第5話 2度と訪れない理想の未来
どれくらい眠っていたのか。そもそも俺は生きているのか。
意識を取り戻したのは3日後の病院だった。最初に目に入ったのは泣きじゃくる母さんの顔だった。
「蓮、起きたのね蓮!」
抱きしめられている感覚はあるが、包帯まみれの右腕の感覚は全くないことに気がついた。
「母さん、俺」
「生きてて本当に良かったわ!本当に良かった!」
泣きじゃくる母さんの後ろにじいじがいるのも見えた。
「今、お医者さん呼ぶわね」
なんとなく予想はしていた。いや、予想せずにはいられなかった。そしてその予想は的中していた。
「恐らく、もうお子さんの右手は自由に動かせないでしょう。」
ズンっと心臓が重くなるような感覚の後、寒気と吐き気が全身を襲い脳内が痺れた。
多分母さんも同じだったと思う。次の瞬間にはさっきよりも母さんは泣いていた。
トラックに突っ込まれた瞬間にとっさに右手で体を守ったために、今右手の神経はぐちゃぐちゃになっていた。
「母さん、先に家、戻るね。着替えとか持ってこなきゃ。」
声を震わせながら、母さんは病室を出た。部屋には俺とじいじの2人だけになった。
「蓮、お前、夢とかあるんか?」
突然じいじが聞いた。こんな風にじいじに質問されるのは初めてのことで、動揺してしまいつい口が滑ってしまった。
「あぁ、絵とか、描きたいなって。美大とかで」
言って後悔すると同時に右手に視線を落とし、その夢がもう2度と叶わないことを悟った。途端に冷静になり、涙が止まらなくなった。美大に行きたかった。色々な絵を描いて絵に関する仕事に就いて…
そのすべてがもう訪れない未来となってしまった。
「そうか。ええ夢や。とにかくやってみぃよ」
「描けるわけないだろこんな手で! 家族でもないのに知ったようなこと言うなよ!!」
病室で泣きながら声を荒げてしまった。優しさで言っていることに無性に腹が立った。
「すまん、蓮。」
心なしか寂しそうな顔でじいじは呟いた。じいじに謝られるというのも初めての経験で信じられなかった。
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