第2話 治世者養成校

 入学式、というか、入学説明会、かな?年に4回開かれる、それは、5校合同。

 年に4回春夏秋冬。

 ちなみに暦はあんまりちゃんとしていない。

 1年は約360日。

 なぜ約かっていうのは、あんまり使われてないから、かな?

 一応1年を四季で分ける。

 その四季を「始め」「中」「終わり」に分ける。

 それぞれを「旬」で分ける。旬はほぼ10日。

 ちなみに、昼と夜の長さが同じになる日が年に2回春と秋にあるんだ。

 その日を「春上旬の1日」「秋上旬の1日」ってカウントする。

 これは王都の偉い文官が観測して教えてくれるんだ。国ごとに観測して発表するから日がズレることもある。ズレても誰も気にしないけどね。


 今日は「夏上旬の1日」だ。

 えっとね、季節を分けたときに、たとえば夏なら「初夏」「夏」「晩夏」みたいな感じで言う。中心の時は単なる季節を使うんだ。

 この学校の入学式は、各季節の中の上旬の1日って決まってる。

 それが正確にはいつなのか、ってのは、お役所とかで教えてくれる。

 あとは、詳しいのは商人かな?ちゃんと暦を気にしているのは、商人とか一部の貴族ぐらい。普通の人は今が上旬か中旬かも気にしてないからね。


 ただ、日の単位として「旬」は使うかも。

 どこどこに到着するのは1旬ぐらいかかるよ、なんて言い方をするんだ。

 でもね、それもアバウト。何日後とかの約束も、一応5日後ぐらいまではカウントする。けど、それをすぎれば「旬」って感じ。1週間から2週間の間が1旬、ってぐらいで考えないと、話が合わなくなっちゃうんだ。


 ていうことで、今日は夏上旬の1日だ。

 この日の入学は、剣使約100、魔導約30、技術約50、医療3、そして治世者1。うん、僕だけ。


 ちなみに剣士じゃなくて剣使ね。剣だけじゃなくて、まぁ、武技全般を教えるんだ。最終的には剣士を目指すかもしれないけど、「士」はどっちかっていうと、仕事にしてる人を表しちゃう。だから、剣などの使い方を教えるって意味で「使」なんだ。ちなみにこれは僕が訳してるだけで、当然この国の言葉でってことだからね。我ながら上手な訳だって思ってる。


 この入学者の数の違いだけど、単純に資格がある人がそんなもん、ってこと。

 武技は、訓練すれば誰でも使えるようになる。騎士とか兵士系になるにも、傭兵や冒険者になるにも、ここを出ていれば、ううん、すぐにやめたって、ここに入学を許されたって言えば、それだけでステイタス。治世者養成校以外は平民にも門戸が開かれてるし、訓練次第ってところで一番入りやすいから人数も多いってわけ。

 他は特殊技能が要るからね。

 魔法とか、技術とか・・・

 学びやすさから人数比ができちゃってる、って感じ。

 そうは言ってもここの入学は大変だ。

 だから、別の各地の学校みたいなところを卒業してから来るって人が大半です。あ、貴族は別。家庭教師に教えて貰ってくるからね。

 そういうこともあって、市井の学校は大体7歳から10歳ぐらいで入学して3年程度学ぶらしいけど、それを卒業して上位の成績の人がキャリアアップでここを目指す。だから10歳から12歳の子が入学するのが多いかな?


 治世者だけは、まぁ、治世者になる人、だからね。貴族とか、もしくは平民でも領を治める人がその補佐のために優秀な子供を送り込むこともある。当然領主推薦が必須。ちなみに王族は無条件で入れる。ってか、入れられることも・・・

 あ、治世者は、他に比べて年齢が上の人も多く、成人も少なくないんだ。

 何故かっていうと、先に剣使校とか魔導師校を卒業して入学する人も多いから。この国の人ならなおさらね。そうそう、留学生が受け入れられるのもこのクラスが多いかな?


 貴族っていうのはお勉強はほとんどおうちで家庭教師、なんだって。僕は特殊な事情で王族になって、そのついで?って感じで領主になっちゃったから、そんな家庭教師ってなかったけどね。

 いや、違うか。身内がすごくて、僕の師は、世界一の剣士に世界一の魔導師。世界一の鍛冶師に世界一の医師だからね。英才教育?ハハ、だったら良かったんだけどね。まぁ、そのうち分かるでしょ。


 じゃあ、いったい何を学ぶの?ていうとね、まぁ、実践ってことかな?他の養成校では高度なお稽古、らしい。実はだいぶ眉唾かも、って感じはするけどね。僕の身内、その昔、ここの剣使受験したけど、強すぎるってことで不合格。意味わかんないでしょ?


 まぁ、僕の身内って、どうやら化け物じみた人が多いらしく、あまり当てにならないらしいです。てことで、一般的には高度な技術を身につけるためにやってきます。というのももちろんあるけど、一番の狙いは箔付けかも・・・就職に便利、みたいな?国の直属になるには、基本的にはこの学校を卒業している必要がある、なんてのは暗黙の了解のようです。


 治世者養成校はちょっと特殊。まず学生同士の親睦、だね。同じ国の人は同年代でどんな人が共に国を創るか、っての知れるし、人脈づくり的な?

 留学生になると国家保安まで関係しちゃう。

 うちの国って、大国なんだよね。まぁ、それは追々。


 もう一つは、人、とくに軍を動かす練習、かな?

 この世界、魔物がいます。

 まぁ、魔物って言っても、すべての生き物のことを差すんだけどね。動物も、一部の植物も。家畜にしているような魔物がいるから、魔物=悪いもの、ってわけじゃないよ。地球で言う「動物」ってのとほぼ同じ。ちょっと範囲が広くって、植物でも動く物は魔物に分類されるけどね。


 こういった魔物って、食料にもなるし、単純に人を襲うから討伐したりします。で、こんな討伐を剣使養成校の人とや魔導師養成校の人と一緒に行うって授業があるんだ。このリーダー役をやるのは治世者養成校の生徒。将来人を率いるお勉強、ってわけだね。


 僕の入る治世者養成校ってのは、まぁ、そんな感じ。

 で、今回の入学者は僕一人ってわけ。まぁ、常時全校生徒10人前後らしいし、こんなもんです。



 簡単な入学式っていう激励会的説明会を終えて、それぞれの校舎へ向かいます。人数の少ない治世者養成校だけど、同じ程度のてでかさの学舎なんだ。無駄にでかい。

 で、僕は説明されたとおりに、治世者養成校の1室へと向かいます。

 はぁ、やだなぁ。


 「おいおい、最初っからそんなやな顔すんなよ。」

 「ダー様、しっかりしてください。仮にも王族。姫様に迷惑をかけないでくださいね。」

 頭上から声がかかる。

 ハハ。前者をバンミ、後者をバフマという。僕の仲間。今の立場は僕の従者。


 この治世者養成校では、従者を2人ないし3人連れなければならない。うん。連れてもいいじゃないんだ。連れなければならない。側近としてお世話をする者を引き連れて、自分はお世話されることに慣れなきゃいけないってこと。これも上に立つ者のお勉強、だって。ちなみに、従者はボディガードを兼ねることが望ましい。ってことで、一人が身の回りのお世話、一人がボディガードっていうのが一番多いパターン。

 そういうわけで、実際は学生数の何倍もの人がいるんだ。


 「はぁ、分かってるよ。今は誰もいないんだし、いいじゃない。」

 「そういうのが、油断だっての。」

 「チッ。」

 「ダー様。舌打ちは品がないです。」

 ・・・

 二人とも口うるさくて困るよ・・・


 そうこうしているうちに、指定の部屋に到着です。

 今日は、僕が入るってことで、一緒に学ぶ先輩方が顔を揃えてるんだそう。


 「もう、アレク遅いんだから。フフフ。」

 部屋に入るなり、ドレスの少女が飛びついてきて、僕を高い高いした。

 そのまま、胸に抱きしめて、頭をほっぺでグリグリされる。

 「もう、人前ですよ、姉上。離してください。」

 はぁ、ってため息をつきつつ、僕はそう言った。

 そう。

 この方は、ポリア・レ・マジダシオ・タクテリア。14歳。一応、書類上は姉。年に数回会う程度の、養親やその子供たちは、僕のことをこうやって、小さな子供のように扱う。


 「姉上じゃなく、お姉ちゃま、でしょ。さぁ言ってみて。」

 「やめてください。姉う・・・・はぁ。お姉様。これで勘弁してください。」

 姉上って言おうとして、睨まれたから慌てて言い直したけど、周りの視線が痛い。

 「んもぉ、恥ずかしがり屋さんなんだから。」

 といいつつも、やっと下ろしてくれる。

 まったく、自分の幼児体型が恨めしいよ。


 「皆様、この子がアレク。アレクサンダー・ミ・マジダシオ・タクテリアです。私の大事な弟よ。これから一緒に学ぶことになります。よしなに。」

 王女から言われて、好奇の目を向けていた生徒たち。

 慌てて、略式の礼を取り、自己紹介を始めたよ。

 祖父がアッカネロ領領主のクレイ、15歳。

 ビレディオ領領主の子息ソーヤ、15歳。

 トレネー領にある某都市の代官の息子ボナジ、15歳。

 ナスカッテ国からの留学生ライライ、14歳。

 セメンターレ国からの留学生ホンレイ、13歳。

 ホンレイの双子の弟タッター、13歳。

 シーアネマ領の某都市代官の息子チヌオイ、14歳。


 僕がこれから過ごす人達だ。

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