第6話 剣使養成校の見学(2)
「教官、質問があります。」
一人の新入生、でも平民じゃないよな、って思う、ちょっと高そうなぴかぴかの鎧に身を包んだ男の子が、全員素振りをする中、手を上げて、そう言ったんだ。
「なんだい?」
「彼らの説明はないのでしょうか。」
「敬礼してたから知ってるもんだと思ってたけど?」
「先輩方に合わせただけです。」
何人かが手を止めて頷いてるよ。やっぱり気になってた人達もそれなりの数いたらしい。
「そっか。彼らのことについては担任からも連絡されていると思ってたんだけどね。治世者養成校の生徒さんたちだ。作戦行動の訓練もあるから、武技の実習は共に行うことも多いと聞く。もっとも、彼らが加わるのは上級クラスだけどね。」
「本当に治世者養成校の方々ですか?」
「ああそうだが。君はこの国の人間だろう?」
「はい。父はトレネー領にて男爵位を賜っております。」
「ふうん、トレネーか。しかし男爵なら、少なくともあちらのタクテリア家の方々は知ってるんじゃないのか。」
「はい。リンナバル王子、ポリア王女は当然存じております。ですので、治世者養成校の方々であることは、推測してはおりました。」
「だったら無駄な質問は、」
「いいえ。もし本当に彼らがまともな治世者候補として学んでいるというなら、そしてその資格があるというなら、紛い物の混入をお知らせしようと、不肖ガイガム・レッデゼッサ、お時間を頂戴した次第であります。」
「紛い物?」
「はい。なにゆえ、治世者養成校の中に奴隷の子が紛れているのでしょうか。それともあの奴隷は玩具として、どなたかが侍らしているのでしょうか?」
奴隷。
そう聞いて、ザワザワとざわめく生徒たち。
この世界、奴隷制度があって、奴隷は物と一緒だ。
当然学校で学んだりしないし、人に命令することなんてありはしない。前世で言うなら、ペットの命令に誰が従うか、ってことだ。まぁ、飼い主にわがまま放題のペットがなかった、なんてこともないけど、だからって、ペットの命令を聞いてる、なんて、誰も思わないだろう。
さらに、ここでは、戦闘を指揮者にゆだねるんだ。たとえ軍馬だろうが、軍馬に指揮をとられたいとおもう騎士はいない。
「奴隷だって?」
「はい。もしご存じないのなら、みなさん騙されています。そこの小さな子供。夜空の髪色の子供です。先ほど入学式で見てまさか、と思っていましたが、間違いない。私は父の共で幼い頃トレネーのとある宮廷貴族の館に行った事があります。そこで、とある赤ん坊とその母親を見せられました。その貴族は自慢の奴隷だ、と、二人を紹介しました。その髪だ。他に見たことがない。しかも、その顔。大きくなってはいるが、赤ん坊の頃の面影が十分ある。間違いない。彼は奴隷です。トレネーでは一時期話題になった、ミサリタノボア子爵の所有する奴隷です。なんだって、そんな物が、治世者養成校なんかに紛れ込んだ!」
トレネーの男爵筋かぁ。
彼の言うことに心当たりは、ハハハ、ありすぎるなぁ。
実際一時期僕はミサリタノボア子爵の奴隷として、来る人来る人に見せびらかされてた過去がある。子供連れもいたから、その1人がいてもおかしくはない。
あの頃の僕を知ってるなら、そりゃ、面白くないだろうね。っていうか、それじゃ済まないか。
どうしよ、なんて、頭を悩ませてたんだけど・・・
「男爵、と言いましたか。いえ、子弟なら男爵ですらない。そんな者が我が弟を愚弄する。その覚悟はできているんでしょうね。」
兄様が、見たことのない怖い顔で、その生徒を睨み付けたよ。
僕は慌てて兄様を止めようとしたけど、そんな僕をやんわりと押しやり、姉様も、その生徒をキッと睨んだ。
あらら、あんまり雰囲気良くないね。
兄様も姉様も身分が高い人だから、他の人から反論って難しいんだよね。僕のことを思ってってわかってるからありがたいけど、学校の中じゃどうかと思うんだ。
それに、ガイガムの言ってることは、あんまりうれしくはないけど、そんな特殊な感情ではない。この場で、しかも王子って立場になった僕に対する物言いとしてはどうかと思うけどね。
こういう形での対立とか、良くないなぁ、なんて思ってたら、さすがは教官、ラッセイが間に入って仲裁?し始めた?
「まぁ、王子。お怒りはごもっとも。ガイガム、と言ったね。彼が一時期、陥れられて奴隷のような立場にあったことは確かだ。だが、それも誤解から。当然奴隷紋なんてものもどこにもないよ。なんだったら、彼を裸にしてみるかい?一応、彼が皇太子殿下のご子息である、という事実も重ねて言ってこう。ちなみに彼は養子だが、その功績と血筋でもって、養子に迎えられた。そこに虚偽は一切ないよ。」
ちなみに母方の母方ってのが、王都ででっかい商会をやってるんだけど、そこには王家の血が入ってるってことを僕が王族になるときに聞いた。うっすい血でも理屈にするんだなぁ、って感心した記憶があるけどね。
「そんな・・・しかし・・・しかし、仮に彼の奴隷が間違いであったとしても、その程度の出自。そもそも平民。こんな子供に何が功績、でしょう。功績があったとすれば、それこそでっち上げです。」
「あんまり言わない方がいいと思うよ。養子とはいえ、彼は紛れもなく王族だ。無礼打ちも文句はいえないよ。」
「しかし!」
「奴隷だろうが平民だろうが、自分より下の者の命令は聞けない、そんなところかな?」
「それは・・・」
「どうだろう?彼が君より優れている、と、僕は思ってる。もしそれを証明できたら君も大人しく、彼の命令に従えるんじゃないかな?」
「は?・・・いえ、それはもちろん。」
「だったら君が好きな分野を選び給え。剣でも魔法でも学問でも好きな分野を。だが、その選んだ分野で君が負けたら、彼に謝罪を要求する。」
「・・・どう見ても子供ですよ?」
「彼はこの前10歳になったばかりだ。」
「私は14。どのみち彼に勝機はない。」
「だったら君は困らないんじゃないのかい?それとも自信がない?」
「・・・・だったら、私が勝ったら?」
「フフ。彼の退学、なんてのはどうかな?」
「・・・二言はないですよね。」
「当然。」
「分かりました。では魔法なしの模擬戦で。」
ザワザワっと生徒たちが騒いでいる。
ていうか、ラッセイってば何を勝手に決めてるかなぁ。
でも、これ負ければもう学校来なくていい?ちょっといいかも・・・
「ダー。わざと負けるなんて事は、許さないからな。」
いつの間にか、僕の背後をとってそうささやいたラッセイ。
だから冗談だって、心の中で冷や汗をかきつつ、僕は叫んだよ。
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