第8話 友達ってなんだ

4日後、じいじは亡くなった。老衰らしい。


事故にあってもピンピンしてるくせに突然いなくなるなよ。

数か月前には出る気配もなかった涙が、いつまで経っても止まらなかった。



それでも学校には行かなきゃいけない。学校の休み時間には左手で絵を描き続けた。

進藤桃花が時より心配そうに話しかけてくるが、平気なふりをした。おそらくじいじが亡くなったことはすでに知っているのだろう。


じいじが死んだショックと左手で書けない自分にイライラする気持ちで心が壊れそうになる。



「蓮見って、まさか美大狙ってんの?」


突然声が聞こえた。色白のいかにもイケメンって感じの男が、かがみ込んで俺の絵を見ながら言った。確か、同じクラスの佐伯実。


「えっと、まぁ、そんなとこ。」


濁しながら答えた。絶対に美大を諦めないとは決めたものの、イケメンに馬鹿にされるほどのメンタルはないぞ。ちくしょう。


「まっじかよ!俺もなんだよね!え、4駅先のとこ?だとしたら一緒だわ!え、利き手右だよね?左で練習してんの?めっちゃすごいじゃん!ちょっと見せてよ!」


予想外の言葉に思考が停止した。え、どういう状況よこれ。


気付けば周りには7,8人集まってきていた。


「初めて話すのにごめんな!俺佐伯。みのるでいいよ。」


「俺は遠藤!たかしって呼んでくれ!」


「僕松本。まっちゃんって呼んでよ。」


おいおいそんな急には覚えられないって、とかなんとか考えているうちに、すげーなとかサウスポーかよとか聞こえてくる。


飛び交う声の中、じいじの言葉を思い出していた。


『まず1つ目に、友達いっぱい作りや。友達は絶対人生を豊かにしてくれる。蓮はいい子やから、ちょっと素直になればすーぐ友達できるで。』


あの時は友達なんてと突っぱねてしまったが、友達を作ろうなんて考えたこともなかった。


「この絵、どうかな。」


みんなに聞いてみた。人に聞くのはこんなにも怖い事なのか。


「うーん、左手だからかちょっと斜めってるとこあるよな。」


「俺はこの絵、めちゃくちゃ好きだな。」


「7点」


他人に自分の絵を見てもらうのは初めてだった。怖いけど、あの時と同じあったかい気持ちになった。7点って言ったまっちゃんは許さん。


「俺、蓮見がこんないいやつとは思わなかったよ。」


「俺も俺も、いっつも顔怖いしさ。話しかけにくくて。」


「ごめん、顔怖いのは生まれつきで…」


「あと、進藤桃花さんと仲良さそうで許せない。」

え、なにまっちゃん俺の事嫌い?てか進藤と仲良いのバレてたのかよ。


その日から実や進藤達と放課後に絵の練習をすることが増えた。

母さんもうすうす感づいているのか、ニコニコしながら話しかけてくる。


「蓮、友達できたの?」


「うっさいほっとけ。」


「よかったわ~、おじいちゃんも友達できたかっていっつも私に聞いてきて。本人に聞けばって何回も言ったんだけどねぇ。」


そうだったのか、俺になんて興味ないと思ってたのにな。今になって、どうしてもじいじにお礼が言いたくなった。どうして大事なものは失ってから気付くのか。


仏壇にある厳格な顔のじいじの写真を見ながら、涙をこらえた。



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