誰と
依田青
「失礼します。…入っても?」
「…ん?あぁ、うん。どうぞ」
驚いた。
昨日あんな風に飛び出して行ったからもう来ないかと思った。今日は参考書を抱えていた。教えて欲しいところがあると言う。内海なりにここに来る口実を考えたんだと思うと…いや、やめよう。俺が変に構えてしまう。
いつもと同じように方法を教えるだけで後は全部自分でする。問題を解く手元を見守っていると、「計算してる間は仕事しててください」なんて彼らしい言葉がとんできた。
「そういえば明日クラス発表か」
ドキドキだなぁと言うと内海は声も出さずこくりと頷いた。
俺が担当するのは理系クラス。特に数学が得意な生徒を集めたクラスだ。そこに内海もいる。
生徒への発表は明日の朝。皆誰がどのクラスに入るか気になってるだろうな。
「理系希望で提出してたけど本当に良かったのか?」
内海は何故?と言いたげに目をぱちくりさせた。
「いや。十分理系でもやっていけるとは思うが、内海は文系だろう」
いつも熱心に取り組んでいることはよく知ってる。できる実力があるなら本人がしたいことをすべきだ。けれど見てる感じ、というより成績が。文系の方が得意なんだろうなと。今更なお節介心が顔を出した。
「で、でも!文系だと先生の授業受けられないって聞いて、だから…っ」
内海は机の上で拳を作って前のめりになりながら言った。少し充血して潤んだ目で見つめられると思わず逸らしてしまう。
「…ありがとう。それと、そこ計算ミスしてる」
自分が今どんな顔をしているか分からなくて口元を手で覆い隠した。絶対に顔を見られないようにぐるりと体をひねる。
手元も確認せずちょいちょいと参考書を指さした。「あ本当だ」と呟く声と文字を消す音が後ろから聞こえる。
不覚にもときめいてしまった…。
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