第4話 ぐちゃぐちゃになった体
「蓮!ねぇ蓮!」
やべっ、ボーっとしてた。今呼ばれたような。
視線を前に移すと、少し怒ったような顔で進藤桃花が立っていた。
「ボケっとしてどうしたの?蓮ってたまにそういう時あるよね」
「ほっとけ。で、何か用かよ?」
「進路相談、乗ってほしいんだけど。」
俺と視線を合わせないまま、言いにくそうに進藤桃花は続けた。
「ずっと前から夢があるの。大きな夢。アイドルっていう。」
まさかビンゴだったとは。驚きはなかった。
「でも自信がないの。顔にも歌にも自信があるわけじゃないから。それでも、みんなを元気づけられる人に、私も、なりたくて」
泣きそう、いや少し泣きながら真っ赤な顔で進藤桃花は話した。
「なんでその話を俺に?」
「蓮ならはっきり言ってくれると思って。私には無理だと思うなら言ってほしいの。」
いつも見慣れた自信たっぷりの進藤がそこにいなかったことに少しイラついてしまった。
やりたいことはとことんやり詰める。それが進藤だろ。そこが俺は好きだったのに。
「とにかく、やってみろよ」
無意識に言っていた。いった瞬間に、こんなに嫌いなじいじと同じセリフを言っている自分に驚きが隠せなかった。
「そうか。そうかも。よし、調査票出してくる!ありがとう蓮!」
途端に元気を取り戻した進藤は走って教室を飛び出した。同時になんとなく気付いていた。
俺が美大に行きたいと言えないのは母さんのこともじいじのこともあるけど、進藤と同じで自分自身がビビってるんだ。美大で通用しないのが、お前には向いてないと言われるのが怖いんだ。
進藤にはやってみろとか言っといて、俺が挑戦しないのもダサいかな。
美大行ったら進藤に告白でもしようか。なんてな。
乱暴に第一志望の欄に美大の名前を書き込み、教卓の提出用のカゴに入れた。さっき提出した裏返しの進藤の調査票を見ると有名な芸能プロダクションの名前が丁寧に書かれていた。
美大と書いたのはいいけれど、今まで就職とか書いてきたからなんて先生に言われることやら。進路決まってるやつもちらほらいるってのに、忙しくなるなぁ。
帰り道、歩きながらそんなことを考えていたが、心はなんだか晴れ晴れとしていた。
帰ったら母さんに相談してみよう。応援してくれるだろうか。きっとしてくれるよな。
そんな浮かれた気持ちだったからか、後ろから歩道に乗り上げてくる大型トラックに気が付かなかった。
固いものに触れる感触。ぐちゃぐちゃに砕かれる体の感覚を最後に意識を失った。
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