第2話 誰にも言えない夢

あれから2週間が経った。じいじは家でピンピンしている。死ぬ死ぬ詐欺じゃねぇか

よクソジジイ。


「蓮、学校遅れるよ。大事な時期なんだから」


母さんの声が聞こえる。俺は自分の蓮見蓮という名前が嫌いで仕方がない。なんで同じ漢字2回使っちゃうんだよ。じいじは蓮見嶺五郎。長男のくせにどっから五郎って名前を付けられてんだよ。


永遠に続いてほしいと思っていた夏休みも終わりを告げ高校とかいう最悪な収容所に行かなければならない。朝食の食パンをかじり終えると学校指定の真っ黒いカバンに教科書を詰め込み家を出た。


「いってらっしゃい」


ボソッとがさがさの声でじいじがつぶやいた。俺はいつも通り聞こえないふりをした。



高校3年にもなると受験だ就職だと本当にうるさい。○○大学行きたい! ○○に就職する!などとでかい声でしゃべっている奴が本当に嫌いだ。周りの人間の卒業した後の話なんて知るかよ。

どうせ卒業した後にやっぱり高校最高だった…とかSNSにアップすんだろ。SNSやってないから知らんけど。


そんなことばかり考えているからか、俺には友達と呼べる人は1人もいない。唯一呼べるとしたら、


「おはよ、いつも通り顔面怖いね」


朝からカーフキックかましつつ挨拶をしてきたこの進藤桃花くらいか。家が隣ってだけだが幼稚園前からの幼馴染で、なんだかんだ高校まで同じになった。


「はいはい、今日も顔面だけは可愛いですね」


カーフキックで負傷した右足を引きずりながら皮肉を込めて答えた。そう、進藤桃花は顔面だけ見れば可愛い。すらっときれいで長い黒髪。大きな目、可愛らしい口。はたから見ればアイドルの卵のようにも見える。空手で全国大会さえ行ってなければね。


「顔だけってどういう意味よ」


「そのまんまだろ、空手で全国行ってカーフキックかますやつなんて可愛くねぇ」


「残念、全国は全国でも8位入賞です~」


「ほんとに残念だよ!そりゃ痛いわけだわあほ!」


まさか8位までいっていたとは初耳だった。恐ろしいやつ。昔はもっと可愛らしくなかったか?


「そういえば進路、決めた?」


急に神妙な面持ちで進藤桃花がつぶやいた。


「いや~まぁぼちぼち。進藤は?」


美大で絵を描きたいなんて、生まれてから母にすら1度たりとも口にしたことのない本音を濁しながら聞いた。


「私も、ぼちぼちなんだよね」


進藤桃花は寂しそうに笑った。

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