君の
現在、内海春希
言葉に詰まりながら話した。
話があちこち行って分かりにくい説明だったと思う。それなのに長々と必死に話す俺は滑稽だっただろうな。
でも依田先生は一度も俺の話を止めなかったし笑わなかった。俺が話しやすいテンポで相槌をうって真剣に聞いてくれた。
話が終わったあと先生は「素敵な童話だね」そう言った。その顔が子供の夢の話を聞いてくれる親のように優しくて唇を噛んだ。
そりゃ先生から見たら俺なんてただのガキだよな。
…ショウくん、本当に何も覚えてないんだ。
産まれた時からずっと、会ったこともない人に恋焦がれて自分でも変だと思っていた。それがいつか見た夢なのか俺が勝手に作り出した妄想なのかも分からず苦しかった。
だから一昨年初めて再会した時は運命だと思った。
嬉しかった。
好きだという確信だけあったその人が実在してる。あの幸せな日々は嘘じゃなかった。夢でも妄想でもない。相変わらずショウくん格好良いな。やっぱり好き。
浮かれるには十分だった。それはもちろん俺だけじゃないと思い込んでた。
でも違った。
ショウくんは何も覚えていなかった。 ぼうっと見とれる俺に「新入生?入学式もう始まりますよ」って、距離のある言い方。 その後のホームルームも、授業も、面談も。他の生徒と同じようにされた。
覚えてなくて当たり前。俺の名前を知らなくても大丈夫。また会えたことが奇跡だから、俺は遠くから見てるだけでも。
そう言い聞かせるにはあまりにもショウくんが優しくて、この関係がもどかしくて。
人は忘れる生き物。忘れないためには繰り返すことが大切。だから課題を出す。 先生はいつかの授業でそう言っていた。
じゃあなんで俺だけが覚えてるんだよ。 ショウくんは俺の事繰り返し考えなかったの?何度も何度も好きになっていたのは、やっぱり俺だけだったの?
こんなことなら尚更ショウくんより先に生まれ変わりたかった。せめて男にはなりたくなかった。 こうして同じ時代に生まれてもう一度会えるなら、頼り甲斐のある年上の女性になって優しく抱きしめてあげたかった。
次こそは恋人になりたかった。
神様のばか。これでも本気で信じてたんだよ。
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