これからに、


内海春希



 でも今には満足してる。


 ただ会いに行くきっかけが欲しくて集めていた課題も、勇気を出して数学準備室の扉をノックしたあの日も。これまでの俺には感謝しかない。



「あっつ〜、最近急に暑いですね…」


「だからって制服を着崩すのは見逃せないな。ちゃんと上までボタンを止めなさい」


 依田城、準備室に入り浸ってこんな風に話せるようになったから。


 
他の皆も着崩してるしなんならパンフレット通り着てる人の方が少ないのに。むっと口を尖らせると依田先生は机の上にドンと扇風機を置いた。扇風機の首をガクガクと下げ強風が俺に直で当たるようにする。これで暑くないだろうって。


「先生って…。や、何でもないです」
 



 先生陣の中で一番緩くて優しいって言われてる割に小言多いタイプだよなー。その辺昔と変わってなくて俺的にはめっちゃキュンって刺さるけど。



「明日も暑くなるらしいから、放課後気を付けろよ」

「え、明日何かあるんですか?」


 
そう聞き返すと先生はまた小言を言った。俺はちゃんと言ったぞ、またホームルーム寝てたのかと。

 
違うし。起きてたけど先生の顔見てて話入って来なかっただけだし。


「校内美化の日。美化委員は全員参加」


「あ〜、あれ…」
 



 一学期毎に1回設けられる校内美化の日。皆で教室の大掃除した後美化委員は残って他のところも掃除するやつ。

 依田先生が美化委員会担当って聞いて俺も委員になったけど、あれあんま好きじゃないんだよなぁ…。


「俺暑いの無理なんで、すいません」


「分かってて立候補したんだろう。ちゃんと参加しなさい」
 



 先生も一緒にするから。と甘い言葉を添えて俺を叱った。

 依田先生が絡むと何ともチョロい俺はまんまと引っかかり、軽くやる気スイッチを押されたりして。

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