第3話「383文字の不足」

抜け殻とはこのことだ。本当についていない。


無意味と理解しつつもため息がでる。



この時期だからできることはいっぱいある。新たな可能性を探そう。


外野がそんなことを言ってくる。

しかし俺は、そんなことが言えるのは当の本人ではない人の特権だと思っている。


無常にもこの正論は俺の心を抉るには最適解だった。


正直な話を言えば、俺は落ち込んでいる。


しかし、落ち込んでいる暇はない。


第一志望に落ちるなど就職活動では当たり前のことだ。だから俺がすべきことは決まっている。少しでも良い条件を手に入れるために行動をとることだ。


大袈裟ではなく生きていくために・・・


・・・だが心は正直だ。冬以降、まるで身が入っていないのがわかる。


・・・だが手を止めている暇はない



そんなこんなで今日も企業を調べては書類を書き、落選を繰り返している。


元々興味がなかったからだろうか、企業側も熱意のなさに気づいているのかもしれない。


金融、メーカー、食品、コンサル、小売、・・・


文系が受けられるものは全てみた。そしてできる限り書類を提出した。


繰り返し繰り返し・・・


日に日にメンタルが病んでいく。


疲れた。


落選メールにも慣れてきた。


そんな時、ふと目に入ってきた質問に思考が止まった。




「弊社に入社したらどんな仕事がしたいですか?」




ありふれた質問だ。もう何度見てきたかわからない。



いつもなら気にもとめず、機械的に記入していた質問だ。



・・・感情がピークに来ていたのかもしれない。



「ねえよ。そんなもん。」



自然と俺の口はこう嘆き、手では叫びを書き込んだ。




「やりたい仕事なんてありません。」



・・・稚拙だ


社会に対する一種の反抗だったと思う。

だからしょうもない、小学生みたいな思考をパソコンに、そこにある小さい社会に打ち込んだ。



もちろん、こんなものを本当に提出する勇気なんて俺にはない。


普段ならデリートしてまた考え直すに決まっている。



だがこの時の俺は、エンターキーを押した。


自分でも理解に苦しむ行動だ。

青ざめていくのが自分でもよくわかった。


・・・でも、この気持ちが誰かに伝わるならそれも悪くないかもしれない。


だが・・・



「383文字の不足です。」




俺の顔とは対照的な赤文字で表示されたその文字に、俺は思わず笑ってしまった。


どうやら必要な文字数に達していない文章には、親切に警告をくれるシステムらしい。



「・・・ギャグかよ」



俺の声は社会には届かない。


俺が苦しもうが、社会からしたらなんでもない出来事なのだと。

勝手に現実を突きつけられた気分だ。



提出の期限も迫ってきている。


結局俺は書いては消しを繰り返し、最終的にありきたりな、本に書いている定型文のような文章を書き、再度エンターキーを押した。




・・・5日後、届いた通知はお祈りメールだった。








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