咲きますように。
現在、内海春希
「泣くほどのことか!?」
先生は目を丸めた。 泣くほどのことなんですよ、思い出に縋って生きる俺には。ショウくんは何も知らないだろうけど。
早く止めなきゃ。困らせてる、迷惑だよ。ごしごしと拭い続けて目の周りが痛くなってきた時、急にショウくんが立ち上がった。
「しょ...、先生?」
ショウくんは真っ直ぐ俺を見つめて手を差し伸べた。おず、と少しだけ手を近づけたらぱっと掴まれ引っ張りあげられる。
そのまま何も言わずただ引っ張られた。歩くスピードが早くてついて行くのに必死だった。ただ前を見て歩く後ろ姿だけを眺めていた。
ピタリとショウくんの足が止まる。
連れて来られたのはいつも城から見下ろしていた裏庭の花壇の前だった。 ショウくんが好きだからと植えられた青い花。
春の風にそよそよと揺れる花達は壮観で、寄せては返す波のようだった。太陽に透かされ煌めく花弁が瞳に反射して心まで照らされる。
「どう?元気出た?」
「…うん」
ぎゅっと手を握り返してまた涙が溢れそうになるのを堪えた。
青い花達が所狭しと咲き乱れる様は、夢で見た景色に似てる。 今と昔の間に見た、青い花が咲き続ける夢。
夢の中では沢山の花に埋もれて息苦しいくらいだった。
ずっと、俺のこと思ってくれてるんだって嬉しかったよ。
この景色を一緒に見られて良かった。
ショウくんの方に向き直して、手を握り直した。いつもは恥ずかしくて目を見れないけど今だけは逸らせない。 パチリと一度瞬きをして小さく気合いを入れる。
「ショウくん。俺、ずっと前からショウくんのことが好きです」
ずっと、ずっと。好きだよ。
ショウくんは何か言いたそうな、言えなさそうな難しい顔をした。俺がショウくんでも同じ反応見せたと思う。
「急にこんな、すみません。俺なんか沢山いる生徒の一人でしかないのに。…その、伝えたかっただけなので」
ぱっと手を離して背を向けた。一歩二歩と少しずつその場から離れる。
あぁ、やだな。伝えたかっただけなんて言いながらちょっと泣きそうになる。また来世に期待か…。
「おい」
ぐんと腕を掴まれ引き止められた。ぐるりと振り返った時涙が一粒だけ飛んで行った気がする。
「自分だけだと思ってるのか」
真剣な、ちょっと怖い顔でショウくんが言う。 いきなりで言葉の意味を咀嚼できないでいると腕を掴んでいた手がすうっと下に降りて左手をきゅっと握られる。
ショウくんは掴んだ俺の左手をそのまま持ち上げて、そっと優しく、口付けた。
「…卒業したら返事をしよう」
珍しく耳を赤くして言った。今度はショウくんの方から離れて行く。
卒業したら返事…自分だけだと思ってる…。
「えっっ!!!??」
一気に体が熱くなった。熱気球みたくふわりと空高く飛んでいってしまいそう。
「待って!えっ、うそ!マジか!」
少しずつ遠ざかる後ろ姿を追いかけた。子供みたくはしゃぐ俺に落ち着けと宥める。
「青くん!俺、青くんが好きです!大好き!」
「…っ、さっきも聞いたよ」
それから何度も何度も好きだと伝えた。その度に青くんは期待させるような顔を見せた。
青くん、俺本当に青くんが大好きだよ。
いくつになっても手を繋いで一緒に満開の海を見ようね。
❁⃘
『花が咲く頃、君に伝えたいことがある。ただ一つ。何処で誰と生きようと。そこに私がいなくとも。君だけは幸せでいて欲しい。
君のこれからに、変わらず花が咲きますように。』
花が咲く頃、君に 風鈴 @wind_bell
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