私の息子

平行宇宙

第1話 入学式

 僕の今の名前は、アレクサンダー・ナッタジ・ミ・マジダシオ・タクテリア。10歳。夜空の髪を持つとして、「宵闇の至宝」なんて言われている。

 残念ながら外見は実年齢より随分幼いし、背も低い。本当はこの年齢になる頃には筋肉むちむちのマッチョでスラッとしたイケメンになる予定だったんだけどなぁ。

 くやしいことに僕の周りの子供たちは、むしろ大人びている。だからだろうけど、子供扱いがひどい、って僕は思うんだ。


 さっき紹介したみたいに、僕の名前は長ったらしい。

 この国では長いほど身分が高いんだ。

 で、僕の名前についてる「マジダシオ・タクテリア」ってのは、この国タクテリア聖王国の国主一族を現す姓だ。うん、一応僕はこの国の王子、的な感じ?

 て、言っても、その前に「ミ」てついてるでしょ?ここが「レ」なら王か王位継承権を持つ者ってこと。僕は王位継承権なんて持たない。これで持つなんて言われたら王族に連なるなんて了承しなかったけどね。そう、僕の生まれは王族じゃないんだ。


 僕の最初の名前は「ダー」。

 うん、このたった1文字、強引に2文字?

 こんなに短かったのは人として認められない生まれだったから。

 そう、僕は奴隷の子として、産まれながらの奴隷の身分だったんだ。

 で、紆余曲折。まぁ、いろいろあって、皇太子の養子となった。まぁ、細かいことが知りたければ、別の場所で話すとしよう。(*シリーズ第1弾「私の赤ちゃん」第2弾「私のぼうや」を読んでもらえると彼の過去は分かります。もちろん本作だけでも十分お楽しみいただけます。by筆者)



 この国はタクテリア聖王国。

 その昔、龍退治の勇者が国を作ったという伝説のある人種の国家だ。

 人種。

 人間と呼ばれる知性体には僕ら人種の他にもエルフだとかドワーフ、獣人なんかがいる。残念ながらドワーフ以外は、この国にはほとんどいない。なんていうか、残念なことに差別がひどいんだ。


 国の首都は王都タクテリアーナ。

 今、僕がいるところ。


 巨大な塀に囲まれた王都は、塀を入ると、まず最初に穀倉地帯がある。穀倉地帯を抜けると、ちょっとした集落みたいな塊が点在する。住宅地の他、鍛冶屋とか、木工、石工なんかの工房が集まっている。

 そのまま進むと、商店街の様相を見せる。商店街の建物は大体2階建て。たまに3階もある。道路に面した1階が店舗2階が住居、といったものが多い。

 さらに進むと、徐々に高級店が立ち並ぶようになる。

 その先は、小さな丘だ。頂に湖とその中央に王城を持つ小高い丘。

 湖から流れ出る川が、丘をグルグルと幾重にも螺旋を描いて流れ出ていて、その様子はまるでソフトクリームの頭のよう。


 丘の裾野には大きな屋敷が並ぶ。大商人や貴族なんかの住まう場所。丘に向かって続く。丘の上ほど身分が高い貴族の屋敷となる。


 丘の中には、貴族の屋敷以外に、王立の学校や兵隊用の施設もある。でも店舗とか食堂はない。学校の中とか兵舎の中には購買部とか食堂もあるけども。


 王立の学校、と言ったが、正式には王が理事長を務める学校というのが正しい。国から予算は出ていないんだ。王のポケットマネーと生徒からの学費で成り立つ。

 そんな学校は全部で5つ。

 剣使養成校。魔導師養成校。技術者養成校。医療者養成校。そして僕が通うことになる治世者養成校。

 これらの養成校は年に4回、試験を経て入学が行われる。終了期間は自由。多くは2年か、成人になると卒業する。

 成人は15歳。入学資格はないけど、成人が入ることは少なくて、大体が13歳で入学する。


 僕はまだ10歳だろう、って?

 そうなんだ。

 いや、そもそも学校へ行くつもりなんて、これっぽっちもなかったんだけどね。

 実は先日とある事件があって、国王やお父様たちから依頼を受けた。

 依頼。

 そう、僕は王族だけど、王族として生活することを免除されている。

 養子になる前の生活を変えなくていいっていうのが、養子を了解した大きな理由。

 僕は冒険者なんだ。まあ成人していないから正式には冒険者見習い、なんだけどね。

 宵の明星っていうのが所属するパーティの名前。僕が王子っていう、まぁ身分が偉くなったことと、このパーティがもともと僕の復讐っていうか、名誉挽回を手伝うために作られたってこともあって、書類上は僕がパーティリーダーになってしまった。けど、外形的には、ゴーダンっていうのがパーティリーダーのままってことになってるんだ。

 ゴーダン・エッセリオ子爵。S級冒険者。僕の師であり、見習い冒険者としての身請け人。それに父のような、まぁ、本当の家族みたいな人。


 まぁ、そんな宵の明星に指命依頼として出された依頼を受ける形で、僕はこの治世者養成校の生徒になることになったんだ。

 ついでに領主の勉強をきちんとしてこい、なんて、たくさんの家族たち(王族じゃない方ね)からたたき出された、ともいう。

 あ、一応、ぼくは領主でもあるんだ。まぁ、領主的なことは、みんなに丸投げなんだけどね。

 今は王子という名目。成人したら公爵という形で廃嫡される。その時に下賜されるのがナッタジ領。もう実質僕の領扱いだけどね。今は王族直轄領であり、その自治を王子である僕に任せる、なんていう命令が出されているんだ。


 まぁ、そういうこともあって、いろいろ入学に条件の多い治世者養成校に入学が普通に許される身分の僕は、この学校の闇を解明すべく、生徒として乗り込んだ、ていうわけ。


 せっかく楽しく冒険者とか商人やってたのになぁ。

 あ、僕のママ、本当のママはまぁまぁ立派な商人の会頭。商業ギルドに行けばナッタジの坊ちゃんなんて言われるんだよ。まぁ、もうすぐこの呼び名は弟のものに変わるだろうけど。フフフ。僕、最近お兄ちゃんになりました。


 そんなこともあって、ダー10歳。

 新しい生活が始まる予感。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る