第2話「理想の結末」
波乱といえば波乱なのかもしれない。
今回の新型ウイルスの影響で社会は目に見えて変化した。
世間はその変化を言い方にも悪い方にも捉えているし、客観的に見たらそれは正しいことだとも思う。
しかし、就活生にとっては・・・いや、俺にとっては悪い部分しか見えていなかった。
俺の目指したかった業界は、毎年就活生人気ランキング上位企業に名を連ねていたが今回に限っては圏外もいいとこだった。
しかし、その一部を除けば企業は普通に採用活動を行なっているし、極端に就職氷河期だという印象もない。本当に就職氷河期だと言われていた時代に生きた人間からしたら鼻で笑われる可能性だって少なくない。
それに、就活に限らず競争とは常に相対的だと思う。
俺が大変だと思っていることはみんなが思っている。
条件はみな同じだ。
そんなことを思いつつ、心のどこかで自分だけが苦労しているのではないかと思ってしまう。いや、そう思い込みたいと思っているのかもしれない。
俺だけがこんな不幸なのだと。
そう思ってしまうのはやはり俺がその“一部”を目指していたからだろう。
誤解されるかもしれないが、俺はそもそも就活に後ろ向きな方ではない。
むしろ大学の中では人一倍早く活動を始めていたと自負している。
自らが目指す将来のために行動を惜しむつもりは毛頭なかった。
だが歯車が狂い始める音はこの時から聞こえていた。
夏、大手旅行会社の大半は新卒採用の自粛を宣言した。
事業が傾いているのだ、当然の結果だ。
しかし全ての会社がそういうわけではなかった。俺にはまだ希望があった。
そして冬、採用を続けていた残りの企業が同じ道を辿った。
冷静に考えればこうなることは分かりきっていたはずだ。
俺の就活は、ただ逃げていたのかもしれない。
元々観光に興味があった。
将来的には人々に最高の息抜きを提供したい。そんな仕事を行いたいというそれなりに熱い思いがあった。そのためにの努力も大学在学中に行なっていた。
今思えば旅行が好きだったというただそれだけの理由だったのかもしれない。だが、俺にとっては将来をかけるのに十分な理由だった。
だが現状はどうだ。
こんな世の中で観光業は右肩下がり、当然コストのかかる新卒なんてかまっている時間はない。
もっともな理由だ。これ以上ないくらいもっともな理由。
俺自身も理解している。理解はしているが・・・
こればかりは理屈じゃないと思う。こんなことは言いたくないが、時代が悪いと言いたくもなる。
・・・だが腐る訳にはいかない。
まだ採用してくれていた企業にかけるしかない。
俺は夏から冬にかけてその企業のインターンや座談会に積極的に参加した。
俺はここに入りたかったし、入れるとも思っていた。
もちろん条件だとか、ボーナスだとか、そういう待遇が悪くなることは日を見るより明らかだった。
しかし、自分が好きなことを仕事にできるならと考えるとその条件は決して飲めないものでのないと思っていた。
俺にとって、自分が楽しいと思える仕事をするのが一番だと理解していたからだ。
だから周りにやめたほうがいいと言われても特に気にすることはなかった。
だが結果は選考が本格化する前に採用は中止。
・・・選考以前の話だ。
俺はこの時点で持ち駒を失った。しかしそれ以上に将来に対する希望を失ってしまった。
やりたい仕事を追求した結果がこれだ。
理想は理想のままで綺麗に散る。
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