鈴焼が我が家にやってきた

 そして、電話からちょうど一週間後。つまり、和歌山県発送の翌日に鈴焼は届いた。オーダー単純化のため、個人消費にも拘わらず化粧箱入りにしてしまったが、結果的にとても良いものを見ることができた。

 まず、化粧箱に予想外の高さがあった。文庫本を縦に詰められるくらい分厚いのである。その分厚い箱にみっちりと鈴焼が十六粒ずつ入った袋が九袋。目に訴えかけてくるボリューム感があり、お菓子にも拘わらず物凄く迫力がある。

 それだけの質量感を伴う鈴焼を収める化粧箱は、とても良いつくりである。紙自体が厚く仕上げの丁寧な紙箱に、手触りが良い梱包材を使っている。仕事柄、梱包材をよく見るが、これだけの品質のものは見たことが無い。手土産に持っていくことができたなら、贈り手も幸せな気持ちになれそうである。

 化粧箱の色々に圧倒されていたが、せっかくなので、早く鈴焼を食べる準備をしようと思った。

 一袋手に取り、小皿に盛った。Tへの報告のため写真を撮ろうと思ったのだ。ピンポン玉より少し小さい、やや細長い面差しの鈴型。一粒でも可愛い。土台に四粒配置し、中央に一粒乗せてみた。粒を密集させると可愛らしさがより高まる。

 鈴焼や背景の位置調整などをして何枚か写真を撮る。ほどほどに満足できる画角が確保できたので、いよいよ食べることに。念入りに小皿に盛った鈴焼たちは、その形をもう少しキープしたい気分になったので、袋に残っている鈴焼を一粒、箸でつまんで食べてみた。

 口に含めばふんわり漂う、和三盆とミルクとバターの香り。表面はふかふかなのに、厚みがあって弾力のある生地。舌を包み込むやさしい甘み。素朴でやさしい鈴焼の味に、感覚全部が持っていかれる衝撃。

 これは想像以上に美味しい。小粒で可愛い印象なのに、たっぷりの厚みと弾力があってモグモグしがいがある。見た目通りに軽くて何粒でもいけるけど、結構咀嚼するので食後には満足感がある。

 やさしい味だから、どんな飲み物だっておともにできる。緑茶に合う。牛乳にもよく合う。コーヒーにだって合う。結局試さなかったけど、紅茶にもきっと合うだろう。

 カステラ焼きに近いかなと想像していた鈴焼。いいや、鈴焼は鈴焼だ。香りも味も食感も、他に似ているものが見当たらない。

 予想以上の美味しさに、そのまま袋に残っていた十一粒を完食してしまった。食感は思いのほか軽いのだが、お腹にはたまる存在感がある。そんなに量を食べていない認識だったが、軽く一食分食べた感覚である。

 小皿に盛った鈴焼もまだ食べられそうだったので、このタイミングで食べきることにした。しかし、食べた瞬間、外気に晒したそばから鈴焼は乾いてしまうということを知る。表面が乾くだけでなく、内部も水分が飛んで硬さが出ている印象である。

 お行儀悪いけど、袋から直接つまんでモグモグするのが一番美味しいかもしれない。砂糖とバターで表面がしっとりしているから、気になる人は箸やフォークを使うと快適だと思われる。気軽に食べられるお菓子なので、本来はこれが正しい「さほう」なのかもしれない。

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