第10話 もう1つの家族

 なんかよく分からないまま、見学からの解散。

 昨日は、明朝初登校だし学校へ近いからって言われたこととか、一応王族の学生っぽいものってことで服とかも用意されてたし、まぁ、お祝いをしたいとか、諸々のために、王城の奥の皇太子一家専用スペース=後宮で過ごしたんだけどね。


 なんか、ほとんど泊まったことないけど、僕の部屋も用意されてて、至れり尽くせり。付き人と騎士の部屋ってことで、両隣には、直接僕の部屋と行き来できる部屋もあるし、それも含めればものすごいスペースが、ほぼ空き部屋ってもったいないなぁ、なんて思うのは、僕が貧乏性だからかな。

 ちなみに、従者部屋と騎士部屋はそれぞれ男女用の就寝スペースが中に分かれてある、まぁ、スイート仕立て。

 それと同じぐらいのワンルームがマイルームって、広すぎてかえって落ち着かないんだよね。

 僕がいないときに誰か使って貰ったら良いのに、って言ったんだけど、どうもそういうわけにもいかないらしい。


 まぁ、本来後宮って、皇太子さんがたくさんのお嫁さんと暮らす予定で作られていて、そのお嫁さんはそれぞれたくさんのお付きの人とか連れてくるものだから、部屋はいっぱいあるんだそう。

 でも、うちのお父様は、たった一人のお母様しかいんないから、部屋はいっぱい空いてる。だからむしろ、僕に仲間たち全員つれてきてここに住めば良い、なんて、最初言ってたよ。まぁね僕の仲間たちに鼻であしらわれてたけどね。そんな窮屈なところに住めるか!だってさ。


 まぁ、窮屈じゃない方がいいってのは僕も同感。

 申し訳ないけど、2日連続で王宮泊ってのは、ごめんなさいってことで・・・




 てことで・・・

 テクテクと歩いて、ソフトクリームの頭みたいな丘を下りて麓の高級住宅街へとやってきました。


 お船もあるんだけれどね。

 グルグル回るのは結構時間がかかるんだ。

 しかも定期船は少なくて、マイボートを使う人がほとんど。

 船を待たせてないんじゃ、直線距離で下った方が早い早い。

 これも、冒険者として鍛えて貰ったおかげでできる裏技?裏道?なんだけどね。


 ちなみに僕がこの裏技を使えるのは、水の中を濡れずに高速移動できるから。

 えっとね、風魔法ってね、空気を操る魔法なんだ。そんな使い方をしてるのは僕と、僕が教えてあげた一部の魔導師だけなんだけどね。


 そんな風魔法で自分を包むと水の中でも、まぁシャボン玉の中に入ったみたいな感じで、息ができたり動けたりするんだ。

 でもって、移動にはそれこそそのシャボン玉ごと風のジェット気流で操ったり、水魔法で水流を操ったり。

 てなかんじで、お船が行き違えるような幅のある川も、簡単に横切れるから、一直線に下れば簡単に麓に到着できるんだ。


 ちなみに、こんな魔法の使い方をする人は少ない、ってか、いない。

 こうやって帰ろう、って言ったら従者役のバフマとバンミに呆れられちゃった。

 見られたらまずい、そうです。


 「ちょい、ダー、やばいって。こんなの見られたら注目されるぞ。あんまり派手なことすんな、ってみんなに言われてただろうが。」

 「でもさ、船を待っても歩いて行っても、無茶苦茶時間かかるでしょ?僕、学校でもう疲れちゃったよ。ラッセイの無茶振りにも頑張ってこたえたでしょ?早くおうちに帰って休みたいもん。」

 「だからって、こんなとこ人に見られてみろ。それこそまた誘拐だ、とかなっても知らないぞ。」

 「そのためにバンミもいるんでしょ?索敵能力、無茶苦茶上がったってアーチャがほめてたよ。」

 「へへ、まぁな。」

 「それに、攻撃系もすごいんでしょ?ラッセイだって、まずまずだって言ってたし、魔法も上手くなったって。」

 へへへ、と鼻の頭を掻くバンミ。チョロい、なんて思っちゃったら、ハァーって横でバフマがため息をついてジト目で睨んでるよ。


 バフマはそう言う意味ではチョロくない。でも遠回りは絶対ごめんだし、どう説得しよう?


 「言い訳はいいです。何が何でも直線距離で帰るんでしょう?しかしダー様。このことはみんなに報告させていただきます。バンミが従者として適格かどうかも含めてね。」

 「おい!」

 バンミに突っ込まれても、しれっとしている。

 なんだかんだでバフマは強敵です。

 けど、たぶん大丈夫、だと思うな。希望的観測も多々含むけど、みんな無駄なこと嫌いだもん。ちょっとのお説教で結局認めてくれる、はず・・・



 なんてやりとりもあったものの、最短最速距離で、豪邸の前に到着です。


 うん、豪邸。

 ここいらの高級住宅街の中でも立派なおうち。


 僕らを見て、門番の人が慌てて扉を開けてくれたよ。

 「歩いて帰られたのですか?」

 なんて、目を丸くしていたけどね。

 うん。ここいらの人はちょっとの距離でも馬車を使う。

 準備だけでも面倒だと思うのは僕だけかな?って思ってたけど、どうやらセキュリティも兼ねてるそうです。王都のしかも高級住宅街の移動だっていっても、そこは自衛が必要なんだね。

 ま、僕らはどっちかっていうと、面倒な馬車よりも徒歩移動の方が安全、かもしれないです。だって、馬車本体やシューバを攻撃される方が、危険が大きいんだもん。



 僕はびっくりさせてごめんね、って門番さんに言いながら、中に入って行ったよ。


 お庭を過ぎて、階段を登り、ドアを開け・・・・ようとしたら、バフマが前へ出て開けてくれた。

 生憎と、でっかい扉に取り付けられたドアノブは、僕にはちょっと高くて、背伸びをしなければ届かない。さすがに完璧執事・・・になる予定のバフマさん。僕が届かないから先回りしてくれたんじゃない・・・よね?


 ニヤニヤして僕を見ているバンミをちょっぴり睨んで、バフマにはお礼を言いつつ中に入る僕。

 フッと前を見ると・・・・


 僕は思わず走り出したよ。


 ニコニコと僕らのやりとりを見ている輝く銀の髪の美人さん。

 ママ!

 思わず、走っていって抱きついた。

 ママだ!

 しっかり僕を抱きしめて、頭を撫でてくれるママ。

 「お帰り、ダー。」

 ママの優しい声。

 「おやおや、帰るなり挨拶もなしかな?」

 その横から声がかかる。

 「バブー!!」

 なんか、髪が引っ張られる。

 僕が顔を上げると、そこには、ママの旦那さん。

 その腕の中には、かわいいかわいい僕の弟だ!


 「えへ、ただいま、ヨシュア。ただいまレーゼ!」

 「おかえり。学校はどうだった?」

 「うん・・・辞めていい?」

 はぁ、とため息をつきながら、僕の額をちょんと、指で押すヨシュア。

 「仕事はちゃんとやらなくちゃ。」

 「分かってるって。言ってみただけだよ・・・パパ。」

 ヨシュアはくしゃっと恥ずかしそうに笑った。


 うん、これは僕の新しい家族。

 ママと、新しいパパ。そしてかわいい弟だ。

 ヨシュアは僕らのパーティ仲間。

 僕が王子になるとき、一緒に貴族になった一人。

 彼は元々平民の出。だけど、ちゃんと子供の頃から教育を受けて自然と貴族の習慣が分かっている貴族出の仲間と違って、きちっと勉強して貴族たちとの付き合いをやってきたから、誰よりも貴族っぽい。貴族になる前からね。

 貴族になったとき、ヨシュア・ナッタータって名前を貰ったけど、今はヨシュア・ナッタジってなったよ。


 ママがヨシュアと結婚するときに、なんて呼ぼうかちょっと迷った。急にパパってのも、ねぇ。

 それまでは、僕、ヨシュ兄って言ってたんだ。

 他にもラッセイをセイ兄、ミランダをミラ姉って呼んでたんだけどね。

 結婚を機に、みんなの呼び方を変えることにした。

 ヨシュアだけを変えるのもなんだか照れくさかったのもあるしね。

 無理してパパって呼ばなくて良いっていってくれたから、普段はヨシュアって呼んでる。けどね、こうしてたまにパパって呼ぶと、いっつもこんなかんじで嬉しいような恥ずかしいような顔をするんだ。そんなヨシュアってば新鮮で、なんか大好きだ。あと、一番お説教が長いヨシュアだけど、パパって言うと短くなる。へへへ。



 「おいおい、いつまでそんなところで集まってるんだい。早く中に入りなさい。」


 そのとき、奥から出てきたダンディな人。

 トーマおじさん。えっとね、このおうちの主人にして、僕のひいおばあさんのお兄さんにあたる人。


 彼の後ろからもゾロゾロ出てくる。

 トーマおじさんの家族と僕の仲間と・・・

 ふふふ。みんな僕の大切な人達。

 王都にいる人はほとんど来たの?

 え?

 僕の入学祝い?

 いや、これってお仕事・・・


 「いいから。ダーは学校へ行っていっぱい賢くなろうねぇ。」

 ママが言う。

 ママも学校とか行ってみたかったのかな?

 この作戦、ママがいそいそと手続きとかやっていたらしいし・・・

 ん。

 分かったよ。

 ママが嬉しいなら、ちょっとは学校生活を楽しむことにするよ。

 そう言って僕は、僕の髪の毛を掴んで離さないレーゼに連れられるみたいにして、ヨシュアとママに挟まれたまま、リビングへと歩を進めたんだ。

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