえば大きな商会で、当然世界中を旅することもある。だから、おうちの人も、護身術ぐらいは心得ている。その練習施設も兼ねている。

 まぁ、前世で言えばジムがおうちにある、ってぐらいの感覚なんだけどね。


 僕と、ナザ、それにバンミの3人で、お稽古しようかって言いながら、この訓練所にやってきました。

 なぜかそこについてきたのは剣を見たいってリクエストしたピーレだけじゃなく、兄のセリオも。

 まぁ、別に良いけどね。



 僕は、この訓練所ではちょっぴり不利だ。

 ナザは1個しか年もかわらないのに、ガチムチになってるし。

 頭1つでかいって、ずるいよね。

 ナザって、半分血が繋がってるはずなのに、どうも体型は真逆みたい。

 魔法の適性がほとんどなくて落ち込んでたこともあったけど、それなら、ってものすっごく身体を鍛えてた。気がついたら、背はぐんぐん伸びて、それよりもなお筋肉がすごくついたんだ。誰もナザを見て、まだ11歳だなんて思わないと思うよ。


 「弟を守らなきゃいけないからな。」

 なんていいながら、特に守備に力を入れてる。

 考えてみたら、初めての宵の明星の盾役だよね。

 彼に勝つには、スピードで翻弄しつつ、守備の隙を突くしかなくなってきてる。

 去年ぐらいからかな。

 それまでは僕が10戦10勝で勝ててたのに、今では僕が6勝かちょい上ぐらい。魔法なしだと、だけどね。

 捕まっちゃうと、100%負けるのは、体格差から仕方ない、と思いたい。


 もう一人、治世者養成校では従者役のバンミ。今年成人になった。で、正式に冒険者。はなっからC級。実績があるから誰も文句を言わない。けどさ、僕の方が長く見習いやってんだけどなぁ。まだあと5年も僕は見習いです・・・


 バンミはうちのパーティでは魔導師枠。剣より魔法が得意。特に、魔力操作は、特殊な育ちもあって化け物級。人の魔力だって上手に操る。魔力のやりとりも得意。

 細かい魔法操作をバンミにやってもらうことも・・・

 これバレたら、緊急じゃない限り、むちゃくちゃおこられるやつだけどね。


 でもさ、遠くを飛んでる鳥の群れの1匹、なんて、なかなか魔法の1撃で落とすのは難しいんだよね。僕だと、狙ってる鳥の周り10羽ぐらい一緒に落ちちゃう。

 バンミは魔力量的にはあまり遠いのは狙えないんだけど、僕を経由して僕の魔法を撃つことで、そんな狙いの1羽を落とせるんだ。

 だけどね、これは僕とバンミ、二人じゃなきゃできないでしょ?

 コントロールで僕だけじゃだめ。魔力量でバンミだけじゃダメ。

 なのに、一人で1羽落とせる精度じゃなきゃダメだ、って叱られるのは僕だけって、なんかずるいです。


 そんなバンミだけど、剣も頑張って鍛えてる。剣より弓の方が得意だけどね。師匠が弓派だからってのもあるけど。彼が懐いてるのは仲間のエルフ(100%種じゃないけどね)のアーチャ。細かいこと、彼も得意だよね。性格は2人ともおおざっぱで思い込みが激しいのに、こういう繊細さは不思議です。


 そんなバンミとは、剣だけだと8割強、勝てるかな?

 魔法込みだと模擬戦では不利です。

 僕は魔法が強すぎて、あまり魔法を前面に押し出せないのに、バンミは僕の魔力を直接捕獲に来て、身体の動きまで遅くしちゃうんだもん。

 ただ、魔力の乗っ取りってのは、渡す方がOKしてないと難しいので、のっとられる前に速攻でやっつけるのが、勝利のコツ、です。



 訓練所につくと、ナザが矢を弾く訓練をしたいって言うんで、アーチャが弓を持って、先が丸くなった訓練用の矢をビュンビュン、ナザに放ちます。

 いなすの、うまくなったなぁ。

 そんなことを思って見学していたら、ピーレが僕の剣を見に来たのに、とか言って怒りだすんで仕方なく、僕は、参戦。

 といっても二人の邪魔をするのもなんなんで、盾で弾かれた矢を打ち上げて、1つのところにまとめるって遊びを始めたよ。

 これはこれで、ピーレに受けたんで、よしとしよう。

 ちなみにセリオもやってみたい、って言うからかわったんだけど、そもそも矢の降ってくる近くに行くことが出来ませんでした。ものすっごく悔しがってたけど、慣れなきゃ怖いかもね。



 そんなこんなで、しばらく訓練所で遊んでいた僕たちだけど、どうやらラッセイが帰ってきたみたい。近くでヨシュアとも会った、とかで二人で帰ってきたようで、僕たちがいるこの訓練所に、ゴーダンも合流してゾロゾロやってきました。


 「なんだ、遊んでたのか。まじめに訓練でもしてるのかと思ってたがなぁ。」

 僕たちの様子を見て、ゴーダンが言ったよ。

 まぁ、あれだけピーレがキャッキャ、キャッキャと喜んでいたら、遊んでた、ってなるよね。実際楽しかったし。

 「遊んでたのはダーだけだよ。俺は、バンミに頼んで矢の受け流しを練習してたんだ。」

 ナザくん、そういう告げ口はダメだと思うんだ。


 「うん。いい音で流してたね。」

 ラッセイが褒めたので、ナザはニコニコしてるよ。

 「ここの弓、弦のバランスが悪くて、飛びの調整が難しいです。」

 と、バンミ。

 その割には、受け流ししやすい、いいところに打ち込んでたよね?

 ヨシュアが、バンミから弓を受け取って、なにやらいじってるけど、どうやら、弦のヨリがそろそろ崩れてきているようで、担当者に言っておく、なんて言ってるよ。すっかり、リッチアーダの身内、って感じ。いいことです。



 「そういえば、ダー。今日の模擬戦のことだけど・・・・」

 ラッセイ、その話、ここでする?

 「あのさ、僕、もっと強いと思って警戒しちゃったんだよ。速攻で倒しちゃって悪いって思うけど、でもさ・・・」

 「あ、そういうことじゃなくて。それについては、彼が弱すぎたってだけだし、いいんだけどさ。あのとき、手首狙っただろ?あの距離であれだけの体格差だと手首より狙いは小指の方がいいと思ってさ。」

 「へ?小指?」

 「あそこから狙えたよね?」

 僕は、模擬戦のことを思い出す。

 確かに狙えた、かな?

 むしろ手首よりも、こっちの剣の角度を考えたら、狙いやすかった?


 「ダーはさ、小さいし、力もそんなに強くない。だから、そういう小技が必要だっていつも言ってるだろ?あの模擬戦では大人用の剣を使った。乱戦で、近くの落ちている剣を使うことになったら、大概はあの長さの剣になる。あの長さになれることと、体格の上の相手に対して、どうすれば隙を作れるかは常に考えなきゃね。さすがにアレで剣を飛ばすとは僕も思ってなかったし、まぁ、今回は仕方ないとしても、多少の強さがあれば、手首だとひるみすらしてくれない可能性の方が高い。本当ならそのまま反撃を受けて沈んでいるのはダーだったと思うんだ。」

 あのとき、難しい顔をしてたのは、そんなだめだし考えてたから?

 速攻、倒しちゃって怒られるかと思ってたから、ちょっと拍子抜けです。


 「まぁ、そのヘンについては、あとで訓練するとして、その弱すぎる坊主だが。」

 口を挟んで来たのはゴーダン。その視線はヨシュアとラッセイに注がれた。

 二人は、先に話をしていたのか、お互いアイコンタクトして頷くと、ヨシュアが口を開くことにしたようで。


 「彼の名はガイガム・レッデゼッサ。トレネーの男爵の息子です。姓を聞いて思ったとおり、レッデゼッサ商会の次男。先代時代に金で爵位を買った口で、より貴族的な処遇、つまりは騎士となり高位貴族とあわよくば懇意になる、という目的で動いている、例の一派です。」

 例の一派?なんだろう?大人たちはふむふむと頷いてるけど、僕の耳まで届いてない話、なのかな?

 「ヨシュアに補足して言えば、養成校内部の話として、ガイガムは2度、養成校を落ちています。その後、家庭教師として、養成校の講師を務めるマッケンガーを迎え入れ、今年、マッケンガーを試験官として臨み合格してる。」

 えっと・・・裏口、的な?


 「へぇ、マッケンガーねぇ。ヒヒ、ラッセイ。なにげにやる気でたんじゃねえのか?」

 ゴーダンがニヤニヤとラッセイを見ながら言った。

 「ハハハ、全然気にしてないですって。けど、なんていうか、因縁は感じますけどね。ま、おかげさまで、こんなかわいい子と出会えたんだ、感謝してますよ。」

 ハハハ、と笑いながら、なぜか、ラッセイは僕の頭を乱暴にグリグリとなで回したんだ。

 いったいどういう話になってるんだろう・・・

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