第9話 剣使養成校の見学(5)

 やる気満々のガイガムだけど・・・

 僕相手に、そんな堂々とやってやる宣言とかしていいのかなぁ。あ、僕が強いとかそういう意味じゃなくてね。彼、普通に成人間近っぽい体型。なんだったら、剣使養成校に来るぐらいだから、ちゃんと身体は鍛えてるみたい。ん?ちょっぴりぽっちゃり?まぁ、骨太ってことにしておこう。まぁ、とにかく前世風にいえば体育会系のクラブをやっている中学生って感じ。


 対する僕。一応10歳になった。けど、見た目は小学校入ってるかな?って感じ。

 身長で言うとね、僕はラッセイの胃に届くか届かないか。彼はラッセイの目元を超えたかなってぐらい。

 ね、引かない?

 ま、いいけどね。

 身内がみんな僕の勝利を確信してる、ていうか、負けたら怒られそうな雰囲気。

 だけどねぇ。


 他にもたくさん人がいるわけで、みんなの目がね、どうしても外見で見てるんだよね。それなのに平気で僕を瞬殺だとか天誅だとか、雄叫び上げているガイガムのメンタルってすごいなぁ、て感心しちゃう。

 まぁ、彼がこうなっちゃってるのは、ラッセイが無駄に煽るから。うん全部ラッセイが悪い。


 そんなことを思いながら、今までみんなが素振りをしていた訓練場の真ん中に進み出たんだけどね。

 鼻息荒く、当たれば危険、な武器を意気揚々と掲げるガイガムの目はひたと僕を見据えている。

 はぁ、って1つため息をついて、大人サイズの木剣を僕は構えた。普通にバランス取りにくいね。ちょっと前に持ってかれる感じ。

 でもね・・・・


 「ハァーーーッ!」

 でっかい雄叫びと共に振り上げたメイスを掲げ、走り寄るガイガム。

 ドテドテドテって地響きしてるんじゃないかってくらいの勢い。

 なんか、ちょっぴりモーメーっぽい、なんて思っちゃった。


 モーメーはこの世界ではよく見る家畜でね、顔が鬼瓦っていうか獅子舞?狛犬?そんな感じの子。性格は優しいけど顔は怖いんだ。身体は乳牛ぐらいでそのでっかい身体にモコモコと羊の毛みたいなのが生えてるから、見た目は乳牛より一回りか二回りデカい。

 怖い顔でドテドテって走ってくるのが、なんかモーメーを想像しちゃったよ。みんな元気かなぁ?


 あ、僕の本拠地っていうのかな?ダンシュタって町の外れにある僕の家ではモーメーをたくさん飼ってるんだ。主にミルクと毛を取るんだよ。ちなみにこの子たちから取れた製品はナッタジ商会っていう、僕のママの商会のメイン商品です。



 なぁんてことを考えてるぐらいの充分な時間がありました。


 僕はただじっと剣を構えて迎え撃ちます。


 うん。

 遅い・・・


 ハァーーー!だか、ダーーー!だか、雄叫び上げてるけど、どんだけ時間がかかってるんだか。

 ハァ、ってもう1回ため息つくぐらいの時間があって、彼の間合いに入ったのか、振り上げていたメイスをさらに振り上げて打ち下ろす気配。


 カァン!


 打たれるのを待つ必要ないよね。

 僕は、彼がメイスを無駄に打ち上げた瞬間、手首を下からすくい上げた。

 僕の剣の方が少しリーチは長い。

 彼との腕の差よりもこっちが長い。

 で、手首を下から打ち付けると、そのまま滑らせて、音を立ててメイスを巻き込むように叩きつけた。


 木だからか、カァンって、軽い音。


 ドテン・テン・テン・・・


 下から手首を打ち上げられて、思わず離されたメイスが鈍い音を立てて地面へと衝突し、ちょっとだけはねながら転がった。


 「ガーー、イッテーーー!!」


 ガイガムは右の手首を左手で、左の手首を右手で、抱くように胸の前に抱え込むと、わめきながらしゃがみ込んだ。


 いや、そこまで痛がること?

 僕の力程度で、しかも木剣。当たった時は打ち上げただけだから、そんなに強くない、よね?


 メイスを巻き込んで打ち下ろした剣を構えたその姿のまま、僕は、唖然として泣きわめくガイガムを見たよ。

 どうしたらいい?


 なんか、みんな気まずい感じの沈黙に支配されてるし・・・



 ・・・・・



 そろそろ沈黙(ガイガムは叫び続けてたけど)に耐えきれないな、ってみんなが思い始めたとき。


 「きゃあ、すっごーい!皆様ご覧になりまして。うちの弟、すごいでしょう。」

 えっへん、と擬音がするかのようにポリア姉様がドヤり、僕に近づいてハグをしたよ。それを見て、ポツポツと拍手が湧き、つられるかのように徐々に拍手は大きくなる。


 「すっげー!」

 「あんな小さいのに王子様ってみんなあんなに強いのか?」

 「王子様!ついていきます!」

 「かわいい、食べちゃいたい!」


 等々・・・

 なんか、妙な声もありつつの、大騒ぎとなっちゃったよ。



 「静かに!!」


 しばらくの騒ぎのあと、これをしずめたのは教官殿。

 さすがの騎士志望者が多い王都の養成校、騒ぎが静まるのは一瞬だね、なんて、妙な感心をしていると、ラッセイの講義?が始まった。


 「彼らが立ち会う前に、今の結果を予測していた者はいるかな?」

 生徒たちはお互い顔を見合わせながら、首を横に振る。


 「王子は見ての通り小さい。10歳にさえ見えないという者もいるんじゃないかな?一方、ガイガム君は、14歳。実年齢でさえ4つも上だ。誰もがガイガム君の勝利を疑っていなかった、違うかな?」

 うんうん、と頷く者。ばつの悪そうな顔をする者。チラチラと僕かガイガムを見る者。人それぞれだけど、僕が負けるって思っていた人がほとんど、なんだろうね。少なくとも剣使養成校の面々は、そう思ってたみたい。


 「世の中には王子のように外見からは考えられないほど力を持つ者がいる。君たちが将来どういう立場になるか分からない。だが、これは覚えておいて損はない。外見に惑わされるな。」

 生徒たちが、きりっとした目で頷いてるよ。


「ちなみにアレク王子は剣が天才ってわけじゃない。むしろ剣は地道に鍛えた結果だ。彼の得意は魔法であり、またその才能は魔法よりもさらにアイデアを生み出す力が勝る。そんな彼にとっては付属みたいな力である剣ですら叶わない者に、彼をとやかく言う資格があるのかな?どういう出自であれ、国王陛下が彼のその才能に惚れ込んで、一族に迎えた彼を、軽く扱うのは、彼の騎士である僕が許さない。」


 シーン、って、したよ。固唾を飲み込む音も複数。


 うん知ってた。

 ラッセイってば、僕を侮られると、すっごく怒るんだ。

 特に貴族がマウントとってこようとするとね。


 僕が王族になったとき、僕の最初の仲間たちはみんな一緒に貴族になった。

 ラッセイなんかは、もともと貴族の出。でも自由を求めて傭兵になったり冒険者になったり。自分の力を試したいって、そんな人。

 貴族から出ちゃったのは、力なく理不尽をまき散らす、そんな貴族が嫌になったからって聞いたことがある。

 でもね、そんななのに、僕と一緒に嫌いだった貴族になってくれたんだ。ずっと側で守ってくれるって言って。

 だから、僕の一番の騎士はラッセイ、なんだと思う。

 ラッセイとミランダって仲間が、王子となった僕の騎士として左右にいてくれるから、僕はいつだって笑っていられるんだ。


 「彼が王子であることは紛れもない事実。ガイガム・レッデゼッサ。君は王族に対して自分がどんな発言をしたか猛省すべきだ。そして、それだけの体格差があるにもかかわらず、その場から動きもしない王子に軽くあしらわれてその無様をさらしているのだ、と、現状をきちんと把握した方が良い。」


 ワァーーー!


 そう雄叫びを上げながら、クロスしていた両腕で地面を殴りつけるガイガムを見る生徒たちの目は、どれも険しいものだった。 

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