第23話 賢者、交代を告げる(前編)

本日、ニコニコ漫画でコミカライズの最新話が更新されております。

そちらも是非よろしくお願いします。


~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~



「次はサラサの番だな」


 彼女から受け取ったのは、短弓だった。

 こちらもきちんと整備されている。

 だが、かなりの年代物だ。

 ところどころ、修復した跡があった。


「サラサは目が悪いのに、弓を使うのか?」


「え? あ、はい……。で、でも……眼鏡をかければ、狙いを付けることは難しくありません」


「じゃあ、戦闘の最中に眼鏡をなくしたり、壊されたりしたらどうだ?」


「それは――」


 サラサは言葉を詰まらせる。

 大きな眼鏡の縁を触った。


「あまりこういう風にいいたくないが、弓矢はやめておけ。目の悪い人間には、不向きな武器だ」


 弓矢だけではない。

 戦闘において目の悪さは致命的だ。

 相手の攻撃軌道が見えなければ、防御が難しいし、攻撃では急所を正確に狙うことができない。


「じゃあ、わたしはどうしたら……」


 サラサの顔が沈んだ。


「大丈夫だ。そんなお前にピッタリな武器がある」


「わたしにピッタリ?」


「セシル。お前の剣を貸してくれ」


「いいけど、安くないわよ」


「お前が剣を俺に貸与する金以上のことを、俺はしてやったと思うが?」


「なはははは……。うそうそ。そんな怖い顔しないでよ」


 笑って誤魔化しながら、セシルは俺に剣を渡す。


 1本の木の前に立った。

 俺は剣を構える。


 すかさず魔法を起動した。


 【連続技】!


 瞬間、剣が加速した。

 剣閃が樹木に襲いかかる。

 光が走り、あっという間にバラバラになった。


「すごい……。全然見えなかった!」


「ちょ! 何よ、今の! 人の技なの?」


「これぐらい魔法じゃなくても、鍛錬すれば出来るぞ」


「出来ないわよ! あんた、どれだけ鍛えているの!?」


 驚嘆するセシルに、俺は剣を返す。


 セシルはジロジロと己の剣を観察した。

 もしかして、剣に何か仕掛けがあるのではないかと思っているのだろう。

 試しに振ってみたが、俺のように振ることは出来ない。


 ただ単純に鍛錬不足だな。


 俺は木くずとなった大木の一部から、1本の棒を取り出す。

 そこに【硬度上昇】と【軽量化】を付与した。

 いまだ驚嘆しているサラサに渡す。


「棍棒……ですか?」


 武器といえば、剣や槍、弓に目が行きがちだが、棍棒も立派な武器だ。

 打撃武器というのは、当たればどこでも致命傷になる。

 例え相手が鎧に覆われていても、その上からでも十分相手を怯ませる能力があり、頭に当たれば脳震盪を引き起こし、スタンさせることが出来る。


 防御の面でも優秀だ。

 刃よりも折れにくいし、逆に武器破壊することも可能。

 戦場においては、刃が刺さって抜けなくなり、敵から武器を取り上げる事だって出来る。

 何よりコストが安くすむ。


 意外と知られていないが、棍棒は万能武器なのだ。


「納得したか」


「は、はい!」


「とりあえず、ピンチになった時は、壁を背にして、棍棒を振り回せ。それだけで、十分脅威になるからな」


「ありがとうございます! ラセルさん!!」


「よし! 準備は整ったわね。出発よ。――エイ! エイ! オオ!」


「「お、ぉぉ……」」


「声が小さい! もう1回!」


「「おお!!」」


 俺とサラサは言われるまま拳を掲げた。


 ていうか、何故セシルが仕切っているんだ?



 ◆◇◆◇◆



「あそこだと思います」


 サラサは指を差した。


 洞穴は絶壁の裏に隠れるようにして存在していた。

 入口に梁が張られ、空の松明が置かれていた。

 歩哨と思しき男が1人、暇そうに欠伸をしている。


 間違いなく盗賊団のアジトだ。


 俺はサラサを見る。

 大したものだ。

 未完成とはいえ、【未来視】の魔法を初期付与されていることは間違いないらしい。


「はうぅぅぅ……。あ、あの……。ラセルくん」


 何故か、サラサは赤くなっていた。

 耳の先まで真っ赤だ。


「うん……? どうした、サラサ? 熱でもあるのか?」


「そ、そういうことじゃなくて……。そ、その……。あの……。そうじっと見られると……。わたし……」


「は?」


 いまいち要領が掴めないのだが……。

 すると、セシルが俺の顎を掴んだ。

 自分の方に無理やり向けさせる。


「ちょっと! サラサが困ってるでしょ。ジロジロ見るなっていってるの」


「ああ……。そういうことか。心配するな、他意はない。未完成でも【未来視】の一部能力を解放できていることに、感心していただけだ」


「それって褒めてるってこと」


「そういったつもりだが……」


「もうちょっと素直に言いなさいよ。ね! サラサ」


 サラサはさらに赤くなっていた。

 頭の上から蒸気が上がり、エルフ特有の長耳は今にも矢のように飛び出して行きそうだ。


 俺はそのサラサに話しかける。


「サラサ、弓を貸してくれ」

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