第7話 剣使養成校の見学(3)

 なんか僕にお鉢が回ってきたなぁ、でも負けたら、学校通わなくてもいいよね、なんてこっそりと考えてた僕。

 本当は僕だってゴーダンたちみたいに、ダンジョンとか、お外でのパクサ兄様のお手伝いの方が気が楽だしね。


 だけど・・・


 「ダー。わざと負けるなんて事は、許さないからな。」

 そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、いつの間にか僕の背後をとってそうささやいたラッセイ。

 「まぁ、わざとにしろわざとじゃないにしろ、負けるなんて事があったら、訓練考えなおさなくちゃなぁ。」

 クスッと笑って続けてささやく。

 ・・・


 剣の訓練は嫌いじゃないんだよ。でもさ、痛いのとかキツいのはあんまり得意じゃないんだよね。


 この世界、教育だとかしつけだとかには、口より先に手が出る。最近知ったんだけど、貴族の子供の教育にも、先生は鞭を持ってたりする。


 幸い、というか、我がナッタジの教育方針は、暴力反対、なんで、理不尽に暴力を振るわれたことは、僕の場合はほとんどないけどね。たまぁに手が出るのがゴーダンとラッセイぐらいかな。他の人は正座で説教、なんてのが普通だから、どっちがいいかわかんないや、ってときも正直あるんだけどね。


 ちなみに、ナッタジの教育方針を作ったのは、僕からしたらひいじいさんに当たる人。エッセルって言って、実は僕と同じ日本からの転生者。いわゆる団塊の世代の人だったらしくて、平成時代に亡くなったらしい。充実した生を終えて、転生したこの世界でも、最後以外は自由気ままに生きた人。うん。僕のママが1歳の時に亡くなったけどね。

 この人は、暴力でねじ伏せるってのが嫌いだったらしく、子供が納得して学べば伸びる、って信じてた人。実際、優秀な人材がいっぱい育って、僕の周りにも恩恵がいっぱいだ。心の自由を大切に、自分のやりたいことを指針として生きる、それが我がナッタジのあり方なのです。


 ま、それはいいや。ラッセイの話。

 訓練の再考、ってのはね、最近ドクの作った魔導具を使っての訓練をするぞ、って話だと思うんだ。まぁ、罰ってか、お仕置きの代わり?


 暴力反対の教育って言っても、さすがに戦いの訓練の時は痛い思いもするしね。ゴーダンなんかは痛いのが怖いと、実際の戦いの時に萎縮して、動けなくなったら、それこそ怪我や最悪は死を招くってんで、ちょっと、ううんかなりなスパルタなんです。特に模擬戦とかは、普通に当ててくるしね。


 だけど、僕は魔導師っていうか、魔力の通り道をすでに通してる。

 本当は、7歳~10歳ぐらいの頃に通すんだけどね、僕の場合は赤ちゃんの時にちょっとした事件があって通しちゃった。


 魔力の通り道を通すっていうのは、そのまま魔石から魔力を全身(人によっては体の一部しか無理だそうです。むしろそっちが多いんだって)に渡らせると同時に、魔力に耐性をつける作業、なんだそう。産まれたまんまの普通の肉体っていうのは、魔力を通したら壊れちゃうんだって。だから、魔力が通っても大丈夫な肉体っていうか組織に変えるっていうのも、魔力の通り道を作る訓練の一環。文字通りの肉体改造だね。

 で、この改造で、普通の肉体よりも物理にも魔力にも耐性が出来る。まぁ、丈夫になるって事。筋肉の動きも強くなる。

 てことで、この世界に肉体強化をする魔術ってのはないけど、魔力を通した肉体はそんなことしなくても、普通に強いんです。


 ただね、これはドクの推測、なんだけどね、僕が肉体的になかなか成長したように見えないのは、これも原因かも、だって。

 魔力の通り道を通して肉体改造を行うとね、自然治癒力も高まる。魔法がなくても治癒する=元通りになろうとする力が強い=成長が阻害される、ってのが僕の肉体に起こってるかもしれない、って・・・

 「寿命も延びるだろうし、まぁいいじゃろ。」

 なんて、ドクやカイザーは喜んでるけどね。

 二人はいわゆるふつうの人族じゃなくて、ドワーフだったりエルフだったりの長命種の血をひいてるから、僕が長生きだと嬉しいらしい。あ、アーチャっていう仲間も同じかな?

 ただね、そういう長命種って良い感じの年齢の時間が長いんだよね。

 アーチャなんて、もう50年ぐらい前には今みたいに20歳ぐらいの外見になったらしいし、しばらくこのまんまだろうって。アーチャの両親だって20代か30代ぐらいにしか見えないもん。

 けど、僕の場合、今10歳の段階で、周りの7歳の子より小さいんだ。ちょっと、というかかなり悔しい。背だけじゃなくて顔とか全体が、ね。体型とかも筋肉とかも、なんかものすごく子供。


 てことで、何が言いたいか。

 うん。認めたくないけどね、僕の外見は背伸びして7歳、小さく見たら5歳ぐらいのもの。筋肉とかも、多少鍛えていても、そのレベル、なんです。

 で、普段は、この魔導師としての強化があって、20歳の駆け出し冒険者となら、勝てるってだけの動きができます。

 けどね、この前ドクが作り出した魔導具。この強化がほぼない状態に肉体を持っていける、という鬼畜使用なんです。


 もともとはね、拘束具。まぁ、手錠だね。

 僕もされたことあるんだけどね、魔導師だったら魔法が使えるから、拘束は困難でしょ。でもこの拘束具は魔力の流れを乱すんだ。

 もともとあるものをゼロにして魔法を使えなくする、なんてのはこの世界にない。けどね、魔力を持っていても、その流れを阻害されれば魔法を使えない。で、この拘束具の出番ってわけ。

 ちなみに僕にはこの拘束具は効きません。

 えっとね、前世ではいろんな電気を使った機械ってあったんだよね。でね、大概そういう機械はショートさせる、つまり、電気をいっぱい流してしまえば壊れちゃう。これと同じ事がこの世界の魔導具ってやつにもいえるんだ。魔導具って魔力を流すことによって作動する。でね、この魔力を魔導具に使う回路へと、過剰に流す。そうすると簡単に壊れちゃう。小さい頃、これでたくさんの危険な魔導具を壊してきたから間違いない。


 てことで一般的な魔導具ならこうやって壊せるんだけど・・・


 ドクはそんな手錠を改良?して、魔力の流れを乱すんじゃなく、半分を逆方向に流して、元の流れと相殺する、なんてものを作っちゃったんです。

 もともとは、僕みたいに大きな魔力を持つ者の拘束に役立つ物を作れっていう、王様からの依頼だったみたい。

 僕が王様に請われて、目の前で手錠や牢屋の鍵を無力化しちゃったからね、僕でも無力化できるのがいるかも、って思わせたみたい。

 まぁ、僕が悪い子になっちゃうってだけじゃなくって、僕レベルの魔導師だっていっぱいいるしね。悪党だってきっといるから、拘束できなきゃ危険だもんね。



 そうやって作られたのが、新しい手錠なんだけどね、これなら魔導師の魔力の半量を制御できればいい上に、なんと、副作用っていうかね、魔力って本来、身体全体を常に巡っていて強化してくれてるんだけど、その強化が切れちゃうことが分かった。ってことで、この魔導具を付けると、魔法がなかった場合の素の身体になっちゃう。

 でね、これもその状態で身体を動かしてみて分かったんだけどね、筋肉とか肉体の丈夫さとか、魔力を巡ってない状態の方がトレーニング成果が上がるんだ。素の力が上がる、って事かな。


 ドクがね、この状態でいると、普通の子供みたいな成長できるかも、っていったからね、1日付けてたことがあったんだけどね。まぁ、身体が動かない。

 剣のお稽古なんて、普段片手であしらってる子供たちにさえボコボコにされちゃった。しかも、当たると痛い。魔力強化してると耐性が上がって痛みにも強くなってたってことが分かったよ。

 ただし、成果は何倍もあった。筋肉痛も何倍もあったけどね。

 

 てことで、僕としては、強くなるためには、魔導具を使った方が良いと知りつつ、でも、技術面を鍛えるには、本来の魔導具なしでの身体の方が都合が良い、なんて理屈をつけて、ほぼ魔導具をつけるのをお断りしてる状態。

 実際、魔導具付けると動くのに精一杯で、技術の訓練がおろそかになるから、より強くなるには都合が悪い・・・はず・・・


 まぁ、ラッセイが訓練再考、って言ってるのは、そういうことです、はぁ・・・

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