第8話 剣使養成校の見学(4)
「ではガイガム君だったっけ?この方、わが聖王国が王子であるアレクサンダー様と魔法なしの模擬戦、でいいんだね?」
「え・・・いつの間に?」
僕の背後から両肩に手を乗せて前へ押し出すラッセイに驚いたのは、当の生徒だけじゃないみたいだ。実際、僕もラッセイに対して警戒もしてないし、いろいろ考え込んでたから、背後を取られたことに気付かなかったしね。
たかだか初心者クラスの第1回目受講者に気付け、って方が無理だよね。
名指しされたガイガム少年はビックリ顔でちょっと面白かったけど、押し出される僕にチラッと目を向けると、苦々しい顔をして頷いた。
「ええ。その子が王子、ということは否定しますが、その子と模擬戦をして身の程を弁えさせるのは騎士のつとめだと思っています。」
「んー。念のため言っておくけど、この子の兄姉もここにいらっしゃるんだけど?彼が本物の王子だっていうのは、彼らが証明してくれるよ?」
「いえ。どうやったかは分かりませんが養子に入り込んだことが問題だと愚考します。秩序を取り戻すためにも、自分はその子を成敗します。」
やれやれ。
彼なりの正義、なのかもしれないけど、えらく話が大きくなってきてるってのに気付いてるんだろうか。僕、養子なんて何度も断ったし、成り行き、なんだよなぁ。こういうこともあるから、貴族なんてなるもんじゃないよねぇ。
「ん、まぁいいけどね。殿下方。彼の言動に関してですが、申し訳ありませんが、ここだけの話にしていただけませんか。」
ラッセイが振り返ってそう言ったよ。
うん。本当なら無礼討ち上等の案件、なんだよね。いじわる言われてるけど、だからって僕のせいで成人前の少年が殺されるのは勘弁です。
「ハハハ、気にしないよ。というより、アレクのせいで殺したってなったら、アレクが気にするでしょ?私としてはその無礼な子供の生死より、愛する弟の心労の方がよっぽど気になるからね。」
と、プジョー兄様。
「不快ですけど、兄上の言うように心優しい我が弟が気にするなら、許して差し上げますわ。代わりにアレク、こてんぱんにしてあげなさいな。こんなかわいい小さな子にボロボロにされてプライドなんてずたずたになるのがお似合いですわよ。」
ハハハ。姉様は容赦がないなぁ。ていうか、怒りが大きくなりすぎて、僕の方までとばっちりが来てるみたい。なぁなぁで手打ち、って思ってたけど、これじゃあ、中途半端にすると僕がお説教受けそうだよ。
そんな2人にクスッと笑って「ありがとうございます。」なんて小さくつぶやくラッセイ。
当然気に入らないやりとりを見せられて、僕を視線で殺そう思ってそうな、ガイガム。
まいったなぁ。
「おやおや、ガイガム君。殺気が溢れてるけど、殺しは御法度だよ。まぁ、この子に対してなら、大目に見るけどね。」
「どういう意味ですか?」
「そのぐらいの意気込みでもなければ相手にならないからね。アレク王子は見ての通り魔導師寄りだ。当然純粋な剣士ではない。が、だからと言って、剣士として優れていないってわけでもないんだよ?それを前提で今回は魔法なしの武器による模擬戦。それはいいね。」
「自分としては、魔法を使ってもいいですよ。まぁ、そんな小さな子がまともな魔法なんて使えないでしょうけど。」
「はぁ。1つ教官として忠告しておこう。自分の常識で動くとひどい目に遭う。みんなもだ。君たちが将来どのように武芸を使うか分からないけどね。魔物相手だろうが人相手だろうが、一番の悪手は相手の力を過小に決めつけることだ。見た目や常識に惑わされるな。戦場でのそれは簡単に死を招く。」
ラッセイの話を聞いて、面白半分に成り行きを見守っていた生徒たちのほとんどは神妙な顔をしたよ。まぁ、実感こもらず、なんか言ってる、ぐらいの子も多いけどね。けどまぁ、こんなラッセイを見ると、なんとなくちゃんと先生してるんだなぁ、なんて感心しちゃうね。
「ということでだ。百聞は一見にしかず。アレク王子。王子には思いっきり手抜きで戦って貰うことにしよう。」
ニヤッて笑ってラッセイが言ったよ。
はぁ?なんで手抜き?
「あんた何言ってんだ?」
さすがに先生に対してってことも忘れて、ガイガムが突っ込んだ。うん気持ちは僕も一緒だよ。
「フフフ。僕としては、それなりにみんなに模擬戦を見て欲しいと思っての提案だよ。ガイガム君。君は否定するだろうけど、このアレクサンダーというお子様は、本気を出させたら君を瞬殺してしまう。それだけの実力差がある。」
「はぁ?!」
真っ赤になって怒るガイガム。
ザワザワする生徒たち。
「彼ほど見た目に惑わされると怪我する相手はいないよ。ガイガム君、君の腰に差しているのは君の愛用の武器かな?」
メイス、というのかな。割と初心者でも使いやすい武器だ。こん棒の先がトゲトゲしてるやつ。先の部分に異素材を使ったりして打撃プラスαの攻撃ができるやつ。剣よりも早く上達、ていうか、殺しやすい、傷つけやすい武器だね。
種類がものすごく多いのも特徴かな。魔導師が愛用する場合も多い。ごっつめの杖みたいなのも多いし。後は、先のプラスαのところってのを鎖に鉄球的な感じで応用してるやつもあったりして、自分好みに作ってるのも多い。
で、ガイガムが持ってるのは、ちょっと重そうなこん棒に先っぽがいがいがした感じの奴。当たったら痛いですまなさそうだ。
「ああ。これで魔物だって殺せるさ。」
ガイガムは腰から抜いて見せつける。
うわぁ、手入れ不足か、なんか赤黒いところがいっぱいだ。あれ絶対血のあとじゃん。
「ん。じゃあ君はそれ使って。ダーはこれね。」
へ?
ちょっとラッセイさん?これ木剣だよね?しかも練習用の危なくない奴。これでラッセイが指導してたよね?どう考えても僕には長いし・・・
「えっと・・・」
「ちゃんと剣として使うんだよ。」
・・・
この長さだと、僕なら短槍、なんだけど・・・
渡された剣は、まぁ、ほどほどの重さ。振れなくはないけど、短槍使いじゃなくて剣として扱えってこと?けっこう難しいよ?
僕は、ちょっぴり恨みがましい目で上目遣い。ラッセイを睨むけど、どこ吹く風。むしろ楽しそうに笑ってるし・・・
「ふ、ふざけるな!」
ガイガムってば、馬鹿にされすぎて目が血走ってるんですけど?
気持ちは分かる。
僕に対してもいじわるだけど、これ、ガイガムに対してもひどくない?
「教官として、この程度でもハンデとしては緩いと思ってる。だが、一合交わしてみて、君が僕のこのハンデが間違いだ、と、思うなら、その手にしてる木剣に替えても構わないよ。」
訓練用に全員が手にしていた、その木剣をさしてラッセイは言った。
ちょっとへらへらした感じから、キリッとしたモードに変えてそう言ったラッセイに、一瞬ガイガムはのまれたようだ。が、すぐに気を取り直したのか、チッと舌打ちすると、自分のメイスを携えて、中央へと移動する。
「これでそいつを瞬殺しても文句を言うんじゃないぞ。いや。瞬殺してやる。そうだ天誅だ。この俺が正義を体現してやるさ!」
すっかり言葉遣いも変わっちゃって目が据わったガイガム。
誰に、というわけでもなく、メイスを突き出すと、でっかい声でそんな風に叫んだんだ。
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