11.ひねくれたがりの空挺騎士
合図を待つ。
通信機の向こうで、ロイが息を呑む音。
一拍の後、突入の号令がかかった。
誘拐された第一皇女シドレッタ殿下を連れ、
腐肉をあさる羽虫のように八方を包囲して、中へと入り込む。
僕はその黒い制服を遠くで眺めながら、リグレットに
動き始めたエンジンを温めながら、目標の建物を下方から見上げる。
数秒後、僕の視線の先――床下をくぐるように一騎の
ヴェンデッタたちが目を離した隙を突いたのだろう。
分厚い布に覆われ騎馬の後ろにくくりつけられた荷物が、ごそごそともがいている。
僕はアクセルを回し、騎馬を追った。
「――逃がす訳がないだろ!」
走り出したリグレットに、先を行く騎馬が気付く。
その振り向いた横顔で、僕の方も認識してしまった。
――こいつ、あのパレードのとき逃がしたヤツだ。
ヘルメットに覆われた口元が、にやりと笑った気がする。
直後、リグレットの出力が最高出力へ到達する。
加速に背中を押され、あっという間に騎馬の尻が近づいてくる。
目の前で荷物が陸に打ち上げられた魚のように跳ねた瞬間、僕は手を伸ばした。
――が、指は届かず宙を掠める。
路地へはいり込んだ騎馬の動きは、まるでこの前の再現のようだった。
舐めやがって。
僕のリグレットは小回りがきかないと思ってやがる。
小刻みに尻を振りながら、誘うように僕を置いていく。
少しずつ離れていく距離に苛立ちながら、僕はちろりと唇を舌先で濡らした。
「なんの対策もしてないと思うな」
僕はハンドルの手元に突貫でつけてもらったボタンを押す。
ワイヤーアームが射出され、前方の壁に突き刺さった。
今回、リグレットに追加した特殊機構だ。
認める。
先日の自分の動きは……反省した。
まだ不足しているものが、僕にはある。
だから――足りないなら、足せばいいってだけだ。
直後、突き刺さったワイヤーの遠心力で、リグレットが急回転する。
目まぐるしく振り回される、瞬間のタイミングを見計らってワイヤーを回収――離脱。
急転回で壁を回った僕を、バックミラーで確認した前方の騎馬が、たぶん舌打ちをした――ような気がした。
いい気味だ、と言ってやりたいが、正直こちらにもそんな余裕はない。
高速で曲がるための機構だけど、転回が人間の視界を超えてるし、ハンドルがワイヤーに持っていかれて死にそう。
ワイヤーを回収するタイミングを間違えれば、壁に激突してリグレット諸共落ちることになる。
何度もやりたい技じゃないが――
路地裏の入り組んだ道を前方に眺めながら、僕は大きなため息をついた。
通信機の向こうでロイが微かに笑う声がしたが、答える気にはなれなかった。
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