第22.5話 賢者、勘違いする(後編)

本日「劣等職の最強賢者」のコミカライズがニコニコ漫画で更新されました。

好評連載中ですので、是非読んでくださいね。


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「はあああああああああ!?」


 セシルという女は叫ぶ。

 いちいちうるさい奴だ。やれやれ……。


「どうして!?」


「この程度の盗賊相手に、死にかけているようなヤツと一緒には組めないからな」


「あ、あれはちょっと油断していただけよ」


「その油断で、お前の親友も殺されそうになったんだぞ」


「う――!」


 ようやくお喋りなセシルの口が閉じる。


 こういう手合いは、言葉の中に身内を混ぜるに限る。

 正義感の強いことは、1つの素養としては必要だ。

 俺も全くないわけではない。

 だから、セシルの話に耳を傾けた。

 盗賊達が危険な存在であることは、間違いないからだ。


 だが、正義のために自分の命を危険にさらすのは別問題だ。

 まして他人の命ならな……。


 故に、俺は強くなる。


 それは俺が最強であることを正すことでもある。


 議論は尽くした。

 そう思ったが、思いも寄らないところから反撃を食らう。

 代わりに、サラサが口を開いたのだ。


「待ってください。戦闘は無理でも、何かお手伝いすることはできませんか?」


「手伝い? ……ほう。どう手伝ってくれるんだ」


「失礼ですが、逆にお尋ねします。ラセルさんは、盗賊団のアジトがどこにあるかわかりますか?」


「いや……。サラサは知っているのか?」


 サラサは1度息を吸い込む。

 眼鏡越しに光る瞳は、何か強い決意を感じた。


「わたしの力なら見つけることができると思います!」


「力?」


 俺は首を傾げる。

 サラサの代わりに説明したのは、セシルだった。


「サラサの初期魔法って、【未来視】なのよ」


 馬鹿な! 【未来視】だと!


 さすがの俺も驚いた。

 【学者プロフェッサー】の中でも、最上位に位置する魔法だ。

 名前の通り、未来を見ることが出来る。

 俺もかつて【学者プロフェッサー】だった頃、所持していた。

 鍛えれば、数年先の未来を見通せる能力を持つ。

 確実に先読みが出来るこの能力は、戦闘においても絶大な効果をあげた。


 一時、これこそ最強の職業だと確信したことがあったぐらいだ。


 その必要スキルポイントは、軽く5万を超える。

 当然、今の俺でも保持していない珍しい魔法だ。

 それを初期魔法として保持しているとは、かなりの幸運といっていい。


 初期魔法とは、生まれた瞬間から保持している魔法のことだ。

 たいてい魔力の消費が低い魔法が装備されている。

 【戦士ウォーリア】であれば、【筋量強化】。【鍛冶師ブラックスミス】であれば【鋭利】が付与されて、生まれてくる。


 【学者プロフェッサー】も本来は、【鑑定】が付与されるが、ごく希に、上位スキルを持って生まれてくる人間がいる。


 だが、【未来視】を保持し、生まれた子供というのは、初めて聞いた。


「どれぐらいの先の未来を見える?」


「え? それは……。はっきりとしたことがわからないのですが……」


 やはりな。

 おそらく、【未来視】を使うのに、魔力の放出量が足りないのだろう。

 今の状態では、能力の20分の1も使えていないはずだ。


 例えそうだとしても、森にある盗賊団のアジトを探すのは、訳ないだろう。


「1つ聞いておきたい。そんな能力があるのに、何故こっちの道を選んだんだ?」


「それは……その…………。す、素敵な出会いがある、と……」


 俺とサラサが目が合う。

 すると、金髪を振り乱しサラサは、目を逸らした。

 何故か、長いエルフ特有の耳が真っ赤になっている。


 お、おい。なんだ、その反応!

 と、というか、素敵な出会いって俺のことか?

 てか、素敵ってなんだよ。

 俺としては、超迷惑な出会いなんだが……。


「ねぇ! で、どうなの! あたしたちも付いていっていいの?」


迷惑セシルが喋った……」


「なんか言った?」


 セシルが半目で睨む。


「こっちのことだ。――わかった。いいだろう」


「やった!」


「ただし――」


「まだなんかあるの?」


 セシルは露骨に嫌そうな顔をする。

 そんな顔をしたいのは、こっちの方なのだがな。


 俺はおもむろに手を差し出した。


「お前達の武器を見せてくれ」



 ◆◇◆◇◆



 セシルとサラサは、自分たちの武器を差し出した。


 俺はまずセシルのロングソードを取り上げる。

 いい刃だ。

 鍛冶屋の娘だけあって、武器の扱いにはなれているらしい。

 きちんとメンテナンスされていた。

 そこらで転がっている盗賊達の武器とは雲泥の差だ。


 軽く振ってみる。

 刀身の微妙な曲がりもない。

 セシルの父親が作ったそうだが、なかなかの腕のようだ。


 しかし、重い。


 重量のある武器は、破壊力こそあるが、取り回しが難しい。

 1個体の魔獣ならこれでもいいが、盗賊のように多少知恵があり、複数を相手する時には、不利になる。

 背中を怪我していたのが、良い例だ。

 前方の敵はなぎ払うことが出来ても、後方の敵に気を遣うのは難しくなる。


 俺は【鍛冶師ブラックスミス】の魔法を使う。


 魔法を付与して、セシルに渡した。


「振ってみろ」


 言われた通りに、セシルは試しに振ってみせた。


「軽ッ!」


 ドワーフ族の娘は、思わず唸った。


 子供のようにはしゃぎ回る。

 連続で空を斬った。

 なるほど。剣の腕には自信があるというだけはある。

 足の運び。腰の切れ。斬る瞬間の握り。

 すべて一定水準以上にあった。

 何より綺麗な型をしている。

 随分、長い間振ってきたのだろう。


「すごい! なにこれ!」


「もしかして、【鍛冶師ブラックスミス】の【軽量化】の魔法ですか?」


「そうだ」


「あんた、ホント一体何者? 【魔導士ウィザード】に【聖職者クレリック】、今度は【鍛冶師ブラックスミス】の魔法なんて!」


「言ったろ。俺は【村人】だ」


「あはははは……。まさか! 【村人】がこんなこと出来るわけないじゃん!」


 出来るんだよ、これが……。


 説明したところで、2人には理解出来ないだろう。

 少なくとも、脳天気に剣を振るセシルにはな。

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