大嫌いなじいじに言われた3つの言葉

白野 ケイ

第1話 さようならじいじ

ピッピッピッ

病院に一定のリズムで心電図の音が流れる。

8月28日、嫌いだったじいじの命が、今消えようとしている

俺はじいじに何かしてあげられただろうか。戦争も経験しているじいじはもう90歳を超えている。3日前、都内で飲酒運転による交通事故に巻き込まれたじいじは緊急搬送され眠り続けている。即死でないのが奇跡らしいが、「嶺五郎さんの命は持って今日までです」と医師に宣告された。

下がっていく脈拍、白くなる顔。人間が死ぬ瞬間を見るのは初めてだな。

不思議と涙は出なかった。まぁ嫌ってるし当然っちゃ当然か。

指が動いた気がした。まだ耳とか聞こえてんのかな。ふと、「なぁ、じいじ」と声をかけてみる。普段自分から話しかけないくせになんでそんなことをしたのかはわからない。まぁ聞こえてるわけないよな。

だが、今度は確実に両手が動くのを視認した。まさか、意識が戻ったのか?話せるのか?

うっすら瞼を開けたじいじは、か細く涙ぐんだような声でつぶやいた。

「わし、まだ死なんかも」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る