第23.5話 賢者、交代を告げる(後編)

本日、ニコニコ漫画にてコミカライズ最新話が更新されました。

そちらも是非よろしくお願いします。


~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~



 俺に声をかけられ、ようやくサラサは我に返る。

 素直に持ってきた弓を俺に渡した。

 老弓だが、まだまだ使えそうだ。

 俺は目一杯引き絞る。

 鏃の先に【睡眠】の【属性付与】を与え、狙いを付けた。


 弦を離すと、矢は空気を斬り裂く。

 男の腕に刺さる。そのまま「ふにゃ」と奇声をあげ、崩れ落ちた。

 セシルが尋ねる。


「殺したの?」


「いや、眠ってもらっただけだ」


「【睡眠】の【属性付与】!? あれって、魔法粉が必要でしょ。あんた、今それを出したっけ?」


 【鍛冶師ブラックスミス】の【属性付与】は、武器に魔法の効果を付与させる魔法だ。

 だが、他職業の魔法を付与させる場合、セシルがいうように魔法粉といわれる魔法効果が含んだ魔導材料が必要になる。


「必要ない。手持ちの中に、魔法があるからな」


「つくづく無茶苦茶ね。あんたって、パパが聞いたら、卒倒するわ」


 セシルは頭を抱える。

 一方、サラサは俺の弓の腕が気になるらしい。


「ラセルさん、弓まで出来るんですね」


「山で魔獣を撃って鍛えたからな」


 弓矢は嫌いじゃない。

 特に子供の頃(今でも子供だが)、イッカクタイガーを仕留めたのは、自信になった

 魔法は威力こそ高いが、種類によって派手な音を鳴らす。

 その点、弓はほぼ無音で相手を殺傷することが可能だ


 サラサに弓を返し、俺たちは洞穴に近付く。

 他に見張りはいないようだ。


「ここからは、お前たちの出番だ」


「え? あんたは戦わないわけ?」


 セシルは早速抗議の声を挙げた。


「言ったろ。盗賊に興味はない」


「か弱い乙女を戦わせて、あんたは高見の見物って……。良い度胸してるわね」


「危なくなったら助けてやる。心配するな。盗賊たちの力量はしれてる。お前たちでも、冷静になって戦えば、勝てるはずだ」


「褒められても、なんも嬉しくないわ」


 セシルはため息を吐く。

 だが、やる気はあるらしい。

 鞘に収まった剣を抜いた。

 軽く振って、身体を動かし、準備する。

 横のサラサも棍棒を握りしめた。


「セシル、待て。剣を貸せ」


 セシルは言われるまま剣を俺に渡した。

 【鍛冶師ブラックスミス】の魔法を起動する。

 【変成】によって、刀身が短くする。


「ちょ! 剣の長さを短くしてどうするのよ!?」


「洞窟の中は狭い。そのロングソードじゃ長すぎる」


「あ。そういうことか……」


 セシルはポンと手を打つ。

 もう1度、剣の感触を確かめると、皆に振り返った。


「一気に最深部まで駆け抜けるわよ」


 奇襲か。

 一見無茶な提案だが、悪くない。

 街道で数人倒しているし、さほど人数もいないだろう。

 囲まれるリスクも少ないはずだ。


 一応、無茶なリーダーが突撃する前に、俺は【探知】の魔法をかける。

 10人弱か。これぐらいなら問題ない。


「行くわよ!!」


 セシルは走り出した。

 洞窟の中を駆け抜ける。

 トラップが起動し、呼び子が襲撃者を知らせた。

 盗賊たちが気付く。

 だが、用意する前。

 すでにセシルの剣閃は、1人の盗賊を手に掛けていた。


「ぎゃあああああああああ!!」


 袈裟斬りにされた盗賊から血しぶきが上がる。

 続いて駆けつけた仲間も、2刀目で切り裂いた。

 胴を斬られ、悶絶する。

 あっという間に、2人を無力化してしまった。


 ほう……。


 やれといったのは俺だが、存外悪くない動きだ。

 道場で剣を習っていたといっていたが、嘘ではないらしい。


「身体が軽く感じるわ」


 セシル自身も驚いていた。

 それは単純に剣が軽くなっただけだ。

 やはり、最初盗賊団に斬られたのは、武器が合っていなかったからだろう。


 まさに水を得た魚だ。

 セシルは冒険者崩れと思われる盗賊をバッタバッタとなぎ倒す。


「こないでください!!」


 サラサの声が洞窟に響く。

 次の瞬間――。


 がつん!!


 痛打する音が響いた。

 サラサの棍棒は男の急所を見事捉えていた。


 お、おっふ……。痛そう~。


 俺は思わず顔を顰める


 一方の盗賊も悶絶していた。

 膝を折り、その場でゴロゴロと転がる。

 その頭をすくい上げるように棍棒でぶっ叩いた。

 2度の強打に、たちまち男は昇天する。


 サラサの方も上手くやっているらしい。


 俺たちはさらに洞窟の奥へ突撃する。

 広間に出ると、盗賊たちがまだたむろしていた。

 数は8人。

 想定よりも多いが問題ない。


「まだ武装していない。この機を逃すな」


 盗賊の数に一瞬気後れした2人を叱咤する。

 セシルとサラサは気力を取り戻した。

 淡緑と臙脂色の瞳が、同時に輝く。


 矢のように飛び出した。

 サラサとセシルは、次々に盗賊たちを倒していく。


「残りは1人ね」


 セシルが走る。

 広間の最奥。

 優雅に腰掛け、この状況でも全く物怖じしない盗賊へと走る。

 セシルは飛び上がり、大上段から刃を振り下ろした。


 盗賊は笑う。

 すると、手を突きだした。

 振り下ろされたセシルの剣を軽々と弾く。


「なにぃ!!」


 一瞬、腰が退く。

 だが、今のセシルに後退の文字はない。

 一気に押し込み、男に連撃を放った。



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☆★☆★ おいしい料理作品のご案内 ☆★☆★

HxSTOON (へクストゥーン)より「ごはんですよ、フェンリルさん」というお話の原作を書かせていただきました。

おいしいご飯を作って、フェンリルさんをモフろうというお話になりますw

WEBTOON作品ですが、カラーも入って、めちゃくちゃ料理がうまそうに見えますので、

是非ご賞味ください。


配信日は5月23日より。

HykeComicサイト内で連載開始です。

宣伝失礼しました。



〈あらすじ〉


「ごはんですよ、フェンリルさん」あらすじ


動物好きOL・伊万里サチはある日異世界へ転生してしまう。

これが噂の異世界転生! 

聖女になってイケメン王子と結婚か……と妄想を膨らますサチだったが、告げられたのは、自分が魔王のいけにえだということ!

今から自分を食べるこわ~い魔王様とご対面…と思ったら、魔王・フェンリルはなんとモフモフのおっきなワンちゃん!

 

サチはたまらずそのふかふかな体毛をモフモフしてしまい、さぞや魔王もお怒り…と思いきや、なぜかぐったり。


100年以上何も食べておらず衰弱しているのだという。


見かねたサチは、祖母譲りの知識と腕前で異世界の素材を使い絶品雑炊をふるまう。

それをペロッと平らげたフェンリルに、自分の「ごはん係」になるよう命じられたサチ。


そしてサチは、ごはんを作るごとに一回「モフる」、一日一膳ならぬ「一膳一モフ」を条件に、フェンリルのごはん係に就任するのだった。


──さて、今日のフェンリルさんの献立、何にしよう!




……なんだ、いつもの延野かと笑っていただければ幸いです。

配信日は5月23日になります。

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