第3話 俺と嫌いなじいじ

意外だったな、進藤のことだしてっきりアイドルになりたい!とか言い出すのかと。


校門に着くなり俺は進藤と離れて教室に向かった。クラスは同じだが俺みたいな陰キャと歩いてるのを見られたら進藤の株が下がるってもんだ。


教室に入るなり、黒板に大きく【進路希望調査票 提出今日まで】の文字が目に入った。

忘れてた今日までかよ。それで進藤の奴聞いてきたのか。


素直に美大と書くべきか、でもそんなこと誰にもバレたくないしな。悶々とした気持ちのまま窓際の一番後ろの席に座る。俺はこのラノベ席ともいえる場所が気に入っている。みんながまぶしそうだったら自らカーテンを閉めなければいけないのが玉に瑕だが…


朝のSHRでも進路希望調査票の提出を念押しされた後、いつも通りの日常が過ぎていった。

今日の放課後に残って調査票出さなきゃやばいな。1人で購買のパンをかじりながら考えた。今日俺パンしか食べてなくね?


くだらない授業をすべてこなし、放課後の教室で真っ白な調査票を見ながら熟考する。


体育の授業の2人でペアを組ませる制度なくせよ。毎回ペアの奴に嫌な顔をされる身にもなれよ、と今日の5時間目の余計な思い出を思い出しながら動かない右手に嫌気がさす。


第一志望に美大と書けない理由は2つ。


1つはシングルマザーの母さんに迷惑をかけたくないから。今俺、母さん、じいじの3人で暮らしていて収入は非常に厳しい。高校生になったらバイトをすると言ったのに、母さんは猛反対して、いまだにできずにいる。父さんは俺が小学2年の時に事故で亡くなった。じいじと住むようになったのもそのあとからである。


2つめに美大に行く夢を、大嫌いなじいじに知られたくないから。


俺とじいじは血がつながっていない。


死んだばあちゃんが母さんを産んだ後に再婚したのがじいじなのだ。ばあちゃんとじいじの年の差は相当なものである。


なんで俺がここまでじいじを嫌っているのか、自分でもわからない。だが、怖い顔で昔からなんでも挑戦させてくるじいじが嫌いだった。


自転車になかなか乗れなかったときも、テストの点数がダメダメで勉強を諦めたときも必ずじいじは「とにかくやってみぃよ」と低い声で俺に声をかけた。笑顔を全く見せない仏頂面で。




家族でもないくせに。心のどこかでそう思っているのかもしれない。

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