第3話 依頼のお話し
僕は、今日から、治世者養成校の生徒になったよ。
僕、10歳。最年少の生徒らしい。
でもまぁ、依頼が終わったら、さっさとやめる気満々なんだけどね。
ただ、家族、2つの家族両方が、って言うべきなのかな?、まぁ、そんな家族たちは、貴重な学生時代を、依頼が終わっても堪能すればいい、みたいに言ってはくれてるんだけどね。
2つの家族。
1つは、今回同級生にもなった姉もいるマジダシオ・タクテリア家。いわゆる王族。今の王様の息子がお父様。当然、養親。血のつながりはない。
もう1つ。これは実の母と仲間たち。
僕にはこの仲間たちとも2つの居場所があるんだ。
1つは冒険者としてのパーティ。
1つは母が会頭をしているナッタジ商会。
全部含めて家族、だよ。
商会で働く人も、みんなみんな大切な家族。
どちらの家族も僕のことを大切にしてくれる。
普段僕は、トレネー領の地方都市ダンシュタってところにいるか、ナッタジ領ミモザってところにいることが多いかな?他にもナッタジ領の領都にも最近は行くことが増えた。
ナッタジ領ってのは、僕が一応統治してるってことになっているところ。
間に大きな川があってね、西側と東側ではもともとは別の領だったんだ。いろいろあって、もとはトレネー領だったミモザがナッタジ領に編入され、僕が統治するってことになってる。
ただね、特に川の西側はね、もともとトレシュク領って言ったんだけど、ほぼほぼ民主制みたいなのが行われてたんだ。自治を大切にする、っていうのかな?選ばれた人が議会でいろいろ決めてく、みたいな?
僕が領主になっても、そのシステムは踏襲してる。ていうか、ちょっぴり変えたけどね。フフ、選挙制度を導入しました。僕、実は地球っていう異世界の日本っていう国が前世なんだ。そこの政治システムをプチ導入したよ。
本当は象徴天皇みたいに、政治にはタッチしないよ、なんて言ってたんだけど、それは許してもらえませんでした・・・はぁ。最終決断は、領主でしょ、って言われたよ。まぁ、これも僕の摂政殿たちに丸投げ。だってまだ子供だもん、僕。
こういう摂政役も、家族たちがやってくれてるんだけどね。
一応、本業っていうか、冒険者であり商人だったりするじゃないですか?
特に冒険者。
これは、依頼を受けたり、魔物を討伐して素材を回収したり、まぁ、そんな活動をするんだけどね。この冒険者としての僕ら宵の明星に依頼があったのは、まずは口頭でだったんだ。
それは先日。
僕の10歳の誕生日のこと。
当日、僕のお爺様である国王陛下がごねて、じゃない、設定していただいて、王都で僕のお誕生会を開いていただいたときのこと・・・
「のう、アレクよ、しばらく王都に住まんか?」
「今は家電作りで忙しいから無理。」
「家電。あれはいいのぅ。冷蔵庫にクーラーじゃったか。まさか空中に物が詰まってて温度によって重さが違う、とはのぉ。」
「空中じゃなくて空気だよ。」
「そうじゃそうじゃ。ところでアレクよ、しばらく王都に住まんかのぉ。」
「いやだから、僕は忙しくって・・・」
王様に、抱っこされる10歳の誕生日。
ちょっと、っていうかなりご不満。
でも、相手王様だしね、なかなか強く拒否できないよね。
そんな僕らを暖かいまなざしで見ていたパクサ兄様が、「だったら」なんて言いながら口を挟んできたよ。
パクサ兄様。皇太子の次男。一応僕の兄に当たる。
「だったら、仕事なら王都にも住むんじゃないですか、アレクは?」
「仕事?」
「ああ。アレクは冒険者なんだろ?前に冒険者の仕事を優先するって言ってなかったかい?」
「うん、まぁ・・・・」
「ちょうど、宵の明星に頼もうかという話をこの前してましたよね、父上?」
皇太子であるお父様に、話を振ったよ。
うちに依頼?
「ああ、あの話か。ゴーダンには話したんだがな。」
ん?ゴーダンに言ってるっていうなら、僕を引き留める口実ってわけでもないのかな?
「いったい何の話?」
「ん、そうだね。変則ではあるが一種の護衛依頼だね。できれば、原因の究明にも動いて欲しいところではあるんだが。」
と、お父様。
「護衛依頼ですか?」
あんまり好きじゃないなぁ、と心の中で思ってしまった。
何度かやったことはある。あるにはあるんだけど、僕はまだ子供で、おまけ扱いされるんだよね。なんだったら、 護衛中のマスコット扱い。もう大きくなったけど、相変わらず僕を構いたがる大人は多い。僕だって、それなりに戦えるのになぁ。
「そうだな。アレク。アレクは相当強いんだろう?剣も魔法も、養成所レベルは優に超えてると聞いたが。」
「え、まぁ。ゴーダンたちの教えは、自分の倍の年齢の子供と戦って勝てるレベルを目指せ、でしたから。2歳の時は4歳。4歳なら8歳っていう風に。まぁ、僕も10歳だし、駆け出し冒険者レベルなら、複数の相手、できます。」
「魔法は、さらに、いや、こっちは、髪に恥じず、至高、か・・・」
「・・・魔法は、力だけで言うなら、です。対人戦は苦手、っていうか、あんまり使えないっていうか・・・」
この世界、魔法の強さは髪の濃さ、種類は色に現れる。
僕の場合、夜空の濃紺ベースに、色とりどりの光がプリズムっぽい反射をしていて、ものすごく目立つんだ。それに比して、種類も量も桁外れ。おかげでコントロールが難しく、傷つけないように魔法を使える訓練をしてはいるけど、保護者の同意なく攻撃の魔法を使うのは禁じられてる。
「さすがは我が孫じゃ。」
何が、さすが、かは知らないけど・・・
「アレクも、免除されることになるとは言え、一応王家の一員。ここらで、正式に貴族としての勉強をしてもいいんじゃないかな?」
クスクス、と笑いながら、そんなとんでもないことを言い出したのはプジョー兄様。皇太子の長男だね。
「さすがのアレクも、ダンスや礼儀作法は、まだまだだからね。そうだ。私も講師になりましょうか。作法や歴史程度なら、大丈夫ですよ。」
「それって、兄様がアレクをかまいたいだけですよね?」
そう言うのはポリア姉様。姉様を見ていると行儀作法なんていらないんじゃないか、なんて思うけどなぁ・・・ハハハ。
「ちょっと、なんですのアレクのその目は。私だってしかるべきところに出れば、ちゃんと王女をやってます。でも、まぁ、あなたと一緒に学生ができるのはいいですね。うん、そうなさい。この夏から一緒に学校に通いましょう。」
「おやおや、ポリアこそ、アレクを独り占めかい?」
「パクサ兄様は、調査が残っているのでしょう。責任者ですし、忙しいですわよね。」
「はぁ、分かってないなぁ。当然、冒険者として依頼を受けるなら、僕と行動することになるよ。ねぇ、アレクは僕と一緒に調査してくれるよね?」
・・・
まったく分からないんですけど・・・・
「実はね・・・」
その後お父様から聞いた話。
始まりは約1年前。
実習中の生徒が突如消える、という事件が起こった。
その後、学内で気がつくと人が消える。
治世者養成校以外の4つの学校で被害者が出て、警備も強化された。
各養成所には簡易結界を張る装置がある。
それを、しばらく常時発動させよう、ということになり起動させようとした。
が、それがまったく作動しない。
作成者に頼んでチェックしてもらうと、魔導具の回路が壊されているのが分かり、修理も施した。
警備をさらに強化したものの、修理した魔導具がまた、壊されるという事態に。
そんな中、さらなる問題が起こる。
ついに治世者養成校に被害が出たのだ。
しかも、狙われたのは王族。パクサ兄様だったらしい。
その日はダンジョン実習で、ダンジョンに潜っていた。
同行者はパクサ兄様と、その従者3名。それに某領主から推薦され入学を許可された少女。さらにその少女の警備担当従者1名の、計6名。
まだ浅瀬だったらしい。
潜って数時間後、倒れている兄様と、それを庇うように覆い被さる従者1名だけが発見された。
兄様もその従者もまともな記憶はないという。
ただ、突然周りが真っ暗になり、めまいがするように足下がフワフワしたのだとか。危険、と思った従者が兄様を懐に抱き込み、その場に倒れ込んだ。
で、次に気がついたら、自分のベッドだった、そうだ。
この事件、その後卒業という形で学業を終えた兄様は、騎士団に所属しつつ、この件の解決を命じられた。まぁ、命じて貰ったってのが正解だけどね。
調査開始から半年弱。
相変わらず、人は消え、魔導具は壊される。
この魔導具。
実は宵の明星の魔導師で、僕の魔法の師であり、さらには、ここ魔導師養成校の校長の肩書きを持つ、ワージッポ・グラノフ博士が作った物。
そういうこともあって、魔導具の管理、というか警備と、ついで生徒の警護を頼みたい、そう、宵の明星に依頼した、らしい。
まだ、僕のところまでは来てないけどね。
「アレクが生徒として護衛をしてくれれば、心強い。それに生徒の方が動きやすいし、見えるものも違うだろう。是非、治世者養成校の生徒として入学しつつ、この件の解決に協力して欲しい。」
パクサ兄様のお願い。
その日は持ち帰ったものの・・・・
結局、僕は生徒として、この学校に入り込むことになったんだ。
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