第3話 ???にて

 人気MMORPG『スカイブルーファンタジア』の十周年記念イベント『聖魔神の聖杯』では二つのインスタンスダンジョンが実装された。一つは空に浮かぶ『天空城の神殿』で、もう一つが『餓者髑髏がしゃどくろの地下迷宮』だ。

 今、長時間の苦労の末に6人のパーティーが『餓者髑髏の地下迷宮』の最終ボスがいる部屋の前までたどり着いていた。

 正式サービスが開始してから十年目にしてようやくのゴッドアイテムの実装。

 このイベントが始まってから半月。多くのプレイヤーが挑んでいるが成功報告は数件に過ぎない。


「あー、どきどきするー。初見プレイの醍醐味だよねー」

「うんうん。ここまでもかなり苦労したもんな。なんかボス前だってのにちょっと感動でウルウルしてるぜ」

「なにそれ、早いよー」

「もし倒せたら号泣するんじゃないか?」

「今のうちにティッシュ用意しといたら? 箱で」


 ディスコードからは6人の楽し気な会話がお互いの耳に届く。しかしながらそこには緊張感も滲み出ていた。


「さて、と。入っていきなり戦闘じゃないことは確認済みだけど大きく動かないようにな。みんな」

「うん」

「了解」

「わかった」

「k」

「あー、緊張するー」


 誰かの咳払いを聞きながら盾役タンクのプレイヤーが声をかける。


「ほいじゃ、行こうか」


 それぞれが扉をダブルクリックすると、各キャラクターは光の筋となりマップ移動の為画面が暗転、右下に『Loading……』の文字が浮かぶ。

 しばらくして画面が明るくなると部屋の様子が伺えた。


「おおお」

「すげー」

「キレイ……」


 地下迷宮の最奥の部屋にもかかわらず、その部屋は銀河系の宇宙空間のように煌びやかな星々が瞬いていた。時折流れる流星に心惹かれるのは、初見でこの部屋にたどり着いた者に共通することだ。そして――。


「――あれが最終ボス……」


 6人のパーティーに立ちはだかるのは、プレイヤーキャラクターの数倍の大きさのスケルトン。その体は深紅。

 阿修羅像を思わせる六本の腕。

 マウスカーソルを当ててみるとモンスターネームが表示される。


不死者の王スケルトンキングタナガ』


 魔力系スケルトンの最高峰『不死者の王オーバーロード』と対を成す物理系スケルトンの最高峰が『不死者の王スケルトンキング』だ。

 

「おお! あれが噂の『田中』さんかぁ」

「うー。お願い『田中』さん! ゴッド武器ドロップしてぇ!」

「今日、ゴッド武器落としてくれたら俺、日本中の『田中』さんを好きになるなッ!」


 タナガが実装されてから半月、すでに『餓者髑髏の地下迷宮』ではなく『田中さんちの地下迷宮』という名が広まっていたりする。


「みんな準備はいいか?」

『OK!!』


 全員の了承の声を聞いて盾役のプレイヤーキャラクターが一直線にタナガに突っ込んでいく。

 プレイヤーキャラクターを感知したタナガは伏せていた顔を上げると、その昏い眼窩を向けた。

 眼球はなく代わりに金色の炎のようなものが灯る。

 この6人のプレイヤーたちが正式サービス当時からの古参プレイヤーかどうかはわからない。

 仮に古参プレイヤーだったとしても当時のタナガと今のタナガが同一のスケルトンだとは気づくまい。


 そして知ることになるだろう。

 一バイトだったに過ぎないタナガが、バイトからバイトリーダー。そして社員になりエリア主任を経て係長。さらに課長、部長を超えた今。とてつもない力とそこそこの権力を手にしていることを。


 なぜならタナガは――。

 



                     ――了――




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バイトリーダー、タナガ。 維 黎 @yuirei

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