第4話「死ぬ時まで他人任せなの?」

4月になった。


就職活動が本格化したこともあり、周りの大学は大忙しだ。



まあうちの大学は違う。

この時期ですらガラガラなキャリアセンターがその状況を物語っている。


そして俺の用事はこのキャリアセンター。

早期選考を受ける際、お世話になっていた先生への挨拶が目的だ。



正直、気が重い。



早期選考は結果が出せず、現時点で企業の持ち駒も手で数えられるほどでしかない。

そこからなんとなく気まずくなって2、3ヶ月まともに連絡していなかった。


今日大学に来たのは、先生への現状報告と今後の展望について・・・


「帰りてぇ」



*****



「お久しぶりです。先生。」


わかってはいたが、4月でガラガラのこの状況はどうなんだろうか。


「あら。しばらくぶりですね!」


50を超えているおばさん先生。

去年の夏から冬にかけてかなりお世話になっていた。

エントリーシートの添削、面接練習、企業分析・・・


基本はこの人から教わった。


・・・だからこそ申し訳ない。



「すみません先生。全くいい成果は得られなかったっす。」


「そうですか。仕方ないですね。それで今はどこを受けているんですか?」


・・・あっけらかんとした回答にちょっとびっくりした。なんかこう、もう少しあってもいいんじゃないのか?割と落ち込んでるんだけどな。


「どうしましたか?」


・・・ムカつく。お前に俺の苦しみの何がわかる。


「どうもこうもないですよ。先生は知ってるでしょ?俺の志望業界。もう散々ですよ。ついてないっすわ。もうどうだっていいんすよ。」



最近、頭に血が上りやすい。

そのせいか、こんな感じの衝動的な行動が増えた気がする。


・・・やっちまったな。



だけど先生は顔色ひとつ変えない。


「それで、もうやめるんですか?就職活動。」


俺が喚いたことが無視されているかと思うくらい声のトーンが変わってない。

もっとこう、あるだろ。反応・・・


「あとはもうなんでもいいんですよ。希望の業種は全滅っす。先生なんか良さげな企業紹介してください。なんでもいいんで。」




顔色が・・・変わった。気がする。

明らかに先生の雰囲気が悪くなった。と思う。



なんだ。



・・・長い沈黙の後、先生は口を開く。




「あなたは死ぬ時まで他人任せなんですか?自分の死に際くらい、自分で決めなさい。」



慰めの言葉・・・ではない。

教育者のセリフとも思えない。



でも・・・



いい言葉だ。



芯を食っている。



世の中希望通りに行かないことなんて死ぬほどある。



きっと俺の性格を加味した上でのセリフだったんだと思う。



・・・来て良かった。



「敗戦処理をうまくやりなさい。まだまだこれからです。というか始まってすらないですよ。時間があるなら企業分析手伝いますよ。」



この人は夢を捨てさせ、希望を持たせた。

俺はそう勝手に解釈している。



俺はこれからだ。



・・・最後は笑うぞ。











  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る