第27話 賢者、また壊す
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基礎能力判定試験も
実技試験は、実戦形式だ。
受験生同士が、相手を代えながら3名と戦う。
その内容を審査するというものだ。
一応、戦績は試験に反映されないということだが、審査するのは人間だ。
やはり勝つ方が、試験官の心象も良くなるだろう。
それに、たとえ勝敗が関係なくとも、負けるつもりは毛頭ない。
そして、そう考えているのは、俺だけじゃないらしい。
「当たっても恨みっこなしだからね」
セシルは息巻いていた。
基礎能力判定試験の感触が良かったのだろう。
筆記・論文試験では、死んだ魚の目をしていたのに……。
現金なヤツだ。
「うん。頑張ろうね」
サラサの方も順調ようだ。
苦手といっていた基礎能力判定試験も、無難にまとめることが出来たそうだ。
筆記・論文試験は、自信がないといいながら、口答で答え合わせをすると、ほとんど正答していた。
さすがは、サラサだ。
眼鏡をかけているだけある。
「ところで、魔力測定の試験会場がすっごい事になっていたけど、どうしたの?」
「噂になってましたよ。音が別会場まで聞こえてました」
セシルとサラサは目を丸くしながら、俺に尋ねる。
さてな。
きっと使った
◆◇◆◇◆
俺の一回戦の相手は、判定試験のグループにいた貴族だ。
相変わらず、にやけた顔を浮かべている。
そして臭い。香水の匂いをプンプンさせていた。
「魔力判定試験では驚いたが、あれは何かの手違いだ。だが、実戦形式の試験なら、誤魔化せないぞ。覚悟しろ、ペテン師め」
【
【村人】から、今度はペテン師呼ばわりか。
よっぽど信じたくないらしい。
自分たちの実力と、【
実技試験が始まる前、俺は試験官から魔宝石を渡された。
魔宝石とは、魔法の力を込められた魔導具だ。
主に【定時回復】や【身体防御】【抗魔力上昇】といった魔法を装填し、パッシブ起動させて使う。
今回、魔宝石にかかっていたのは【魔法破壊】【斬突耐性強化】だった。
前者は魔法の効果を消去する魔法。
後者は、斬撃と刺突の耐性を上げる魔法だ。
「この魔宝石によって受けるのは、衝撃波だけになる。むろん、強いダメージを受ければ、それだけ強い衝撃を受けるように細工されているから気を付けるように。……親御さんから預かっている身体だからな。怪我をしないようにするための措置だ」
「魔宝石の耐久性は、大丈夫ですか?」
「ははは……。怖いのか、受験生。大丈夫だ。この魔宝石は、宝武装――つまり、神具に近い効果を持っている。私が知る限り、壊れたことはないよ」
試験官は魔宝石の効果を受験生に馴染ませる処置を施す。
作業を終えると、俺から離れていった。
なるほど。本気でやっていいということか。
俺は正面を睨む。
すでに準備を整えた貴族が、待ちかまえていた。
直径50歩の円筒状の武闘会場。
観覧席には、受験生が集まり、武闘場を見下ろしていた。
俺は軽くトントンとステップする。
硬い砂地の感触を確かめた。
試験官が俺と貴族の間に立つ。
お互いを見やると、腕を掲げた。
「はじ――」
【豪炎球】!!
いきなり魔法の詠唱が聞こえた。
巨大な火塊が、俺に向かって投げつけられる。
会場はたちまち紅蓮に染まった。
俺は炎の渦に飲み込まれる。
「ひゃははははは!! どうだ、俺の魔法は? コツコツ溜めて獲得した中級の炎属性魔法だ。残念なのは、虫けらを直接燃やせないことだな」
「ひどい!! まだ始まりの合図が鳴っていなかったのに」
サラサが抗議の声を挙げて立ち上がる。
すると、貴族はギロリと睨んだ。
「おいおい。何いちゃもんつけているんだよ、眼鏡ブス! お前の目は節穴かよ。今のが反則? はあ? 俺はちゃんと始まりの後に発唱したぜ。なあ、試験官」
尋ねられる。
試験官は何もいわなかった。
相手に有利になるような発言はしないようにしているからだ。
サラサが憤る横で、セシルは冷静だった。
「反則スレスレを狙われたわね。あのタイミングだったら、認めるのは難しい。でも、これは試験よ。素行の悪さは減点対象になるわ」
「そ、それでも……。あんなの反則だよ、セシルちゃん」
「ラセルのことになると、途端にムキになるんだから。可愛いわね、サラサ」
「――――ッ! か、からかわないでよ!」
「大丈夫よ。ラセルがこの程度でやられるわけないでしょ」
「え??」
炎が晴れる。
現れたのは、何もない空間だった。
地面に焦げた跡のようなものがあるだけだ。
「ひゃは! なんだよ、いねぇじゃねぇか。もしかして、本当に消し炭になっちまったとか。試験官……。これ、俺のせいじゃないッスよね。さすがに人を殺したとかいったら、家名に傷が付くんですけど」
大丈夫だ、【
俺の声が円筒状の武闘場に響き渡る。
だが、俺の姿はない。
貴族1人と、砂地が広がるのみだ。
「ここだ」
はっきりと声が響いた。
皆の視線が上がる。
武闘場から、その上空へと向けられていた。
「ちょっと……。嘘でしょ……」
セシルは椅子から落ちる。
「すごい……。浮いてる」
サラサは立ち上がり、まるで神に祈るが如く、手を組んだ。
そうだ。俺は浮いていた。
【
中級の魔法だが、この魔法の肝はズバリ魔力のコントロールだ。
スキルポイントを溜めて獲得しても、操作が難しく、挫折するものも多い。
「そんな! 飛んでるだと! そ、そんな魔法があるわけがない」
貴族も驚愕する。
会場にいる全員が、目を剥き、口を開けて驚いていた。
この貴族はなに寝言をいっているんだ。
【浮揚】は【
獲得もさほど難しくはない。
まさか……。
300年経って、技術的に退化が起こり、使用者がいなくなったわけじゃないだろうな。
あり得る。
【浮揚】の魔法は、戦場では空からの奇襲や伝令のために使われていた。
だが、汎用性が極端に低い。
平和な時代においては、特殊技能を持った人間による、見せ物ぐらいにしかならないのかもしれない。
まあ、いい。
いずれにしても、今度は俺の番だな。
俺は手を掲げた。
「貴族の【
「なんだと!!」
「教えてやる。魔法とは、こういうものをいうのだ」
俺はいよいよ魔法を起動する。
手から爆炎が広がった。
会場が紅蓮に染まる。
それはまるで、目の前に小さな太陽が現れたかのようだった。
火塊が高速で【魔導士】に激突する。
瞬間、炎に包まれた。
「ぎゃああああああああああああああああ!!」
まるで断末魔の悲鳴だった。
業火はその声すら飲み込もうとする。
横で試験官が息を飲み、そして圧倒されていた。
試験会場の気温が一気に熱くなる。
額に汗を浮かんでも、誰も拭おうとしない。
皆、その炎に魅了されていた。
しばらくして、炎が止む。
現れたのは、真っ裸の貴族だった。
着ていた服が魔法の火で消し飛んでいたのだ。
【魔法消去】の効果に救われたな。
派手にダメージを負ったように見えるが、皮膚を軽く焼いた程度だ。
すぐ処置をすれば、痕も残らないだろう。
試験官が倒れた受験生を確認する。
その首から下げた魔宝石も、当然ボロボロになっていた。
「馬鹿な……。魔宝石の魔法出力を上回るなんて。君、一体どんな上級魔法を使ったのだね」
「上級魔法なんて使ってませんよ」
「な――! 上級魔法を使ってないだと」
「あれは、【初炎】です。【
俺はあっけらかんと答えた。
すると、試験官は固まる。
耳をそばだてて聞いていた受験生たちも、凍り付いた。
場内がしんと静まる。
やがて、時は動き出した。
「「「「しょ、初級魔法ぉぉぉぉおおおおおおおおおお!!!!」」」」
大声を張り上げた。
「一応手加減をしたつもりだったんですが……」
貴族に近づき、首から提げた魔宝石を確認すると、すでにボロボロになっていた。
予想した通りだ。
初級魔法でも、魔宝石の効果をオーバーしてしまったらしい。
次からは、もう少し魔法出力を抑えないとな。
うっかりまた……会場ごと吹き飛ばし兼ねない。
「えっと……。ところで、試験官殿」
「は、はい……。なななななんでしょうか」
何故か、敬語になっていた。
「一回戦これで終わりでいいですよね」
「あ、ああ……。君の勝ち! ら、ラセル・シン・スタークの勝利だ!!」
試験官は勝ち名乗り上げる。
すると、一気に会場のボルテージが上がった。
立ち上がり、手を叩く。
試験であるはずなのに、万雷の拍手が俺を包んだ。
みんなが騒ぐ中、1人舞台に立った俺は首を傾げる。
おかしいな。
勝敗は関係なかったんじゃないのか?
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