第23話 賢者、交代を告げる(前編)
本日、ニコニコ漫画でコミカライズの最新話が更新されております。
そちらも是非よろしくお願いします。
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「次はサラサの番だな」
彼女から受け取ったのは、短弓だった。
こちらもきちんと整備されている。
だが、かなりの年代物だ。
ところどころ、修復した跡があった。
「サラサは目が悪いのに、弓を使うのか?」
「え? あ、はい……。で、でも……眼鏡をかければ、狙いを付けることは難しくありません」
「じゃあ、戦闘の最中に眼鏡をなくしたり、壊されたりしたらどうだ?」
「それは――」
サラサは言葉を詰まらせる。
大きな眼鏡の縁を触った。
「あまりこういう風にいいたくないが、弓矢はやめておけ。目の悪い人間には、不向きな武器だ」
弓矢だけではない。
戦闘において目の悪さは致命的だ。
相手の攻撃軌道が見えなければ、防御が難しいし、攻撃では急所を正確に狙うことができない。
「じゃあ、わたしはどうしたら……」
サラサの顔が沈んだ。
「大丈夫だ。そんなお前にピッタリな武器がある」
「わたしにピッタリ?」
「セシル。お前の剣を貸してくれ」
「いいけど、安くないわよ」
「お前が剣を俺に貸与する金以上のことを、俺はしてやったと思うが?」
「なはははは……。うそうそ。そんな怖い顔しないでよ」
笑って誤魔化しながら、セシルは俺に剣を渡す。
1本の木の前に立った。
俺は剣を構える。
すかさず魔法を起動した。
【連続技】!
瞬間、剣が加速した。
剣閃が樹木に襲いかかる。
光が走り、あっという間にバラバラになった。
「すごい……。全然見えなかった!」
「ちょ! 何よ、今の! 人の技なの?」
「これぐらい魔法じゃなくても、鍛錬すれば出来るぞ」
「出来ないわよ! あんた、どれだけ鍛えているの!?」
驚嘆するセシルに、俺は剣を返す。
セシルはジロジロと己の剣を観察した。
もしかして、剣に何か仕掛けがあるのではないかと思っているのだろう。
試しに振ってみたが、俺のように振ることは出来ない。
ただ単純に鍛錬不足だな。
俺は木くずとなった大木の一部から、1本の棒を取り出す。
そこに【硬度上昇】と【軽量化】を付与した。
いまだ驚嘆しているサラサに渡す。
「棍棒……ですか?」
武器といえば、剣や槍、弓に目が行きがちだが、棍棒も立派な武器だ。
打撃武器というのは、当たればどこでも致命傷になる。
例え相手が鎧に覆われていても、その上からでも十分相手を怯ませる能力があり、頭に当たれば脳震盪を引き起こし、スタンさせることが出来る。
防御の面でも優秀だ。
刃よりも折れにくいし、逆に武器破壊することも可能。
戦場においては、刃が刺さって抜けなくなり、敵から武器を取り上げる事だって出来る。
何よりコストが安くすむ。
意外と知られていないが、棍棒は万能武器なのだ。
「納得したか」
「は、はい!」
「とりあえず、ピンチになった時は、壁を背にして、棍棒を振り回せ。それだけで、十分脅威になるからな」
「ありがとうございます! ラセルさん!!」
「よし! 準備は整ったわね。出発よ。――エイ! エイ! オオ!」
「「お、ぉぉ……」」
「声が小さい! もう1回!」
「「おお!!」」
俺とサラサは言われるまま拳を掲げた。
ていうか、何故セシルが仕切っているんだ?
◆◇◆◇◆
「あそこだと思います」
サラサは指を差した。
洞穴は絶壁の裏に隠れるようにして存在していた。
入口に梁が張られ、空の松明が置かれていた。
歩哨と思しき男が1人、暇そうに欠伸をしている。
間違いなく盗賊団のアジトだ。
俺はサラサを見る。
大したものだ。
未完成とはいえ、【未来視】の魔法を初期付与されていることは間違いないらしい。
「はうぅぅぅ……。あ、あの……。ラセルくん」
何故か、サラサは赤くなっていた。
耳の先まで真っ赤だ。
「うん……? どうした、サラサ? 熱でもあるのか?」
「そ、そういうことじゃなくて……。そ、その……。あの……。そうじっと見られると……。わたし……」
「は?」
いまいち要領が掴めないのだが……。
すると、セシルが俺の顎を掴んだ。
自分の方に無理やり向けさせる。
「ちょっと! サラサが困ってるでしょ。ジロジロ見るなっていってるの」
「ああ……。そういうことか。心配するな、他意はない。未完成でも【未来視】の一部能力を解放できていることに、感心していただけだ」
「それって褒めてるってこと」
「そういったつもりだが……」
「もうちょっと素直に言いなさいよ。ね! サラサ」
サラサはさらに赤くなっていた。
頭の上から蒸気が上がり、エルフ特有の長耳は今にも矢のように飛び出して行きそうだ。
俺はそのサラサに話しかける。
「サラサ、弓を貸してくれ」
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