ただ一つ。
依田青
不意に窓から風が吹き込み、机の上に置いたプリントが数枚ヒラヒラと舞った。それを拾い上げまた束の上に重ねてコーヒーが入ったマグカップを文鎮代わりに置いた。
課題の確認でもするか。 仕事の邪魔する風を追い出す為窓に手をかける。
自然と窓の外、花壇の方に目を向けた。花壇の前で一人の男子生徒が足を止め花を見ていた。左右を確認してからそこにしゃがみ花弁を指で撫でる。
春の真ん中で花を見つめるその姿から目が離せなかった。
しばらくして彼が立ち上がって振り返る。ゆっくりと顔を上げ、視線の先に立つ俺を見た。
バチッと目が合った瞬間花壇からあふれた花達が彼の足元いっぱいに広がった。一面青い花が咲き乱れる花畑になる、ように見えた。
でもそれは瞬きをすればすぐ消えて元の景色に戻った。 呆然としていた目に彼が映る。
平然を装いそこに立っている彼、内海に手を振ればいつものように小さく会釈だけして小走りで逃げられた。
その背中が見えなくなるまで目で追いかけた後窓の縁に手を置いて崩れるように項垂れる。 何だか変な感じだ。
もし俺が数学ではなく現代文を学んでいたら、この感覚を上手く言葉にできたのだろうか。
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